2.アイリス
とにかく泣いた!もう切り替えよう!
数時間前のことだが考えていても仕方ない。気づけば傷心のまま森に入ってしまい、戻るにも進むにも微妙な距離だ。仕方ないので今日はここで野宿するかと思い、野営セットを出した。
ルークの言うとおり、俺は荷物持ちだからな、こんなところで役に立った。
自傷気味にそんなことを思いながら、火を起こす。これで魔物はやってこない。さてどうしたものか。小腹が空いた。何か持っていたかなと荷物を漁るとパンと干し肉が出てきた。
これで今日の晩は持つなと思ったときに近くに悲鳴が聞こえた。
なんだ。今の悲鳴は?気になるが行くべきなのか悩んだ。俺が行ったところで何になるんだ。戦えないんだぞ、俺は。そんなことを考えていた。
それじゃダメだ!
頭に否定の文字が走る。そうだ、今まではそうやって言い訳して関わってこなかったんだ。それでパーティを追放されたんだ。もう、失敗したくない!
気づけば、悲鳴の方へ走っていた。どこだと辺りを見回すと一人の女の子は走っていた。
「助けてください!」
女の子が助けを求めてる。頑張らないと!
三頭の犬の魔物が走ってくる。倒せるか心配だった。でも、俺だって、S級パーティとして今まで戦ってきたんだ!そう自分に言い聞かせて、震える足を叩く。
動け俺の足!
そう思いながら、重さを変換した。俺にはこれしかできないから。いつものように魔物三頭を重くする。さっきまでと違って急に動くが遅くなる三頭。少し戸惑っているようだった。
そしていつもとは違い、自分を軽く変換した。これで素早く動けるはず。ルークみたいにはいかないけどこれで戦うしかない。
腰の短剣を抜き構える。手が震えていた。
初めての前線。でもやるしかない!
走った、今までと違い体が軽い。いともたやすく一頭を仕留められた。
犬の魔物は驚いて態勢を立て直そうとするが、とにかく遅かった。もう一頭も簡単に倒す。
あとの一頭は恐れて逃げていった。追うかとも思ったが、わざわざ追って倒しても仕方ないなと思いやめた。
「つ、強いんですね」
女の子がボソッとつぶやいた。自分でも驚いた。まさか自分が前線で魔物と戦えるとは。そう思いながら短剣をしまった。
「ありがとうございます」
女の子が駆け寄ってきた。ドキッとした。こんな時、なんて話したらいいんだろう。
「怪我はない?」
これぐらいことしか言えなかった。
「ありません。魔物に襲われている時はどうなるかと思いました。本当にありがとうございます」
クリーム色の髪がふわっと揺れいい匂いがする。目は髪と同じ色で透き通るように綺麗だった。
「どうして、こんなところに一人で?」
思ったことが口から出た。こんな時間に女の子が一人でなんてどう考えてもおかしい。
「ルーメンスに行こうと思って旅に出たんですが、森で迷ってしまいまして」
彼女は少し涙目で答えた。もしかして一人でルーメンスまで?ルーメンスと言えばここから北に向かい川を越えて、さらに先だ。。簡単にいうとかなりとここからかなり遠い。女の子一人でいけるような距離ではないのでは?
「とりあえずここじゃ危ないから、俺の野営ポイントに行きます?」
気づけば、二人を照らすのは木々から漏れる月明りだけだった。明かりもないし魔物が味方を引き連れて戻ってくるかもしれない。
「いいんですか?」
「このまま一人にするのもね」
「ありがとうございます!」
パッと表情が明るくなった。笑顔がまぶしい。
二人で歩きながら少し話した。彼女の名前はアイリス。女の子の一人旅で、旅には慣れていない様子であり、旅の知識についてもあまりなかった。こちらの話も伝えるがさすがにパーティを追放された話はしなかった。まだ人に話せるほど傷も癒えていないし。
野営地に帰ってくると、幸い火は消えていなかった。さすがに何度も火を起こすのはめんどくさいのでよかった。適当なところにアイリスは座り、特に食料を持っていないそうだったので、俺の食料をわけてあげることにする。困った時はお互い様だ。
「それでアイリスはなんでルーメンスへ?」
干し肉を食べながら聞いた。
「ルーメンスに妹がいるんです。どうしても会わないといけなくて……」
少し物悲しそうにアイリスは言った。何か話題を変えないと、と少しきょどっていると自分でも思わない言葉が口から出た。
「なら一緒に行く?」
「え?」
思わず聞き返すアイリス。やってしまったと思った。いきなり見ず知らずの男にルーメンスまで一緒に行くなんて言われたらそりゃびっくりするよな。ここからルーメンスまでかなりの距離があるし……
「いいんですか?」
アイリスの言葉が一瞬、理解できなかった。だって自分なんかと一緒に行くはずがないと思っていたから。つい数時間前にパーティを追放され、役立たずだと改めて認識したから。そんな自分と……
なぜだか少し涙が出そうになった。
「もちろんだよ。ルーメンスまでよろしくね」
「ありがとうございます!こちらこそよろしくお願いします」