90話:今日も邪悪な村
今回で第三章終了です、ここまで応援して下さりありがとうございました!!
次回から第四章を投稿していきます、引き続きお楽しみいただければ幸いです。
亜人達の村。
通称、邪悪村。
村の中央にある広場では、亜人の子供達が元気に遊び回っていた。
「とりゃあ!」
「いけえぇっ」
笑顔の子供達が駆け回る平和な光景を、少し離れた場所から優しい目で眺めるジャンルーカとマイヤ。
「子供達は元気だな、この村に移住してきてくれて本当に良かった」
「そうだねえ。人間共の街じゃ、あんな風には絶対遊べないからね」
二人が見守る中、四つんばいになった獣人の子に、エルフの子が跨りフラフラと歩き回る。
「ところでマイヤ殿、あの遊びは一体どういう遊びなのだろうか?」
「知らないのかい? あれはね、スピカちゃんが戦っているのを真似てるんだよ」
「スピカ殿を?」
「あの子達、スピカちゃんが魔物や人間相手に戦って勝ったっていう話を、大人達から聞いたみたいでね。子供はそういうのに憧れるものなのさ」
「憧れか……」
ジャンルーカの呟きに、小さく首肯するマイヤ。
「スピカちゃんは勇者なんだって? つまり、あの子達にとっては憧れの勇者様って訳だね」
「亜人の子が人間の勇者に憧れる日が来るとはな……」
感慨深く唸り、頷くジャンルーカ。
広場では、黒いマントを被ったエルフの男の子が、棒切れを片手に走り回る。
「生きたまま魔物のえさにしてやる!」
「……んん?」
スピカになりきり棒を振り回すエルフの子供。その発言に、先程とは違う意味で唸り声を上げるジャンルーカ。
「マイヤ殿……あの発言のどこが勇者なのだ? ……あの遊び方は……果たして良いのだろうか……?」
「そうだねえ……ある意味リアリティがあって良いと思うけどね?」
オレンジ色の布を被ったハーフリングの男の子は、デタラメな模様を地面に書きながら笑い声を上げる。
「人体実験だ! ハッハッハー!!」
隣では、目の回りを黒く塗ったドワーフの女の子が、ユラユラ揺れながら両手を大きく広げる。
「邪神様―……お力をー……」
「微笑ましい様な……そうでない様な……」
思い思いにスピカのパーティになりきる子供達。
その口から飛び出してくる物騒な発言の数々に、渋い表情を浮かべるジャンルーカ。
しばらくすると、遊び疲れた様子の子供達がジャンルーカの元へ集まってくる。
「ん? どうかしたのか?」
「なあなあ、スピカ姉ちゃんはまだ帰ってこないの?」
「早く帰ってきて欲しいよなー」
ジャンルーカの問いに、次々と声を上げる子供達。その様子を見て、マイヤが嬉しそうに頬をほころばせる。
「スピカちゃん、少し前は怖がられてたみたいだけど、今じゃすっかり人気者だねえ」
「悪いことではないのだろうが、あの遊び方を見た後だと、複雑な気持ちになるな……」
引きつった笑みを浮かべながらも、優しく子供達の頭を撫でて回るジャンルーカ。
すると、広場の外にいた他の子供も集まり、子供達の会話が盛り上がりを見せる。
「あーあ、早くスピカ姉ちゃんおっぱいに抱きつきたいぜ」
「スピカの姉ちゃんそういうの全然気にしないから、触り放題だよな!」
ニヤニヤと笑いながら、そんなことを言う亜人の男の子達。
「……これは叱った方が良いのだろうか?」
「まあまあ、子供の言うことだからね」
複雑な表情を浮かべながらも、黙って子供達を見守るジャンルーカとマイヤ。
「俺はシャウラ姉ちゃんの方が好きだなー。色っぽいし、すっごい良い匂いがするんだぜ」
「ボクはジェルミお姉ちゃんが好きかも……」
「ジェルミ姉ちゃんって優しいけどさー、ペチャパイなんだよなー」
賑わいを増す子供達の会話を聞き、ジャンルーカのこめかみにピキリと筋が入る。
「ほう? ジェルミをそんな風に見ておったのか……よし、キツイお灸をすえてやろう……」
「コラコラッ、子供相手に本気で怒るんじゃないよ!」
マイヤに宥められ、目を尖らせて子供達を睨みつけるジャンルーカ。
まるで大人達が見えていないかの様に、更に盛り上がる男の子達の会話。そんな中、男の子の声にまぎれて、シャウラの真似をしていた女の子が小さく呟く。
「私、リゲルさんが好き……ジャンルーカさんとフェルナンドさんの間に入って、三角関係になったりでもしたら……うふふふ……」
シャウラそっくりの不気味な笑い声を上げる、ある意味腐り気味の女の子。
「マイヤ殿……私はこの村の将来が不安でならないのだが……」
「ま、まぁ……これからしっかり教育して、育てていけば良いじゃなのさ……」
村の将来を憂い、揃って頭を抱えるジャンルーカとマイヤ。
楽し気な子供達と、暗くなっていく大人達。そんな広場に響き渡る声。
「ジャンルーカさん! スピカさん達が戻ったそうです!」
「本当か!」
帰還の報せに、騒いでいた子供達も顔を上げて喜ぶ。
「スピカ姉ちゃんが戻ったってよ!」
「早く会いに行こうぜ!」
我先にと村の入り口へと走り出す子供達。
そんな子供達の後を追い、村の正面入り口へと向かうジャンルーカだった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
村の正面入り口へ到着したジャンルーカ。集まる亜人達の中心では、スピカがニコニコ笑顔を浮かべ、手を振っていた。
「皆、ただいまー!!」
「スピカ殿、無事戻っとおおぉぉい! おい! おい! おいぃっ!?」
にこやかに手を振るスピカに対して、絶叫に近い声を上げるジャンルーカ。
「お兄様、戻りました!」
「ジャンルーカ、ただいま!」
アークトゥルスの両肩に座るスピカとジェルミーナ。それを見たジャンルーカは、愕然とした表情でうっくり指を指す。
「なっ、ななっ!? 何だこの生物は!」
聳え立つアークトゥルスを指差し、声を震わせるジャンルーカ。
「何って、アークトゥルスだよ?」
「アークトゥルス!? 何だそれは? 魔物ではないのか?」
端的過ぎるスピカの答えを聞いたジャンルーカは、訳が分からないといった様子でスピカに詰め寄る。
《スピカ、名前だけ言っても伝わらないわよ。ちゃんと説明しないと》
(そっか)
「えっとね、アークトゥルスはゴーレムで、すっごく強くてカッコ良いんだよ」
《スピカ、それはちゃんとした説明とは言わないわよ……ただの感想よ……》
トレミィの呆れた突っ込みと同時に、ジャンルーカも悩まし気に声を上げる。
「それはただの感想では……? 分からぬ……スピカ殿の説明がまったく分からぬ……」
「ゴッゴオォッ」
一方、褒められて嬉しそうに頭部を回転させるアークトゥルス。頭を抱えるジャンルーカは、すがる様な視線をスピカへと向ける。
「頼むスピカ殿……これ以上この村に邪悪な要素を増やさないでくれ……」
「アークトゥルスは邪悪じゃないよ? それにもう私のパーティだから、ずっと村にいてもらうしね」
「パッ、パーティ!?」
スピカの発言を聞き、膝から崩れ落ちるジャンルーカ。
そんなジャンルーカを押しのけて、後ろから様子を伺っていた子供達が一斉に集まる。
「スピカ姉ちゃん、カッケェー!!」
「デッケー! 金ぴかだ! すげぇ!!」
「ロボットじゃん! スピカ姉ちゃん乗せてー」
子供達の無邪気な笑い声が響く。
「あぁ……子供達にまた悪影響が……」
そして、ジャンルーカの儚い声が風に掻き消えていく。
「皆、今日からアークトゥルスも一緒だから、仲良くしてあげてね!」
「「「「「はーい!!」」」」」
ジャンルーカの願いも虚しく、新たな住人となった元モンスターロード、アークトゥルス。
こうして、更に混沌度合いを増した邪悪村なのであった。
ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。