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93話:邪悪村のモンスターライダー

 邪悪村、中央通り。


 多くの亜人達が行き交い、様々な商店が軒を連ねる大通りである。

 その一角で、金色の巨体が大量の木材に囲まれていた。


「そこですアークトゥルス様、ゆっくりとお願いしますね」


「ゴッゴッゴゴン!」


 器用に体の形状を変えて、木材を掴んでは組み上げていくアークトゥルス。

 その肩の上で、的確に指示を出すジェルミーナ。

 二人の見事な連携により、次々と木材が組み上げられていく。


 完成した家の枠組みを見て、簡単の声を上げる親方ことオイゲンと、その妻ベッティーナ。


「助かるぜ! おかげであっという間に家が建っちまう」


「なに関心してんだい! うかうかしてるとアンタの仕事全部取られちまうよ」


「ゴッゴーン」


 一通り作業を終えたアークトゥルスは、変形させていた体を元に戻す。

 そこへ、遠巻きに様子を眺めていた子供達が集まってくる。


「金ぴかー、終わったのか?」


「遊ぼうぜ金ぴかー」


「金ぴかー、背中に乗せてよ!」


「ゴゴッゴオォ」


 子供達に囲まれて、嬉しそうに体を歪ませるアークトゥルス。


「ダメですよ、アークトゥルス様はまだお手伝いがあるのですから」


「えー、良いじゃんか! ジェルミ姉ちゃんのケチッ」


「ゴッゴッゴッ」


「ダメなものはダメです。さ、あと少し──あら?」


 ふと視線を落とすジェルミーナ。視線の先からは、ジェルミーナの兄であるジャンルーカとハーフリングのマイヤが歩いてくる。


「ジェルミ、こんな所にいたのか」


「お兄様、どうかしましたか?」


「村の今後について方針を話し合いたいと思ってな、探していたのだ」


「そうでしたか、アークトゥルス様と一緒にオイゲン様の作業を手伝っていましたの。もう少しで終わりますから、その後で伺います」


 アークトゥルスの肩を撫でながら、にこやかに応えるジェルミーナ。


「ゴゴーン!」


 ジェルミーナに撫でられて、自慢げに胸を張るアークトゥルス。

 その様子を眺めていたジャンルーカは、複雑な表情を浮かべる。


「うむ、どうも私はそのゴーレムが好きになれないのだがな……」


「あら? どうしてですか?」


「ゴゴ?」


 疑問を表す様に頭部を回転させ、ジェルミーナの細い体に擦り寄らせるアークトゥルス。


「アハハッ、アークトゥルス様くすぐったいです!」


「それだ! その卑猥な行動が気に食わんのだ!!」


「卑猥ってお兄様、相手はゴーレムなのですよ?」


 キョトンと小首を傾げるジェルミーナ。

 一方、アークトゥルスとジャンルーカはバチバチと火花を散らせ睨み合う。


「ゴゴゴッ……」


「この淫乱ゴーレムめっ……」


「コラッ! ゴーレムと張り合ってるんじゃないよ……」


 目を尖らせるジャンルーカの背を、ペシリと叩いて宥めるマイヤ。


「マイヤ、しかしだな……」


 叩かれたジャンルーカは、不服そうに顔を歪める。

 そこへ一人の獣人が、慌てた様子で駆け込んでくる。


「ジャンルーカさん大変です! 村外れの畑に怪しい連中が」


「何?」


「フェルナンドさんも他の皆も狩りに出ていて、対応する人がいません!」


 肩で息をしながら懸命に報告を上げる獣人。

 報告を聞いたジャンルーカは、腰のナイフに手をやりながら緊張感の篭った視線を村の外へ向ける。


「分かった、とりあえず私が様子を見に行こう」


「でしたら私も行きます!」


「ジェルミ、だが危険だぞ」


「大丈夫です、アークトゥルス様にも来てもらいますから!」


「ゴゴン!」


 ジェルミーナの言葉に、腕を振り上げて答えるアークトゥルス。


「分かった、だが無理は禁物だぞ」


「はい、行きましょうアークトゥルス様!」


「ゴゴゴオッ!」


 エルフの兄妹と金色のゴーレムは、村外れへと駆け出すのだった。



 ★ ★ ★ ★ ★ ★



 村外れ。


「おっ、それなりに豊作じゃねえか」


「そっちのやつも全部貰っとけよ!」


 瑞々しい野菜が植えられた、亜人達の畑。

 本来平和なはずの畑だが、今は武装した獣人の集団によって荒らされていた。


「大量だ、これでしばらくは食うものにも困らねえ」


「向こうの畑も見てみようぜ」


「……貴様等、そこで何をしている?」


 獣人達の下品な声を切り裂く、怒気を孕んだ鋭い声。

 ナイフを構えたジャンルーカが、獣人達の間に割って入る。


「あ? エルフが何の用だ?」


「俺達は盗賊だぜ? 盗みをやってるに決まってんだろ?」


「なるほど、盗賊に落ちた哀れな獣人どもか……」


 下卑た笑い声を上げる盗賊達と、ナイフを構え対峙するジャンルーカ。

 緊張感が場を包む中、ジェルミーナを肩に乗せてアークトゥルスが姿を現す。


「ゴオォー……」


「ふう、遅くなりました」


 金色の巨体を揺らし、ジャンルーカの後ろで仁王立つアークトゥルス。

 その姿を見た盗賊達から、驚きの声が上がる。


「あれはまさか……噂の邪悪エルフか!?」


「何!? 邪悪村のモンスターライダー、ジェルミーナか!」


「「邪悪村のモンスターライダー!?」」


 顔を青くしながら、口々に声を上げる盗賊達。

 その言葉を聞き、揃って驚きの声を上げるジャンルーカとジェルミーナ。

 しかし盗賊達は構わず声を上げ続ける。


「聞いたことがあるぞ、黒い狼やドラゴンを乗り回す凶悪な女エルフだろ?」


「ヴァン・デスティーユを壊滅に追い込んだ邪悪村の凶悪エルフらしいぜ」


「可愛い顔して、冷酷無比な殺戮中毒の化け物だって噂だ」


 盗賊達の口から次々と飛び出す悪名の数々。

 それを聞いたジェルミーナの怒りが爆発する。


「何ですか! その呼び名は!!」


「ゴゴッゴオォッ!!」


 ジェルミーナの怒りに呼応する様に、巨腕を振り上げ盗賊達を威嚇するアークトゥルス。


「くそ!」


「おいっ、早く逃げるぞ!」


「逃がす訳がないでしょう! アークトゥルス様、お願いします!!」


「ゴゴオーンッ」


 鞭の様に腕をしならせ、盗賊達を次々と捕らえていくアークトゥルス。


「邪悪村のモンスターライダーか……」


 見事な指揮でアークトゥルスを操るジェルミーナ。

 そして繰り広げられる捕縛劇。


「あながち間違いではないかも知れぬぞ、妹よ……」


 そんな妹の姿を見て、乾いた声を漏らすのジャンルーカなのであった。

ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。

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