86話:ヴァン・デスティーユの攻防 ~再誕~
「右から…………今度は左…………そのまま突っ込んで…………」
「ガルルルラァァァ!!」
「今です、ウラノス様!」
「グオオオォォォッ!!」
スピカに戦場を託され、決死の戦いを繰り広げるプルートとウラノス。
シャウラとジェルミーナの指示にあわせて、間断なく攻撃を仕掛け続けるが。
「ゴゴオオオォォォッ!!」
煌くプルートの爪牙を跳ね除け、上空から強襲するウラノスを弾き飛ばし、傷一つ負うことのないアークトゥルス。
流動する体を巧みに操るアークトゥルスは、全身に無数の刃や槍を形成し、全方位に向けた波状攻撃を繰り出していた。
「硬い…………速い…………強い…………でも…………」
「ガルウアアァッ!!」
切り裂かれ、貫かれ、全身から血を噴き出しながらも、果敢に突撃し続けるプルート。
その捨て身の猛攻に、アークトゥルスも足を止めての対応を余儀なくされる。
「プルート…………もうちょっと…………だけ…………頑張って…………ね…………」
「ガフッ……ガフッ……」
癒しの光を灯らせ、プルートの傷を癒し続けるシャウラ。
ダメージは瞬時に回復され、体は万全の状態を保ち続けるプルート。しかし、連戦によって削られた精神力までは回復されることはなく、徐々に疲労の色が増していく。
息をつき、動きの精彩を欠いていくプルート。その隙を突き、アークトゥルスが腕を槍状に変形させ、プルートへと突き伸ばす。
「プルート…………後ろ…………!」
「ガルァ!?」
咄嗟に反応するプルートだが、すでに回避の間に合わない距離まで迫る銀色の槍。
プルートを仕留めるべく腕を伸ばし続けるアークトゥルスだったが、その頭上から灰色の巨体が襲い掛かる。
「させません!」
「グゴオオォォッ!」
大気を震わせながらアークトゥルスへと突撃するウラノス。降下の勢いが乗った体当たりを受け、大きく体勢を崩すアークトゥルス。
激突の衝撃で、必然的に軌道を変えさせられた腕は、地面を抉りながら大きく空振ることになる。
「良かった、間に合いました!」
間一髪で間に合った援護に、小さくガッツポーズを見せるジェルミーナ。しかし、倒されたアークトゥルスをつぶさに観察していたシャウラが、緊迫した声を上げる。
「ダメ…………ジェルミーナ…………早く…………退避…………して…………」
「え?」
ジェルミーナが疑問の声を上げた直後、膝を突くアークトゥルスの全身に光が走る。
幾何学模様が目まぐるしく明滅し、交差する光の線。
明滅と共に体を歪ませるアークトゥルス。光が収まると同時に、全身から剣山の様に棘を伸ばし、一瞬にしてウラノスを串刺しにする。
「グオオオォォン!?」
ウラノスの体を貫く無数の棘。筋肉も骨も内臓も一突きにした棘は、勢いを落とすことなくジェルミーナへと迫る。
「そんな!」
ジェルミーナの華奢な体を目掛け、勢いを増す無数の棘。
銀色に光る先端がジェルミーナの目前まで迫ったその時、瞬く星の輝きが天から舞い降りる。
「ジェルミ!」
滑り込む様にジェルミーナの前へと飛び込んできたスピカは、体を捻りアステルを引き抜くと、迫り来る無数の棘を一閃で切り伏せる。
そのままジェルミーナを抱え上げ、空中へと退避するスピカ。
「ス、スピカ様!」
「ジェルミ、大丈夫だった?」
「はい、でもウラノス様が!」
心配そうに顔を歪めるジェルミーナに対して、笑いながら答えるスピカ。
「ふふっ、ウラノスならあれくらい平気だよ、ほら」
スピカに指し示され下方へと目をやるジェルミーナ。視線の先では、ズタボロになりながらも棘から逃れたウラノスの姿が。そして、即座にその傷を修復するシャウラの姿があった。
傷を癒し、再び空へ飛び立ったウラノスは、スピカと同じ高度まで上昇すると、平行して飛行する。
「ウラノス様、良かった!」
「グオオォォンッ!」
安堵の声を上げるジェルミーナに、威勢の良い鳴声で返すウラノス。空中で静止したウラノスの背に、ゆっくりと降り立つスピカ。
「ウラノス、ジェルミをお願いね」
「グゴォゥッ」
ウラノスの背にジェルミーナを降ろしたスピカは、両の手の平から星の魔法を発動しながら、緩やかに空中へと飛び立っていく。
「私はちょっと、アイツを倒してくるから!」
「分かりました、……スピカ様、ご武運を!」
星の魔法を左右に放つ。と同時に、光の尾を引きながら急降下するスピカ。
《さ、いよいよ決着かしらね》
(うん、しっかり勝ってくるから!)
アークトゥルスの頭上で静止したスピカは、戦いの様子を観察しながら静かに合図を待つのだった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
一方、バリスタの発射体勢を整えたリゲルは、アークトゥルスへと狙いを定めながら声を張り上げていた。
「シャウラ! 斜線上だ! 上手くおびき寄せろ!」
「うん…………任せて…………」
プルートを操り縦横無尽に駆け回りながら、バリスタの斜線上へとアークトゥルスを誘導していくシャウラ。
「スピカ! 準備は良いな?」
「もちろん!」
ジェルミーナを預けたスピカは、上空から戦況を眺めながら、腰元のアステルを引き抜く。
「もう…………少し…………」
前後左右に飛び回るプルートを追い、徐々にバリスタとの距離を縮めていくアークトゥルス。
「もう二歩……もう一歩だ」
狙いを定め、静かにタイミングを待つリゲル。そして──
「ここ…………!」
「今だ!」
合図と共に、激しい金属音を上げ発射されるバリスタ。
射出力強化のバネが組み込まれた発射台は、限界強度を超えた射出力によって、発射と同時に砲台ごと吹き飛んでいく。
大気を貫き一直線にアークトゥルスへと迫る矢。
その後端、リゲルによって装着された黒い機構が突如として火を噴く。
威力を増すため取り付けられたその機構は、ミサイルの様に火を噴きながら前へ前へと矢を押し出していく。
「ゴッ!? ゴゴゴゴオオォォッ!」
激しい火花と発射音に気付いたアークトゥルスは、怒りの声を上げながら正面に構え、硬く握った拳を突き出す。
「シャウラ、退避だ!」
「了解…………」
直ぐ様その場から退避するシャウラとプルート。直後、アークトゥルスの拳と矢の先端がぶつかり合い、強烈な火花と閃光が迸る。
「行け! スピカ!!」
「任せて!!」
リゲルの声にあわせ、アステルをまっすぐ下に構えたまま一気に降下するスピカ。ぶつかり合うアークトゥルスの拳と矢の先端、その間で軋んだ音を立てる白銅色の球体。ゴーレム核を目掛け、アステルを突き立てる。
さらに、タイミングを合わせて星の魔法がゴーレム核を挟撃する。
アークトゥルスの拳に、極限まで推進力の上乗せされたバリスタ。アステルの一突きに、星の魔法による挟撃。
ゴーレム核を中心に、ほぼ全方位から同時に加えられた強烈な衝撃の数々。
一瞬にして圧力の臨界に達した核は、歪む音を立て、表面に亀裂を走らせる。
亀裂から溢れ出す鋭い光を見て、即座に声を上げるリゲル。
「スピカ、退避だ!」
「うん!」
身を翻し空へと飛び去るスピカ。直後、形状を崩壊させた核から衝撃波が広がる。
「さあ、楽しい楽しい実験の時間だ」
衝撃波でコートをはためかせながら、不適に笑い両手を広げるリゲル。
「まずは復習だ、ゴーレムの核は強い圧力をかけると、周囲の物質を吸収して新たなゴーレムとして再生する。お前等ちゃんと覚えてたか?」
迸る眩い光の中、一瞬にして細かい粒子へと姿を変えるゴーレム核。
「じゃあ問題だ、圧力のかかったゴーレムの核が再生する時、他のゴーレムが近くにいたらどうなるか?」
「ゴゴゴッ! ゴゴオオオオォォォォッ!?」
唸り声を上げるアークトゥルス。その拳の先端から細かい粒子へと姿を変え、光の中に飲み込まれていく。
「正解は、見てのお楽しみだ」
周囲の岩や土も、バリスタの矢も、星の魔法も光の中へ飲み込まれていく。
「ゴゴオオオオォォォォ……」
断末魔を上げながら、体を崩壊させていくアークトゥルス。
瞬く間に全身を粉々に分解されたアークトゥルスは、なす術もなく光の中へと吸い込まれていく。
全てを飲み込んだゴーレム核。
一際強く光ったかと思うと、一塊の光となり大きく弾ける。
そして。
白く染まる世界。
弾けた光は靄となり、深い霧の様に立ち込める。
辺り一帯を白く染め上げる光の靄。
「ゴ……ゴオォ……」
立ち込める靄の中、ゆっくりと起き上がる巨大な影。
全身に走る、淡く輝く幾何学模様。
夜の明かりを反射する黄金色の体。
頭部には、一際複雑に模様の走る黄金色の球体が浮かぶ。
アークトゥルスの面影を残しながらも、大きさと輝きを増した巨大な姿。
「ゴオオオオォォォォッ!!」
立ち込める靄を吹き飛ばし、空気を震わせる唸り声と共に姿を現すゴーレム。
「実験、成功……!」
満足気に笑みを浮かべるリゲル。
ここに、黄金色に輝く新たなゴーレムが誕生した。
ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。