3.冒険者ギルド
アイリスとの出会いから数日がたった。とりあえず森を抜け、北の町カラカラに向かう。途中の森や街道では運よく魔物に出くわさなかった。初めの見立てどおり、アイリスは旅慣れていない感じだったのでできる限りフォローしながらカラカラにたどり着いた。
「そんなに大きな町じゃないんですね」
「そうだね、カラカラは大きな町に挟まれた中継地点みたいなものだから、そこまで大きくないかな」
カラカラはいわゆる宿場町だ。本当はこの町にそんなに用事はないのだが、旅の資金が心もとない。少しここを拠点として資金調達をし、北西の町へ向かうことにした。
「この町で資金調達するんですよね?どうするんですか?」
「そうだね。冒険者ギルドでクエストを受注して資金調達したいかな」
「冒険者ギルド!私、はじめていきます!色々なクエストを受注してお金を貰うんですよね?」
アイリスは目を輝かせていた。輝かせてくれる分にはかまわないのだが近い……
そんなアイリスに冒険者ギルドについて、説明しながら歩いていると目的に到着した。
ぎぃと扉がきしむ音とともに中に入る。昼前だからか客はまばらで遅めの朝ご飯を食べる者もいれば、さっそくクエストを攻略したのか酒盛りを行っている者までいた。
「なんだかお料理屋さんみたいですね」
アイリスがそういうのも無理もない。ギルドの主な仕事はクエストの発注なのだがそれと付随してほぼ必ず、飲食店も行っている。クエスト攻略→一杯やりたい→ならギルドでやればいいじゃないとかそんな理屈だ。確かに合理的であり、それが各ギルドごとの特徴でもあった。冒険者の中には様々なギルドで飲み食いし、それをランク付けして本にしている人もいるという。それを聞いた時は、色んな商売があるものだと感心したものだ。
「それじゃあ、まずはギルドカードを作ろうか。アイリスは初めてみたいだし」
「わかりました。これで私も冒険者デビューですね!」
ウキウキなアイリスとともにカウンターに行く。
「あら?初めての方ね。いらっしゃい」
「はじめまして、クエストの受注とギルドカードの作成をお願いしたいんですが」
「あなたのギルトカードですか?」
俺の慣れた雰囲気に受付嬢は戸惑っていた。そりゃそうだ。前のパーティの時はこういった雑務は全て俺がやっていたから。
「いや、彼女の分です」
アイリスは少しかしこまり軽く会釈した。
「わかりました。ではこちらの書類に必要事項を記載してください。ただ、申し訳ありませんがクエストの受注は明日以降になります」
「どういうことですか?」
「この町の冒険者ギルドは設備が古くて、登録するのに1日かかっちゃうんです。申し訳ないですけど今、登録すると明日の朝にカードが発行される形になります」
そういえば、都会以外の冒険者ギルドはリアルタイムでギルドカードを発行できないって聞いたことがあるな。少し予定が崩れる。うーん、今日はとりあえずギルドカードの発行をお願いして宿屋で一泊するか。資金調達したいために寄ったのに失敗だ。
「これを書いたらいいんですか?」
「そうですね。あちらのテーブルを使って書いてください」
「はい、じゃあ私は書いてきますね」
アイリスは受付嬢から紙を受け取り、近くのテーブルで記入し始めた。ついでに酒盛りをしている連中が騒ぎ始めた。
「それであなたはどうします?」
「そうですね。クエストの確認をしたいです」
「わかりました。ではギルドカードをお願いします」
言われたとおりにギルドカードを手渡すと受付嬢がいつものとおり、台の上にのせ確認する。
「ヘルムートさんですね。レベルが改定されて4になってますね」
パーティを追放されたせいでかなりレベルが落ちていた。クエストの成果はほとんど僕じゃなかったから仕方ない。また少しずつレベルを上げていこう。資金調達ならレベル4でも十分だ。
「それではレベル4のクエスト一覧です。受注したいクエストはありますか?」
一枚の紙を受付嬢から渡される。そこにはレベル4までで受注できるクエストが一覧になっている。とりあえず、アイリスと相談しながら、受注クエストを決めようと思う。受付嬢には少し考えると伝えて、アイリスのテーブルに座った。
「書けた?」
「だいたい書けました」
アイリスはニッコりとほほ笑んでいた。少しドキッとする。この笑顔、慣れない。
「それじゃあ、どのクエスト受けるか一緒に考えようか」
「はい!初めてのクエストなんでどんなクエストがあるのか楽しみです」
アイリスとともに紙を見ながらああでもないこうでもないと言いあった。1つのクエストでがっつりいくか、簡単なクエストを多数こなしてコツコツいくべきか。なんとも悩ましい選択に悩んでいたら一人の酔っぱらいが乱入してくる。
「お前等、クエスト探してるんだろ。ろくなクエストないだろ」
ビールジョッキ片手にガハガハ言いながら禿のおっさんが語りだした。邪魔だけど確かにろくなクエストがない。情報収集をするか。こういうのはあまり得意ではないが演じればできないこともない。
「何か理由があるのか?」
「おう、兄ちゃん。このあたりのクエストの美味しいやつは全部、百識がもっていってるからな!」
「百識?」
「最近出てきた100のスキルを使う女だよ」
「100のスキル?そんなことがありえるのか?」
「まあその辺は眉唾だわな。ただ、この辺りのクエストは根こそぎやられてるんだわ!おかげでこの辺のクエストは残りカスしかなくてなぁ」
おっさんが急に泣き出した。泣き上戸か。泣いてるおっさんを別のおっさん連れて行った。情報収集をしようにも大した話は聞けなかった。ただ、百識とかいう凄腕の冒険者がこの辺りの美味しいクエストを攻略しまくっているらしい。確かに、あまりコスパのいいクエストがないなと思っていたがそういうことだったのか。納得できたがそれはそれで困った。
「困りましたね。あのおじさんが言うにはいいクエストはないんですよね?」
「そうだね。簡単で報酬も低いクエストか極端に難易度が高いクエストしかない感じかなぁ」
二人で頭を悩ませた。二人じゃ高難易度のクエストは攻略できないし、かといってお使いクエストと俗に言われるような低難易度のクエストをこなしても資金調達の目的は達成できない。冒険慣れしていないアイリスに高難易度のクエストに連れていくわけにもいかない。なにより俺だけで何とかなると思わない。やはり低難易度しかないかと思考がまとまりそうな時だった。
「あらあら、お困りですか?」
「え、だれ?」