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09話:星の力

※2019/10/18 表記方法と内容を微修正しました。

 深夜、満天の星が煌めく空の下、廃村近くの荒野に光が差していた。


 光の源はスピカである。ガルムの群れと戦った時に見せた神託の力を身にまとい、キラキラとした光の粒子を振りまくスピカは、真っ暗な荒野に差し込む一条の光となっていた。


「うん! 問題なく使えるね」


《うーん……やっぱり……》


(どうしたの?)


光の粒子を振りまきながら首をかしげるスピカ。


《その光、何だか見ているととても懐かしい気持ちなるわ……》


「キャンッ キャンッ」


 少し離れたところで様子見ていたプルートは、嬉しそうな吠え声を上げている。


(懐かしい気持ちか、きっとトレミィの神託だからじゃないかな?)


《そう……そうね、きっとそうよね》


 スピカの言葉に納得の声を上げるトレミィ。そんな二人と一頭がここにいる理由、それは数時間前に遡ることになる。



★ ★ ★ ★ ★ ★



 三日間の昏睡から目覚め、魔物の肉で腹を満たしたスピカ。徐々に沈んでいく夕陽を見ながら、思い出したように立ち上がる。


(そうだトレミィ! ガルムと戦った時の力ってやっぱり神託の力だったんだよね?)


《そうね、間違いないと思うわ》


(急に体が光り出したからビックリして)


《突然だったわね、でも理由は何となく分かるわよ》


(私も、きっとおんなじこと考えてるね)


 一呼吸間を開けると、二人同時に声を上げる。


「《星空が見えたから!》」


「やっぱり!」と声を揃える二人。


(それでね、もうすぐ夜だし雲も晴れてるから、もう一度同じことが出来るか試してみようかなって)


《良いわね! ホントに星空が見えてないと使えないのか確認も必要よね、それにもう一度アレ見てみたいわ!》


(うん、だいぶ体も回復してきたし、早速試しに行こう!)


《回復って……早すぎるわよスピカ……》


 呆れ声を上げるトレミィ。一方のスピカは満腹で転がっていたプルートを撫でると、起き上がるように指示を出す。


「じゃあプルート、お腹いっぱいのところ悪いけど、少し乗せてね?」


「ガアゥ」


 プルートが姿勢を低くすると、軽やかに飛び乗るスピカ。


《ガルムを乗り物にする勇者なんて他にいないわよ……ところでどこかに移動するのかしら?》


(そうだよ、ここで暴れると家が壊れちゃうかもしれないしね。広いところで思いっきり動き回りたいし、それに……)


 プルートを優しく撫でながら口を開く。


「何かあってもプルートが守ってくれるもんね?」


 撫でられたプルートは嬉しそうに体を震わしている。


《そういうことね、じゃあ……》


「うん! じゃあプルート、出発!!」


 スピカの掛け声に合わせて駆け出すプルート。一瞬でトップスピードに乗ると、一筋の黒い影となり太陽が沈む地平線に向かうのだった。



★ ★ ★ ★ ★ ★



 そして現在。すっかり日も落た星空の下、キラキラと輝く自身の姿を満足げな表情で見るスピカの姿があった。


《予想通り、星空じゃないと発動出来ない神託ってことかしら?》


(やっぱり私の願いが関係してるのかな……)


《そうだと思うわ。お星様になりたいっていう願いから生まれた神託だから、星空の下じゃないと使えないとかじゃないかしら?》


(なるほど、とりあえずこれで力を使う条件は分かったね)


 まずは力を使うための条件を確認出来た二人、次に能力の向上についても色々と試し始める。


(まずは力かな? ガルムと戦ってる時を思い出して……)


 集中するスピカ。戦っていた姿を思い出しテンションの上がったトレミィは、早く神託の力を試すよう催促してくる。


《ちょっと! 早く色々やって見せてよ! 私の神託でもあるんだから!!》


(分かった分かったよ、じゃあ軽く剣を振ってみるから)


 慣れた手つきで剣を抜くと、両手に構え振り下ろす。何ということはない動作だったが、剣が振り下ろされた瞬間――



ドゴオォォォン!!



「《え……?》」


 轟音ともに舞い上がる土埃。あまりの衝撃に驚き固まるスピカとトレミィ。視線の先にあったのは地面をえぐる巨大な切り込み跡であった。


(え……凄い……)


《凄すぎるわよ! ガルムと戦った時はこんなんじゃなかったわよ!》


(そうだね……なんでだろう……)


 異常とも言える威力に思わず天を仰ぎみるスピカ、そして気付く。


(あっ、もしかして……あの時は結構曇ってたから)


《そっか! 今日は雲が全然ないから、曇っていたあの時よりも力が増してるってことかしら?》


(うん、そんな気がする。だって空を見てると力がどんどん湧いてくるから!)


 答えに辿り着き満足した二人は、勢いに乗って次々と力を試してゆく。



★ ★ ★ ★ ★ ★



「ふうっ、凄いコレ!!」


 スピカの前方には無数の切込み跡が地面をえぐっていた。調子に乗ってブンブンと剣を振り回した結果、若干地形が変わってしまったのだ。


《ホントに凄いわ!でもちょっと……》


(うん、ちょっとやりすぎたかも……)


 スピカの立つ場所、そこは半径三メートルほどのクレータの中心だった。


 脚力を確かめる為と思い切り跳躍したスピカは、二十メートルほどの高さまで飛び上がった。そして、両足で思い切り踏みつける様に着地した結果、大きく地面をえぐりクレーターを作ることとなったのだ。


(それにプルートにも悪いことをしちゃった)


 クレータの淵では、プルートがゼェゼェと息を吐きながらぐったり横たわっている。


 体力はどうだろう? とプルート相手に追いかけっこをしていたのだが、無尽蔵の体力と異常な速度であっという間にプルートを限界まで追いやってしまっていた。


《尋常じゃないわね……星空の下なら無敵じゃない!》


(そうかな……それじゃあちょっと……)


 おもむろに目を閉じるスピカ、数秒後目を開くと斜め後ろを振り返る。


「本当に無敵か確かめてみようかな!」


 言うや否や一気に跳躍しクレーターを飛び出すと、閃光を引きながら駆け出す。


「すぐ戻ってくるから! プルートはそこで待っててね~」


《ちょっとスピカ! どこに行くのよ!?》


(あっちに魔物がいるから、ちょっと戦いに行ってみる。やっぱり実戦は必要だよね!)


《魔物がいるって、ホントなの?》


(うん、昔から何となくいろんな気配は感じることが出来たんだけど、多分そういう感覚も強化されたんだと思う)


《そう言われれば……》


 ガルムの接近にもいち早く気付いていた、と思い当たるトレミィ。


(もうすぐ見えるよ、結構大きいのが三体くらいいると思う)


 スピカが答えるのとほぼ同時に、前方に影が姿を現す。スピカが作ったクレーターの位置からでは到底感知出来ないであろう距離にもかかわらず、スピカの宣言通り巨大な魔物の影が三体、確かにそこに存在していた。


《あれは……グズリーじゃない!》


 巨大な二足歩行の熊型の魔物、グズリーは鳥獣型に分類される魔物の上位種である。濃褐色の毛におおわれた巨体は二メートル近くあり、旺盛な食欲で同じ魔物であっても食料にしてしまう獰猛さが知られている。


 討伐には三等級勇者とそのパーティが必要と言われる強力な魔物だが、今のスピカからすれば酷く物足りない相手であった。


 足に力を籠め一瞬でトップスピードに乗るスピカ。光の残像を残しその場から消えると、次の瞬間には輝く刀身を振るっていた。


 目にもとまらぬ一閃。先頭にいたグズリーはスピカの存在を認識することもなくバラバラに崩れ去る。


 残った二頭が慌てたように襲い来るが、振り下ろされる爪を見てもスピカから余裕は消えない。それどころかおもむろに片手を差し出すと、その爪を無造作に掴み取ってしまった。


 本来であれば、人間が素手で太刀打ちなど出来ないグズリーの爪、それを易々と掴み取ったスピカは、そのまま片手でグズリーの巨体を放り投げてしまった。


 数メートルの距離を飛ばされる巨体、その光景を見て唖然とした様子で動きを止める三頭目のグズリー。その隙を逃すはずもなく、スピカは一瞬でグズリーの巨体を切り裂いてしまう。


 真っ二つになるグズリーを横目に、放り投げたグズリーの落下位置に一瞬で回り込むと、落ちくるグズリーを思い切り殴り飛ばす。


 その威力に内側から弾け飛ぶ巨体。内臓がまき散らされ、息絶えたグズリーを見ながらスピカが口を開く。


「私……強いかも!」


《いや! 強すぎるわよどう考えても!!》


 澄み渡る星空の下、力の使い方を覚えたスピカは、自らの力を"星の力"と名付けた。


 星の力を得た最強の勇者が誕生した夜であった。

ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。


また、ブックマークやpt評価、感想も是非によろしくお願いします。

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