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古い巨大な石造りの橋を渡りきると、モノは向こう側の世界の大地の上に足を下ろした。そこは特別、向こう側の世界となにも変わらない風景が広がっていた。神秘的な雰囲気は感じるが、それは向こう側の世界からこちら側の世界を眺めているときにも感じていた雰囲気だった。ここがすでに自分が元々暮らしていた世界とは別の世界であるということをモノはあまりよく実感できなかった。
空は相変わらず灰色で、大地は緑色の草に覆われていた。巨大な石造りの橋の周囲には底の見えない巨大な崖があり、大気には白い霧が立ち込めていた。向こう側の世界からこちら側の世界を眺めたときには世界の風景が見えたが、なぜかこちら側の世界から向こう側の世界の風景を見ることはできなかった。いつの間にか、おそらくはモノが巨大な橋を渡っている最中の時間に白い霧が濃くなっていたのかもしれない。でもそれでいいのだとモノは思う。未練はない。モノは正面に向き直り、橋から続く一本の石造りの道を見た。その先には、先ほどその存在を確認した巨大な石造りの神殿のような建物が建っていた。モノはその神殿のような建物を目指して道の上を歩き始めた。空の上のほうで、見知らぬ鳥が一度だけ鳴き声をあげた。