6.どっちにしろ
「事故に遭って、俺はよかったと思ってる。
そうじゃなかったら、自分でどうにかしないといけなかっただろう?」
ともちゃんは、そう言って笑った。
その笑顔を複雑な気持ちで眺める。
お義母さんは悲しむだろう。
ともちゃんも私もいなくなってしまったら。
仲良しだった私の両親も、もういなくて。
「みなみが、癌だと聞いて、もう、手遅れだと聞いて、
俺は目の前が真っ暗になった。
だから、ちゃんと毎年検査をしろと言ったのに。
病院は嫌だって、いつも行かないから。」
真剣にそう言うともちゃんの顔をみながら、
死んでからも、こうやって説教されるのかと、少しおかしくなった。
「何がおかしい?」
私が少し笑ったのを見逃さず、ともちゃんは不満げにに言う。
・・・病院は、嫌いなんだ。
でも、本当は、沢山のお金を使って治療したくなかった。
早期発見したのに、おばちゃん達は二人とも再発して死んじゃった。
早期発見すれば助かるって、ちゃんと治療すれば助かるって言ってたのに、
二人とも死んじゃったよ。
どうせ死ぬなら、沢山のお金を使って、治療することはないと思ったんだ。
私がいなくなったら、ともちゃんが悲しむのはわかってたけど。
ともちゃんは一人で生きていく時が、必ずくる。
だから私が今、余分なお金を使いたくなかった。
でも、
本当はもっと生きていたかった。
もっとともちゃんの傍にいたかった。
そこまで言ったとき、また涙が頬を伝った。
止められない。
それでも、涙を袖で拭ってから、話を続ける。
ともちゃんは、これから一人で生きていくんだと思ったら、
それはあまりにも寂しくて、つらいことだと思ったんだ。
だから、また誰かを好きになればいいと思った。
その人と生きていってくれればいいと思った。
そうすれば、私はともちゃんをずっと待ってる必要もないしね。
すぐ生まれ変わってこられるよ。
今度はともちゃんの子供に生まれ変わって、なんて、ね。
「そんな必要はない。
そんなに泣くな。
俺も逝くから。
みなみと一緒に逝くから。
どっちにしろ、そう決めてたんだから。
どのくらいかかるかわからないけど、待ってて。待っててくれ。
必ず逝くから。」
ともちゃんはそう言うと、目を閉じた。
気力が尽きたのだろう。
眠りについたともちゃんに近づき、そっと頬を撫でる。
・・・うん。待ってる。