ランドセルの中には夢いっぱいの…
「ふんふん、ふふ〜ん♪」
これはとある冬の日の夕方のこと。大学2年生の俺、渋川源九郎は、小学4年生の従弟である渋川進と一緒に、俺の住む家へと帰っていた。
ちなみに、進の両親はしばらくイギリスに海外出張に行っている。そのため、進の通う小学校に近い場所に一人暮らしをしてる俺が、自動的に彼の面倒を見る事になったのだ。
しっかし、鼻歌を歌って嬉しそうに笑う進を見ると、こっちまで嬉しくなってくるなぁ…。
「なぁ、進。今日はいいことでもあったのか?」
「うん!今日は学校のお裁縫クラブで可愛いお洋服作ったの!だから、ゲンちゃんに見せたくてランドセルの中に入れたんだぁ!」
「おお!それはすごいなぁ!」
「えへへ。僕ね、将来はデザイナーさんになって、女の子達をいっぱい喜ばせたいんだ!」
…へぇ〜…これはおったまげた。もう既に夢を決めて、それに向けて走り出しているだなんて…。
昔の俺は、ただただ『親の期待に応えないと』と思って、勉強しかやってなくて、ランドセルの中はいつも教科書とノートでパンパンに膨れ上がっていた。だから夢なんて持ってなくて、流されるまま大学生になった。
でも、進のランドセルの中には夢が沢山詰まってる。…いいなぁ…。俺もあの日に戻れたら、夢を追いかける小学生になれたんだろうか…。
「…でもね。実は僕、ゲンちゃんが羨ましくて仕方ないんだ」
「ん?どうしてだ?」
「だって、ゲンちゃんは大人だもん!たっくさん勉強して、たっくさん知識を持ってる。『知識があると、なんでも出来るんだよ』って前にお父さんが言ってたんだ。だからきっと、ゲンちゃんなら、すぐに何にでもなれるよ!」
「…進…」
「…はぁ…。僕が成人するまであと8年、かぁ…。それまでたっくさん勉強して、絶対に夢を叶えるね!」
…うん。そうだな、進。その通りだ。
俺は優しく微笑んで頷き、進の頭をわしゃわしゃと撫でた。
あと約1年程で、俺は就職活動をしないといけない身になる。でも、まだ1年もあるんだ。きっとそのぐらいの時間があれば、俺も叶えたい夢を見つけられるはずだ。
そしていつか、進のランドセルのような、夢が詰まった俺だけの鞄を手に入れるんだ!
そう思いながら進の屈託のない笑顔を見つめつつ、俺はいつか来る明るい未来に向けて決意を新たにしたのだった。
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