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言い伝えでは、儀式のある期間を除いて、向こう側の世界に移動したものは、二度とこちら側の世界には帰ってくることはできないと伝えられている。モノはその言い伝えを、それなりに信じている。村の子供たちの中には言い伝えを信じていない子供たちがたくさんいるが、モノは信仰や村の掟をただ古臭いものだとして、ばかにするような少年ではなかった。でもその言い伝えが、その村の儀式が、彼女を犠牲にしたこともまた事実だった。だからモノは村の掟を破ることにした。信仰と掟を破って、モノは『彼女の命を救うこと』を選択した。
そうしなければ彼女の命を救うことができないからだ。だからモノはあえて罪を犯すことにした。モノは罪人となり、向こう側の世界に移動する権利を得た。だからモノは堂々とした態度で橋を渡り始めた。その手には道中自分で作った一本の木の棒を持っていた。とても固い樫の木で作った木の棒だ。モノはそれをぶんと一回振った。白い霧が少しだけ動いた。
それからモノの小さな体は、やがて白い霧に覆われている古い石造りの橋の向こう側へと消えていった。モノの彼女を救うための冒険が今、始まったのだ。