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第四十五話、『キミが刻む終焉神話』

『世界連合』編 【3/4】

 ルナは俯いたまま反論しない。

 反応も見せず、ただ立ち尽くすだけだ。


「……ふ、ふざけんなよ! 世界を滅ぼすなんて、なんでルナがそんなことしなきゃならないんだよ!」

「勿論、彼女の意志じゃない。あくまで世界を滅ぼすのは『神』であり、彼女自身は『器』に過ぎない。その片鱗は一度も見られなかったのか? 例えば、自我を失い暴走したりなどは――」

「そんなこと……ッ!」

「あったのだな。なら尚更危険な状態だ。次に暴走すれば、もはや誰にも止めらないかもしれない」


 炎龍との戦いで、ルナは暴走して僕を攻撃した。

 でもあれは『龍化』を制御できなかったからだと、ルナは言っていた。


「なあ! ルナも何とか言ってくれよ!」

「……ううん。多分、あの人が言うことは正しいよ」

「……は、はあ? こんなときに冗談言うなよ! ルナらしくもない!」

「ありがと。でも、もういいんだ。……たまに夢で見るの。私が大勢の人を淘汰し、破壊の限りを尽くすところを」


 ルナは混乱している。

 敵対心丸出しで睨まれ、悪いように考えてしまっているんだ。

 誘導尋問だ。洗脳といっていい。全くふざけている。


「『神』――我々が《世界を滅ぼす意志(ロキ)》と呼ぶものは、所謂寄生虫のようなものだ。時間とともに力を増し、器が抑えきれなくなると溢れ出し、思考を染め上げ、身体を乗っ取る」

「いい加減にしろよ!」

「無尽蔵の魔力と、莫大な魔法知識を有した、人智を超越した化け物。聖域が産み落とした、まさに終焉を告げる『破壊神』だ」

「だから! いい加減にしろって言ってんだよ! ――ルナ、もう帰ろう!」


 ここにいちゃいけない。

 そう感じてルナの手を引き、部屋を出ようとする。

 しかし、ルナは立ち尽くしたまま動こうとしない。


 そして扉には、杖を握りしめたスクルドが立ち塞がっている。


「いつまで無知でいるつもりだ、ルノア・アルカス。君が彼女の封印を解いたことで、世界は今、再び滅亡の危機を迎えているんだぞ」


 『貴様が計画を進めたのだ』『本来、あと数千年は起こらない予定だったが、キミが早めてしまった』


 頭の中で断片的なピースがハマり始める。

 なんだよ……皆して、ルナを悪者にしようとしてる。


「はあ……少し昔話をしようか。今から実に4000年前、ある少年に神託が下った。何故その少年が選ばれ、聖域と接続できたのかは分からないが、結果的に少年は神に等しい力を得て、世界を纏め上げその頂点に君臨した」


 アルカディア王の記憶、アリストリアの歴史。

 今から明かされるのは、僕がずっと求めていた真実。

 なのに……どうして、心が踊らないんだ。


「アルカディア王は後に家庭を築き、大勢の子どもたちに囲まれた。王宮での暮らしは何不自由のない幸せに包まれていた。

 しかし、彼は永く生きすぎてしまった。傍で支えてくれたかけがえのない妻を失い、大勢の子孫たちが時の息吹に呑まれて消えていった。故に、彼の王は孤独という大病に侵されていた。

 やがて彼は、亡き妻を生き返らせ、不老不死にしようと考えた」


 不死魔族のユシィですら、孤独には耐えられなかった。

 一人の人間が、次々と子どもたちに先立たれる苦痛に耐えられるはずがない。


「アルカディア王は、そのために聖域に接続しようとした。世界の真理と莫大な魔法知識が眠る『聖なる禁書庫』には、自分を不老不死にしたように誰かを生き返らせる方法くらいはあるはずだと。

 時は経ち、研究は大いに進み、『次元の扉』が造られた。聖域を開くには、三つの扉を正三角形上に配置する必要があった。常に正確な正三角を描くために、座標を移動できる『駆動要塞』が造られた。

 そして三つの扉を接続し、三次元的に陣を描くための装置――それが三角形の中央上空を浮遊し続ける『天空神殿』という訳だ」


 アルカディア王が『駆動要塞』と『天空神殿』を造った理由。

 確かに、四つの内の二つが常に移動することができるなら、四つの位置関係は崩れない。


 また、ピースがハマる。


「しかし、そこまでしても聖域には接続できなかった。たった一人を生き返られせるという、ちっぽけで私利私欲の塊である願いに、聖域は応えなかったんだ。だが、システムは正常に働いていた。それを、ある男が悪用した」


 聖域は何でも願いを叶える便利な道具でなく、世界の命運を左右するほどの強大な意志にしか応えない。


「『世界を滅ぼす』という意志に、聖域は応えた。その男は願いの代償に聖域の内部へと引きずり込まれ、代わりに《世界を滅ぼす意志(ロキ)》はある『器』へと宿った」

「……それがルナだって言うのか?」


 しかし、なんでルナだという疑問が残る。

 聖域を開いた男でも、アルカディア王でも龍神でもなく。


「そして、聖域を開いた男。――そいつの名は、『太陽龍帝』アレス」

「…………嘘」


 告げられた名前に、ルナが反応した。

 驚いたように、悲しそうに、目をカッと見開いた。


「十二騎士が一人。四代目『龍神』の息子。――君の実の兄だ」


 一人娘だと言っていたから、兄弟はいないとばかり思っていた。


「そっか……だから私なんだ。兄さんは、私の事許してなかったんだ」


 ルナが意味を含んだ言葉で薄く微笑む。


「でも、アレスは努力家で、いつか父さんを超えるんだって一生懸命で。それなのに、なんで……世界を滅ぼそうだなんて」

「さあな。だが、君たち兄妹が世界を終わらせたのは事実だ。だからその責任をとって、龍族全体で《終焉を刻む者(ロキ)》と戦って絶滅したんだ」

「――ッ!! その口を閉じろ!!」


 この世界に龍族がいない理由。

 その理由がルナだなんて、あまりにも残酷すぎる。

 しかし僕の怒号なんて気にも留めず、ゼクスは話を進める。


「そして滅亡をかけた神に背く戦いは、七日間とめどなく続いた。そしてアルカディア王は聖域に接続して、六人の命と引き換えに《ロキ》を封印した」


 聖域が生み出した『神』を封印するために、再び聖域と接続する。

 『世界を守る』というアルカディア王の意志に、聖域が応えたのだ。


「その後、【継承】によって記憶は他の者へ受け継がれた。二代目アルカディア王は、《ロキ》の封印に使われた『王家の紋章』を再利用して『次元の扉』を封印した。そして『鍵』となる五つの神器に、残された十二騎士を英霊として宿らせた」


 聖域を開いたアレス。世界のために命を賭した五人。神器に宿る英霊となった五人。そしてルナを加えて十二人。


 また、ピースがハマる。


「時は経ち、三代目が生まれる。三代目は、いずれ復活する《ロキ》に備えて、神を殺すための武器――『神滅刀』を生み出した。そして奴らに奪われないために、聖域の中に封印した」


 奴ら……とは、パンドラのことだろう。

 その話が一体どれほど前の話かは分からないが、その時からパンドラは存在していた。


「そして数百年の時が流れ、今から800年ほど前。四代目が世界に散らばった神器を回収した。四代目は【継承】の他に【神眼】の権能も得ていた。そこで神器の内の一つ『聖剣』が奪われる運命にあることを知り、それをどこかの森へと隠した」


 サノンは、800年前に訪れた東和民が聖剣を残し、認識阻害の魔法陣を描いたと言っていた。


 そして、運命を見る権能――【神眼】。


 僕が見た滅びの未来。

 そして、父さんはこの権能で世界が滅びるのを知って、古代文字を解読し、腕輪とともに僕に託したんだ。


 また、ピースがハマる。


「そして、次に記憶を受け継いだ五代目が私だ。加えて【不老不死】を得たのは、初代を除いて私のみ。だから私は村に残っていた三つの神器を持って、世界を救うべく行動を起こしたと言うことだ」


 ディアが言っていた、神器を三つ所有する誰かさん。

 気持ち悪いほどに、全てのピースがハマっていく。


「どうやら、腕輪は君が所有しているみたいだな」


 咄嗟に服の上から腕輪を掴む。

 気を抜けば奪われるように感じたのだ。


 ゼクスは全てを見透かしている。

 折衝も駆け引きも、最初から無駄だった。


「聖剣は今、誰が持っている?」

「……アークだ。白髪の冒険者! あいつが最初にルナの迷宮を見つけたんだ!」

「そうか。考えられる最悪の状態だな」

「……え? でも、アークは東和民じゃないからどのみち聖域には接続できないんじゃ」


 そしてアークの目的は分からないが、パーティメンバーを殺して、冒険者ギルドに指名手配されている。

 見つかるのは時間の問題だ。


「それに関してはスクルドが話してくれ」

「はい。私は東和の村が炎龍に襲われた翌日、東和の村に赴き、生き残りの少年を保護しました。心的ショックから記憶が欠落し、髪は極度のストレスで色が抜け落ちていました」

「……おい。嘘だろ」

「名前をなくした彼に、私はアークと名付けました」

「――――ッ!?」


 アークが、東和民?

 僕の幼なじみの誰か?


 僕は思わず後ずさりして頭を抱えた。


「となると、やはりパンドラの手に落ちたと考えるのが自然だな」


 告げられた事実に、頭の整理が追いつかない。

 頭が真っ白になって、視界がぼやける。

 信じていたものすべてが根幹から崩れていく。


「……パンドラって、一体何なんだ」

「ああ、言っていなかったな。初代アルカディア王が《ロキ》を封印するために聖域に接続した時、聖域の中に囚われたはずの男が、外に解き放たれてしまったんだ」

「まさか……それって」

「パンドラの創設者は、ラグナロクを起こした張本人。『太陽龍帝』だ」


 つまり、ルナの実の兄。

 僕たちが倒さねばならない世界の敵だ。


「そっか……アレス。生きてるんだ」

「ああ。しかも厄介なことに、聖域と接続したことでアルカディア王に等しい力を手に入れているはずだ。今までは神器の存在を知らなかったのだろうが、アーク君が奴らの味方だとすると、戦況は逼迫する」

「アークが聖域の扉を開くとどうなるんだ?」

「さあな。しかし、間違いなく世界に災いが降り掛かるだろう」


 アークはパンドラから受けているのは、助言か洗脳か。

 どちらにせよ、アークが次元の扉に辿り着けば良くない『意志』が聖域によって叶えられてしまう。

 

「――さて。ここから本題だ。我々の目的は、奴らより先に次元の扉に触れ、三代目が聖域に遺した『神滅刀』を取り出して《ロキ》を完全に消し去ることだ」


 それが、ラグナロクを止めるための唯一の手段。


「『神滅刀』さえ取り出せば、次元の扉自体を破壊してしまえばいい。それで奴らは何もできない。『世界を滅ぼす意志』は遂げらない」


 それでアルカディア王の意志は遂げられるんだ。

 それに天空神殿は僕が所有している。

 ゼクスを連れていけば、世界は救われる――。


「……ちょっと待ってください。その『神滅刀』ってのは、ルナの中の《ロキ》だけを殺すんですよね……?」


 その問いに、ゼクスは涼し気な表情で無言を貫いた。

 その顔が、無言が、全てを物語っていた。


「答えろよ! ゼクス=アルカディア!」

「世界がそれで救われるんだ。一人の命など安いものだと思わないか? それにこのまま『器』を放置すれば、どのみち数年で彼女は《ロキ》として覚醒する。――だから、『器』と『天空神殿』を引き渡せ。それで世界は救われる」

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