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94話:反魂の来訪

 立ち並ぶ木々。

 うっそうと茂る葉々の間から差し込む柔らかい木漏れ日。

 光の筋を縫い駆け抜ける、一筋の黒い影。


「左側…………もうすぐ見えるはず…………」


「プルート、もうちょっと左!」


「ガルウゥッ」


 風を切り木々の間を疾駆するプルート。

 その背に乗り指示を出すスピカとシャウラ。


「見えた…………正面…………」


「このまま突っ込むよ!」


「ガルアァッ!」


 遠吠えを上げながら速度を上げるプルート、その眼前に深い緑色の巨体が姿を現す。

 大きく広げられた翼。鋭い嘴と鉤爪。そして、獅子の胴体を持つ巨大な魔物。

 “グリフォン”である。


「クオオォォンッ!」


 けたたましい鳴声を上げ、鋭く威嚇するグリフォン。

 対するプルートは、怯むことなくグリフォンへと迫っていく。


《突っ込む!? いくらなんでも無茶よ! ストップストップ!!》


(大丈夫、いける!)


 地を蹴り互いに距離を縮めるプルートとグリフォン。


「今!」


 衝突の寸前、刹那のタイミングを見切ったスピカは、プルートの背を蹴り高く飛び上がる

 眼下では、鋭い爪を立ててプルートがグリフォンの動きを止める。


 跳躍の勢い乗って体を捻りながら剣を引き抜くスピカ。

 流れる様に振り抜かれた剣は、羽毛に覆われたグリフォンの喉元に滑り込む。


「クォッ! コアァッ……!?」


 筋肉質なグリフォンの首を一刀の元に断ち切る星剣アステル。

 切り飛ばされたグリフォンの首は目を見開いたまま宙を舞い、頭を失った胴体は血しぶきを上げて崩れ落ちる。

 音を立てて倒れる巨体。グリフォンの死体を背に、宙返りをしながら着地するスピカ。


「ふうっ、オッケー!」


《オッケー! じゃないわよ!! あんなギリギリの戦い方をして危ないじゃない。今は昼間なんだから、星の力も使えないのよ?》


(上手くいったんだから良いじゃない。それに、もし怪我してもシャウラがいるから大丈夫だよ)


《そういう問題じゃないの! 心配するでしょ!!》


 ギリギリの戦い方に憤りの声を上げるトレミィ。対照的に満足気な表情を浮かべるスピカ。

 その背後、木々の間から数名の獣人を従えたフェルナンドがあらわれる。


「流石だなスピカ、この巨体を一撃か……」


「プルートが助けてくれたからね」


「ガルガルッフゥ!」


 スピカに撫でられたプルートは、自慢気に甲高い鳴き声を上げる。

 その間にプルートの背から降りたシャウラはユラユラとした足取りで亜人達へと駆け寄る。


「ケガ人…………いない…………?」


「すみません、私が怪我をしました」


「分かった…………治す…………」


 癒しの光を灯し、怪我を負った獣人を癒すシャウラ。

 その様子を見ながら、フェルナンドが感嘆の声を漏らす。


「スピカ達が一緒だと狩りが捗るな。怪我の心配もなくなるし、ベリンダとクラーラも村の警護に回せる」


 フェルナンドの言葉に頷く獣人達。

 狩りの成功に一息つく一同。

 しかし、プルートから緊張感の籠った低い唸り声が上がる。


「ガルルゥゥッ……」


「何だ? プルートはどうかしたのか?」


(うん? どうしたのかな?)


《怖い顔してるわね、何かに警戒してるみたいな……》


「スピカ…………後ろ…………!」


 シャウラの声に振り向くスピカ。

 視線の先、木々の間の暗闇を仄暗い明かりが薄っすらと照らす。


「あれは……っ」


 ゆらゆらと揺らめく青白い炎。

 炎に包まれた半透明のしゃれこうべ。

 人魂の様に宙に浮く骸骨が、スピカ達を取り囲む。


「オオオォォォッ……」


「しまった、レイスだ!」


「レイス?」


「魔物の一種だ、物理攻撃の効かないやっかいな相手だぞ!」


 フェルナンドの説明にざわめく獣人達。

 一方のスピカはのんびりとした様子でレイスを眺めている。


(ふーん、あんまり手強そうには感じないけど……)


《そうじゃなくて、物理攻撃が効かないっていうのがマズいのよ!》


(あ、そっか)


「オオォ……オオオォォッ……」


 瞬く間に数を増し、周囲を覆い尽くすレイスの群れ。

 纏った炎を燃え上がらせながら、包囲の輪をジリジリと狭めていく。


「くそっ、完全に囲まれてるぞ」


「シャウラだったら何とかできないかな?」


「実体が…………ないと…………無理…………アンデットや…………ゾンビなら…………得意…………だけど…………」


《打つ手なしじゃない! どうするのよ?》


(どうしよう……)


 狭まる包囲網。

 追い詰められていくスピカ達。

 その時、上空から甲高い笑いが響き渡る。


「アッハッハッ、何や随分ピンチみたいやな、特別に助けたろか?」


 声と共に降り注ぐ緑色の炎。

 熱を持たないその炎は、木々や葉を燃やすことなくレイスだけを焼き払っていく。


「今の声!」


《それにこの炎!》


「久しぶりやな!」


 緩やかに舞い降りる半透明の少女。

 黄緑色のツインテールをなびかせながら、渦巻く緑色の炎を従えた魔女はゆっくりとスピカの前に降り立つ。


「ベラトリックス!!」


《やっぱりあの時の魔女ね》


「お、ちゃんと覚えとったんやな」


 軽い調子で片手を上げながら挨拶をする魔女ベラトリックス。

 親しげな様子で答えるスピカだが、フェルナンドや周囲の獣達は怪訝な表情を浮かべる。


「スピカ、そちらは知り合いか?」


「うん! 私のお友達だよ」


「誰が友達や! たまたま一回会っただけやろ!!」


「ほら、仲良しでしょ?」


「どこがや!?」


《どこがよ!?》


 揃って声を上げるトレミィとベラトリックス。

 一方のスピカは、気にする風もなく楽しそうに笑みを浮かべている。


 飄々としたスピカの雰囲気に、緩んだ空気が場に流れる。

 しかし、周囲から湧き上がるレイスの呻き声が、場に緊張感を引き戻す。


「オオオオオォォォォッッ!!」


「おっと、喋っとる場合とちゃうな。先にこいつらを片付けてしまわな」


 素早い動作で指揮を執る様に両手を振るうベラトリックス。

 その動きにあわせて、周囲に燃え広がっていく緑色の炎。


 優雅な動作で幻炎を操るベラとリックスは、燃え盛るレイスの間をダンスを踊るかの様に飛び回る。

 瞬く間に焼滅していくレイス。


「凄い…………一瞬で…………」


「私の友達、凄いでしょ!」


「だから、友達ちゃうやろ!」


 一瞬でレイスを焼き払いスピカの元へと舞い戻るベラトリックス。


「ところで急にどうしたの? もしかして遊びに来てくれたの?」


《そんな訳ないでしょ、きっと面倒事か厄介事かどっちかよ》


(トレミィ、それって同じ意味だよ……)


「いや~、実はな……」


 スピカの問いに、ベラトリックスは歯切れ悪く口を開く。


「ちょっと助けて欲しいことがあってな」


「《助けて欲しいこと?》」


 突然の魔女の来訪。

 新たな戦いが幕を開ける。

ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。

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