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第三話、『賢者の迷宮』

『封印の迷宮』編 【3/5】

 僕たちは四人二組に分けられ、二手に別れて迷宮に足を踏み入れた。

 後ろにはアークとガラハット。

 こちらは四人とは言え、手首を縛られている上、この狭い通路だ。逃げられないだろう。


「気をつけろよ。この賢者の迷宮は、まだギルドが認知していないから攻略レベルが設定されていない。それに他の迷宮とは何かが違うのを肌で感じる」


 ギルドが確認していないということは、やはり目的は財の独占だろう。

 財は歴史を研究する上で重要な遺産であるため、基本的に全てギルドに納入しなければならない。


 内部は横穴を石で補強した組積造で、壁には妖艶な模様がびっしりと埋めつくしている。


 にしても、凄まじい死臭だ。

 一体どれだけの人が、この迷宮に食われてきたのだろうか。

 こいつらの事もそうだが、早くギルドに報告しなければ。


「そろそろだ」


 アークが一層気を引き締める。

 ここからが本番だと言わんばりに。

 やはり何度かここに来たことがあるんだろう。


 こちらも身構え、一歩を踏み出す。

 その矢先――ガコッ、と不気味な音が迷宮に響いた。


「上だ!」


 天井を見上げて叫ぶ。

 無数の槍が、僕たち一団に降ってきたからだ。


「――――ッ」


 それらを体を捻らせて回避する。

 態勢を整え、状況を確認しようとした直後、生暖かい血が大量に飛び散ってきた。


「……え」


 目の前で――二人の人間が串刺しになって死んでいた。

 アークはロープで身動きの取れない僕たちを盾にしたのだ。


「う、うわぁぁぁああ!!」


 もう一人が、その光景に発狂して走り出す。


「バカ、無闇に走るな!」


 制止を促すが、声は届かない。

 次の瞬間、地面がそいつを食らうように大口を開け、一瞬で飲み込まれていった。

 その穴は直ぐに閉じた――断末魔の叫びとともに。


「ちっ。使えねぇ家畜だな」

「こりゃ、またやり直しですかね」

「いや、まだ一体残ってんじゃねぇか」


 家畜? こいつらは……何を言ってるんだ。


「やっと、見つけた。って、酷い光景ね」

「マリア。早いじゃねえか。そっちは?」


 魔術師とタンクが合流してきた。

 二人だけ。縄で縛った四人の姿はない。


「全然ダメ。最初のトラップで全滅よ。私もナジが盾で守ってくれなければ危なかったし。使えない雑魚ばっか」


 全滅? まだ入って数分なのに、あと僕一人なのか?


「それで、あんたの方の残基は?」

「こいつ一人だ」

「うわっ、一番弱そうなのが残ったわね」

「賭けは俺の勝ちだな、ナジ」

「えー、またオイラの奢りっすか?」


 和やかな雰囲気で、淡々と会話が流れる。

 

「賭けって……何なんだよ」

「あん? 俺の担当の家畜の内、どれが最後まで生き残るかってやつだ」

「……はは」


 思わず嘲笑が零れた。

 目先に囚われ、考えなしに他人を信じた愚かな自分に対して。


「ソフィ……空色の髪の少女はどうした?」

「あの女ならとっくに奴隷商に売り払ったわよ」

「――どうして! 東和民が目当てなら、僕だけを狙えよ!」

「最初はそのつもりだったよ。東和民は珍しくて変態貴族連中に高く売れるからな」


 でも、ソフィアは青髪。東和民じゃないことは明白だ。


「だが、どこのどいつかは知らないが、あの女にバカ高い懸賞金をかけて捜索願いを出してる奴がいるんだよ。もちろん非正規な方法でな。空色の髪、右目は深い青で左目は色を失ったような淡い水色のオッドアイ。全く、運が良かったぜ」


 その説明を聞いて、ソフィアだと思った。

 しかし正確にはオッドアイではない。

 生まれつき左目がほとんど見えないと言っていた。


 一体誰が、何のためにソフィアを探してるんだ?


「ねえ、また戻ってやり直すの?」

「いや、ギルドに目をつけられてる。できればもう少し進んでおきたい。危険だが、こんなにトラップが仕掛けられてるんだ。きっととんでもない財が眠ってるに違いねえ。一生遊んで暮らせるくらいのな」


 アークたちが高揚する。

 その光景に、沸々と憎悪が込み上げてきた。


「……許さない。絶対にお前らを許さない!」

「どうでもいい。家畜は物言わず死ね。何の価値も無いお前らに利用価値を与えてやったんだ。寧ろ感謝しろ」


 ダメだ。こいつらは人間じゃない。

 人間の皮を被った化け物だ。

 なんで、こんな奴らを信用してしまったのだろうか。


「ほら、さっさ歩け。神話に夢見たバカに、お似合いの死に場所だろ」


 それからのことはよく覚えていない、ソフィアを守れなかった無力感とあらゆる後悔に打ちひしがれ、己の無能を呪い、廃人のように歩いた。


 そんな時、小さな光の精がいた。

 多分……頭がどうにかなっていたのだろう。

 僕はふらふらと吸い寄せられるように歩いて――足場が急に沈み込んで、気がつくと薄暗い奈落にいた。


 今は喪失感だけが胸に残っている。

 家族も、帰る場所も、守るべき女の子も――僕は全てを失った。



~~~



 アークたちはルノアが奈落に吸い込まれた後、迷宮の探索を続行するか一度ギルドに引き返すかで言い合っていた。


「危険すぎる。一度引き返すべきだ!」

「だからギルドに目をつけられて、これ以上こんなことは無理だ。こうなれば、ナジを先頭に突き進むしかない」

「お、オイラっすか?」


 タンクでも、ブービートラップには無力だ。

 治癒魔術(ヒール)の使えるマリアがいるとしても、それは快く受け入れられるものではなかった。


「ねえ……あれ、大部屋に出るんじゃないの?」


 しかしその時、マリアが迷宮の奥を指さして言った。

 薄暗く見えにくいが、確かに今までにはなかった構造だ。


「マジだ……やった、ついにゴールだ!」


 アークは走り出す。

 待ちかねたゴールが目と鼻の先にある。


 大部屋に出ると、そこには巨大な扉が構えていた。


 四方に囲まれただだっ広い空間で、複数の厳かな支柱がその部屋を支えている。


「凄まじいわね……こんなもの現代の技術でも作れないんじゃない?」


 迷宮は100~300年前の王族や貴族によって作られたとされている。

 しかしその空間は、旧時代の人間が作れるものとは一線を画していた。


 そして10メートルは優に越えよう巨大な扉は、その迷宮の桁違いの偉大さを物語るようで、他の迷宮と次元が違うことはアークたちにも分かった。


「くそ……でもどうやったら開くんだよ」

「そこの石版、なんか書いてるっすよ」


 扉の隅に設置された石版。

 特殊な技術なのか、文字は鮮明に刻まれている。


「なんて書いてあるんだよ」

「それ、古代文字じゃない? 諦めなさい。起源すら分かってないし、誰一人として解読できてない言語よ」

「ここまで来てどん詰まりかよ……クソが」


 その後、マリアが魔術を放つが扉には傷一つ付かず、完全にアークたち一行は膠着状態に陥った。


 持ってきた食料はほとんどない。

 アークたちに長居するつもりはなかったからだ。



 その後、諦めきれないアークは渋ったが、どうすることも出来ず、一度引き返して他の誰かが入らないように迷宮を隠そうという話になった。



 ――アークたちが迷宮の入口に帰った時、巨大な地鳴りがあたりに轟いた。



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