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85話:ヴァン・デスティーユの攻防 ~策~

「ゴゴオオオォォォッ!!」


《来るわよ! 気を付けてスピカ!!》


 唸り声を上げ、激しく両腕を振り回しながら鳴動するアークトゥルス。


 対するスピカは、アークトゥルスから視線を外すことなく、横に並ぶリゲルへと問いかける。


「リゲル、作戦は?」


「もちろんある、だが未だ準備中だ」


 リゲルもまた、油断なく正面を見据えたままスピカの問いに答える。その答えに被せて、今度はシャウラが口を開く。


「時間が…………かかる…………? …………私達は…………何を…………すれば良い…………?」


 シャウラの問いにニヤリと笑みを浮かべたリゲルは、並び立つ二人へとそれぞれ指示を出す。


「よし、スピカはとりあえず奴の足止めだ。今のお前ならそれなりに足止めできるだろ?」


「うん、倒すのは厳しいかもだけど、足止めで良いなら」


 小さく頷き、マントをはためかせフワリと宙に浮かび上がるスピカ。


「後でプルートとウラノスも向かわせる。そしたらスピカは一回俺のところまで戻ってこい、良いな?」


「了解!」


 勢い良く返事をし、アークトゥルスへと突撃していくスピカ。両手から星の魔法を放ち、光の粒子を撒き散らしながら一直線に速度を上げていく。


「それで…………私は…………?」


「お前も足止め役だが……おっ、丁度良いところに戻ったな」


 スピカを送り出し、残されたリゲルとシャウラ。そこへ、巨大な黒い影が飛び込んでくる。


「ガルルウゥッ」


 息を切らせながら駆け戻ったプルート。アークトゥルスに引きずられたダメージで、体のいたるところから血を流しながら、落ち込んだ様子で頭を垂れている。


「ガフゥ……」


「お前にも次の仕事を……って、何だ? 元気がねえぞ」


「きっと…………あの…………ゴーレムに…………勝てなかった…………から…………それで…………落ち込んでる…………」


「ガアウゥ……」


 悔しそうに目を伏せるプルート。だが、苛立ちの表情を浮かべるリゲルは、プルート頭を思い切り叩く。


「アホか!! 下らねえことで落ち込んでる暇があったらな、さっさと次の行動に移れ!」


「キャイィ……」


「リゲル…………酷い…………怪我も…………してるのに…………」


 ますます落ち込むプルートをそっと抱き寄せるシャウラ。そのまま癒しの光を灯らせ、全身の傷を優しく治療する。


「おい……やたら優しいなお前……気色悪いぞ?」


「傷だらけ…………で…………血まみれ…………だったから…………アンデット…………みたいで…………とっても…………可愛い…………ふふふ…………」


「そ、そうか……」


「ガァル……」


 薄気味悪く笑い続けるシャウラに、引きつった声を上げるリゲルとプルート。


「って、んなこと今はどうでも良いわ! それよりやることがあるだろ!」


「うん…………そうだった…………」


「ガルゥ?」


 キョトンと首を傾げるプルートと、スピカを相手に暴れ回るアークトゥルスを交互に指差すリゲル。


「プルート、お前今から奴に特攻して来い。死ぬ気で食らい付け!」


 言いながらシャウラへと向き直ったリゲルは、続け様に口を開く。


「シャウラ、プルートに乗って一緒に突撃してこい。そんでプルートのダメージを超速で治し続けろ、とにかく奴をこっちまで来させるな」


 捨て身の特攻という常軌を逸したリゲルの指示。しかし、プルートと視線を交わしたシャウラは、速やかに背へと跨り薄く笑みを浮かべる。


「良いね…………ゾクゾク…………するね…………じゃあ…………いってくる…………」


「ガルオオオォォン!」


 威勢の良い遠吠えを上げ、アークトゥルスへと突撃していくプルート。入れ違いに、リゲルの頭上を風が吹き荒れる。


「遅くなりました!!」


「グオオオオゥッ」


 響き渡る甲高い声と低い鳴声。声と共に、ジェルミーナを乗せたウラノスがゆっくりと降下する。


 コントラカストラの防衛軍から奪ったバリスタを、慎重に地上へと降ろすウラノス。


「ナイスタイミングだ、先端を奴の方へ向けて降ろせ!」


「グオオォォン!」


 リゲルの指示通り、先端をアークトゥルスへ向けて設置されるバリスタ。それを見届けたジェルミーナが、ウラノスの背から顔を覗かせる。


「言われた通りに持ってきましたよ! コレで良いのですよね?」


「ああ、上出来だ!」


 バリスタの調子を確かめたリゲルは、直ぐ様ジェルミーナへも指示を飛ばす。


「よし、お前達も奴の相手だ! プルートの援護をしつつ、死んでもこっちに近づけさせるな!!」


 リゲルの指し示す先で、アークトゥルスへと捨て身の攻撃を繰り返すプルート。


 アークトゥルスのしなる豪腕は、プルートの肉を抉り、骨を折る。


 全身から血を噴き出しながら地を転げるプルート。それでも、シャウラによって瞬時に再生されると、怯むことなく再びアークトゥルスへと襲いかかっていく。


 また、煌めく線を描きながら飛び回るスピカは、プルートの再生する隙を埋める様に攻撃を繰り返している。


 斬撃を飛ばし、魔法を放ち、時には拳で殴りかかり、絶え間ない攻撃を仕掛け続ける。


 スピカとプルートによる、目にも留まらぬ連続攻撃。その圧倒的な手数により、これまであらゆる攻撃を跳ね除けて進撃してきたアークトゥルスを、見事その場に釘付けにしていた。


 その激戦をウラノスの背から眺めるジェルミーナ。


「あの戦いに……割って入るのですか……」


 命を懸けた激しい攻防に、思わず息を飲み震える手を握り締める。そんなジェルミーナに向けて、地上から挑発する様な声が上がる。


「何だ? もしかしてビビってんのか?」


「なっ!? ビビッてなどいませんよ! スピカ様と共闘できると思って、武者震いしてたところです!!」


 リゲルの軽口に、目をとがらせて気を吐くジェルミーナ。怒りのままにウラノスの背を叩き、声を張り上げる。


「生意気なチビ男に言わせておいてなるものですか! いきますよウラノス様!!」


「グオオオォォォッ!!」


 ジェルミーナの掛け声と共に、アークトゥルスへ向かい飛び掛かっていくウラノス。それを見届けたリゲルは、満足気に笑みを浮かべながらバリスタへと視線を送る。


「はっ、やれば出来るじゃねえかよ、ったく」


 風に舞うオレンジのコート、その表面に描かれた練成陣が微かに煌く。


 懐から直径十五センチほどの白銅色をした球体を取り出したリゲルは、バリスタへ手を触れる。


「後は俺の仕事だな」


 バリスタに備え付けられた矢の先端、そこに白銅色の球体を重ね、静かに錬金術を発動するリゲル。


 錬成の光と共に形を変えた矢は、その先端に白銅色の球体くわえ込む形で固定される。


「こんなもんだろ、ついでにもう一工夫しとくか」


 そう言うと、今度はバリスタ本体へも錬金術を施すリゲル。射出の機構には金属のバネが組み込まれ、矢の後端には黒い部位が取り付けられる。


 発射の機構には強力なバネが組み込まれ、極太の矢の後端には謎の黒い部位。そして矢の先端には白銅色の球体が一体化しているという何とも異様なバリスタが完成する。


 その出来を確認し、小さく頷くリゲルの元へ、流星のごとき光の塊が飛び込んでくる。


「リゲル、お待たせ!」


「戻ったか、良いタイミングだ」


 プルートとウラノスに戦いを任せ、指示通りリゲルの元へと舞い戻ったスピカ。出来上がったバリスタを見て、思わず目を丸くする。


「何これ!? 何か凄い武器があるけど」


 まじまじとバリスタを眺めるスピカ。その先端に設置された白銅色の球体にトレミィが気付く。


《あら? この先端の丸いのって、少し前に倒したゴーレムの核じゃないかしら?》


(核? あぁ、リゲルが実験するとか言ってたやつだ)


「この先っぽのって、一緒に倒したゴーレムの核だよね」


「良いとこ見てるな、その通りだ」


 リゲルの答えに、スピカは疑問の声を上げる、


「あれ? でもこれって実験に使うって言ってなかった? 確か圧力がどうとか……」


「よく覚えてたな、コイツを使って実験をしたいと思ってたんだ、だから……」


 言葉を切ったリゲルは、自慢げに腕を組み再び口を開く。


「コイツの実験ついでに、奴もまとめて倒してやろうと思ってな!」


 不敵に笑みを浮かべるリゲル。


 そして、スピカへと作戦の最終指示が伝えられる。

ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。

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