92話:星の剣
「スピカ…………きて…………」
「うん……痛かったら言ってね?」
深夜。
人気のない荒野に、怪しく響く二つの声。
「大丈夫…………早く…………きて…………」
星明りの下、体を寄せ合うスピカとシャウラ。
「んっ……しょと」
声を上げ、体に力を込めるスピカ。同時に、艶のある先端が、肉を掻き分けシャウラの奥深くまで滑り込んでいく。
「うっ…………うぶぇ…………」
「大丈夫?」
「大…………丈夫…………んあぁ…………」
「それじゃ、いくよ?」
「うん…………きてぇ…………」
艶っぽいあえぎ声を上げ、身をよじらせるシャウラ。
二人を包む星の輝きが、周囲を薄ぼんやりと照らす。
そして。
「ぷひゃっ…………」
飛び散る肉片。
バラバラと転がる骨と内臓。
血しぶきを上げ弾け飛ぶ、シャウラの上半身。
「おぉ~、凄い!」
全身に返り血を浴びながら、シャウラの胸元に突き刺していた星剣アステルを素早く血振りするスピカ。
朽ち果てた荒野には、噴出した血が濃い血溜りを作っていく。
《……って、凄い! じゃないでしょ!!》
(うん?)
繰り広げられる異常な光景に、思わず声を上げるトレミィ。
《やってることがグロテスクすぎるのよ! やり取りだって無駄にえっちぃ感じだったし》
(えっちぃ? そうかな?)
トレミィの言葉に、キョトンと小首をかしげるスピカ。その間に、弾け飛んだ上半身を再生し、血溜りの中からシャウラが起き上がってくる。
「やっぱり…………その剣…………からも…………邪神様の…………力を…………感じる…………」
星剣アステルを使いこなしたいスピカ。そして、トレミィの存在を感じていたいシャウラ。
そんな二人の要望が合わさった結果、この日は星剣アステルの攻撃をシャウラが体で受け続けるという謎の儀式が行われているのである。
「きっと…………スピカの…………中の…………邪神様の…………力を…………剣が…………吸収している…………」
「うーん……何となく力を吸われてる様な感じはしてるけど、あんまりピンとこないかも」
《少し前に砦で戦った鳥女がいるじゃない? あの戦いの時も、斬撃の威力がこれまでとは桁違いに高かったわよ。何か関係があるのかしらね》
ヴァン・デスティーユ砦での攻防。ビーストロード、エリスカリスとの戦闘時に見せた、砦の尖塔ごと切り裂いた斬撃。
(あの時は確か……こうやって力を込めてて……)
戦いの当時を思い出しながら、静かに意識を集中するスピカ。
スピカの集中にあわせて、次第に強さを増していく星の輝き。それに呼応して、アステルの表面もより強く輝いていく。
「あぁ…………それ…………凄い…………」
「凄い?」
「凄く…………感じる…………邪新様を…………」
光を浴び、恍惚の表情を浮かべるシャウラ。その反応を見ながら、更に意識を集中させていくスピカ。
「どう? 感じる?」
「あっ…………はぁ…………それ…………凄っ…………」
「もっと強くしてあげようか?」
「これ以上は…………あ…………ん…………あぁっ…………」
《だから、どうして無駄にえっちぃのよ!》
繰り広げられる二人のやり取りに、あきれ半分に声を上げるトレミィ。
《もうちょっと普通にできないのかしら!? 聞いてる方が……その……恥ずかしいわよ!》
(恥ずかしいの? どうして?)
《それはっ……いっ、言わせにゃみよ!》
(にゃみ?)
頭の片隅で他愛もない会話を続けながら、さらに集中を増していくスピカ。
強さと密度を増していく光の粒子。それを全身に浴びたシャウラは、怪しい笑みを浮かべながら、徐にアステルへと手を伸ばす。
「ふふっ…………綺麗…………」
刀身に触れる指先。
瞬間、一気に強さを増す光。
そして、触れた指先を起点に、シャウラの半身が粉々に弾け飛ぶ。
「あっ…………ふあぁっ…………」
内臓をこぼしながら、フラフラとよろめくシャウラ。
(おぉ、ちょっと触っただけなのに、凄いね)
淡々とその様子を眺めるスピカに対して、繰り広げられるグロテスクな光景に、トレミィは白旗を上げてしまう。
《凄すぎるわよ……うっぷ……ちょっと私ギブアップ》
そんなトレミィの様子は露知らず、体を再生させたシャウラは、じっとアステルへと目を向ける。
「その剣…………もしかして…………邪神様の…………お力を…………溜めてるんじゃ…………ないかな…………?」
「溜めてる?」
「そう…………スピカの…………力…………その…………キラキラした…………光を…………溜めておいて…………戦いの…………時に…………放出してる…………そんな…………感じ…………」
《なるほど、うっぷ……それなら斬撃の威力がやたらと高いのも頷けるわね、うぇ……剣に溜まってた力も上乗せされてたって訳ね……気持ち悪い……》
(トレミィ、無理せず黙ってて良いよ)
トレミィを気遣いながら、アステルを鞘に納めるスピカ。
(そっか、力を吸われてる感じがするのも、そういう理由なのかも……あれ?)
刀身が鞘に収まる直前、ピタリと動きを止めたスピカは、ゆっくりと顔を上げる。
(力を溜めてるっていうことは──)
「もしかして、空に星が出てなくても、溜めてた力が使えたりするのかな?」
《確かに! 使えるかもしれないわね!!》
「それは…………可能性は…………十分…………ある…………」
トレミィとシャウラの言葉を聞きながら、アステルの柄を強く握り直すスピカ。
「試して…………みないと…………なんとも…………言えない…………」
《でも、もし使えたら、弱点がかなり克服できるわよ!》
(うん! 晴れてなくても戦える様になる)
嬉々とした様子でアステルを抜き放つスピカ。
次の瞬間、振り抜かれた軌跡にあわせて、極大の光の斬撃が放たれる。
(うわっと!?)
予期せず放たれた斬撃は、正面にいたシャウラの胴体を真っ二つに切り裂き、そのまま天高く駆け上っていく。
雲を切り裂き、夜空に消えていく光の斬撃。
その光を呆然と眺めるスピカとトレミィ。
(ビックリした……あんなの撃つつもりじゃなかったんだけど……)
「スピカ…………最低限…………剣を…………使いこなせる様に…………ならないと…………」
胴体が両断されたまま、血の雨を降らせながら苦言を呈するシャウラ。
《これは……取り扱い注意ね》
「うん、気をつけなきゃ」
そう、ポソリと呟きながら。
広がる血溜りの中。
力を放出し、輝きを失ったアステルをじっと眺めるスピカなのであった
ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。