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神殿の入り口には巨大な門があった。とても立派な石造りの門だ。門の両側には門の守り神としてなのか、幻獣をかたどった石像が柱の上に立っていた。モノはその見事な石像の作りに一瞬、圧倒された。それは見れば見るほど本当に生きている生物のように見えた。しかし実際にそんなことはありえない。幻獣は幻想の生き物であり、物語の中にしか生息しない架空の生物だった。モノの暮している村では、幻獣は人の魂を死者の国に運ぶ神聖な生き物とされていた。二匹の幻獣はじっと柱の上から門の前に立つモノのことを見つめていた。その幻獣の姿は村で恐れられている森の黒い毛並みをした狼のようにも、どこか遠い異国に実在するという獅子のようにも見えた。
村の言い伝えでは『黒い狼』は人の魂をあちら側の世界に連れていく、とても怖い生き物だと言われていた。確かに狼はとても恐ろしい顔をしていた。
巨大な門は本来であれば、小さなモノの力ではとても開けることができないような立派な造りをした門だった。でもモノは門を開ける必要はなかった。すでに門はほんの少しだけ、それはまるでモノのために門がひとりでにその通路を開いてくれたかのように、隙間を開けるようにして開いていたからだ。モノはその門の隙間を通って、古い石造りの神殿の中に入っていった。隙間はちょうどモノの体一人分の隙間だった。