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84話:ヴァン・デスティーユの攻防 ~集結~

 ひしめき合うアンデットの群れ。


 その中を疾駆する黒い影。


 その影を追い、アンデットを薙ぎ払いながら進撃する銀色の巨体。


 リゲルとプルート、そしてアークトゥルスの戦いは、時間を経過するごとに激しさを増していた。


「クソッ、全然攻撃が通じねえ!」


「ガフッ、ガフッ」


 駆け回るプルートの背で、忌々し気に悪態をつくリゲル。


 煌く爪牙も、そこから放たれる斬撃も、プルートの繰り出す攻撃は全て、アークトゥルスの鉄壁の防御に弾かれてしまう。


 さらに、変幻自在に流動する金属の体を操り、距離を無視して高速の攻撃を繰り出すアークトゥルス。


 一度拳を振るえば、地は抉れ、岩石は砕け散り、大量のアンデットがまとめて薙ぎ払われる。


 攻撃、防御、速度、全てが揃った最強のゴーレムを相手に、リゲルもプルートも防戦一方を強いられていた。


「何とか近付ければ錬金術が試せるんだが、そんな隙もありゃしねえな……うぉっと!?」


「ガルルォッ!?」


 急激に鋭さを増し、振り払われたアークトゥルスの腕を、間一髪横っ飛びに躱すプルート。


「危ねえっ……プルート、もうちょっと距離取っとけ!」


「ガルルッ!」


 バックステップで後退するプルートを追い、巨体を前進させるアークトゥルス。その背後から甲高い叫び声が響く。


「ウラノス様! 今です!!」


「グウオオォォッッ!!」


 アークトゥルスの背面上空。響き渡る声と共に、紫色の奔流が地上へと降り注ぐ。


 ジェルミーナを乗せ、上空から様子を伺っていたウラノスが放ったブレス。


 紫色に染まる猛毒のブレスは、周囲のアンデットを一瞬に溶かしながら、アークトゥルスを飲み込む。


 そして、勢いを落とすことなく、射線上にいたリゲルとプルート目掛けて迸る。


「って、うおぉいっ!?」


「ガルロララァッ!?」


 咄嗟に飛び退きブレスの範囲外まで退避したプルートとリゲルは、冷や汗を流しながら上空へ向けて怒号を放つ。


「てめっ、ふざけんなテメェ! 俺達まで巻き込む気か!?」


「ギャンッ! ギャンギャン!!」


「あぁっ、ごめんなさいプルート様! そこのチビ男だけ巻き込むつもりだったのですが……てへっ」


「テメェ……マジでブチ殺すぞ……」


 戦闘中にも拘らず、動きを止め睨み合うリゲルとジェルミーナ。


 呆れた目で、お互いの背に乗る二人を交互に見つめるプルートとウラノス。


 猛毒のブレスで立ち込める砦内。紫色に染まる大気。その大気を震わせて、激しい唸り声が響き渡る。


「ゴゴゴオオオォォォッッ!!」


「なっ、そんな!」


「マジか……」


 リゲルとジェルミーナの視線の先。猛毒のブレスを振り払い姿を現すアークトゥルス。


 その体には傷一つなく、ブレスの影響を微塵も感じさせない艶と光沢で、銀色の巨体を輝かせる。


「アレでも無傷かよ、いよいよ俺達だけじゃ打つ手がなくなってきたな」


「一体どうすれば……」


 幾何学模様を光らせ、アークトゥルスが次の行動に移ろうとしたその時、新たな声が戦場に乱入してくる。


「いたぞ! 例の女エルフとドラゴンだ!!」


「ダマダル様を探せ! 取り戻すのだ!!」


 アンデットの群れを蹴散らし、進軍するコントラカストラ防衛軍一団。


 先頭で黒馬を操る軍隊長が、高らかに剣を掲げ声を張り上げる。


「ダマダル様を攫ったドラゴンに、奴が件のゴーレムロードか。そして、巨大な黒い狼……邪悪なる魔物共め、我々がまとめて粛清してやろう!」


 軍隊長の号令をかわきりに、次々と放たれる矢。


 幾本もの矢が腹に突き刺さるウラノスだが、アンデットであるウラノスは、気にする風もなく上空をゆっくりと旋回する。


「ウラノス様、大丈夫なのですか?」


「グオゥッ」


 リズム良く鳴き声を上げ、ダメージがないことをアピールするウラノス。その様子に、軍隊長の側近である壮年の兵士が口を開く。


「軍隊長、どうやら弓矢による攻撃が効いていない様です。あのドラゴン、アンデットの可能性があります」


「確かに、ここはヴァン・デスティーユ砦。アンデットロードであれば、ドラゴンゾンビを従えていても不思議はないか」


 顎に手をやり思考する軍隊長。小さく頷くと、側近の兵士へと指示を出す。


「よし、如何にアンデットであろうも不死身という訳ではない、バリスタを用意しろ!」


「はっ」


 軍隊長の指示に従い次々と設置されるバリスタ。極太の矢が備え付けられた大型の弩砲が、ウラノスに狙いを定め引き絞られていく。


 その様子を、悪い笑みを浮かべながら観察するリゲル。


「バリスタか……良いな、アレ」


 リゲルとジェルミーナが戦況を見つめる中、軍隊長を筆頭とし、押し寄せるアンデットを切り伏せて回る防衛軍一団、しかし。


「「あっ」」


 一足先に()()()()リゲルとジェルミーナがそろって声を上げる。視線の先では、誇らしげに剣を構え黒馬を駆る軍隊長の姿がある。


「他愛もない! 所詮魔物などこの程、我々人間の敵ではな……い……?」


 唐突に周囲を覆う暗闇。


 軍隊長の真上から差す巨大な影。


 顔を上げた軍隊長の目に、銀色の巨体が映る。


「なっ、いつのまにぐぶぢゅっっ」


 しなる鞭のごとく振り払われたアークトゥルスの豪腕。


 声を上げる間も与えられず、一瞬で肉塊へと姿を変える軍隊長。


「軍隊長! 馬鹿なごぼほふぅっ」


「まずいっ、退びびゃっ」


 飛び散る軍隊長の肉片と血しぶきを浴びながら、次々と葬られていく防衛軍の面々。


「ゴオオオォォォッ!!」


 突如として現れた人間達へと狙いを絞り、地を踏み鳴らし暴れ回るアークトゥルス。


 その隙を突き、上空へと声を張り上げるリゲル。


「今のうちだな……ジェルミーナ! ちょっと降りてこい」


「何ですか!」


「策を思いついた、良いから早く降りてこい!」


「策?」


 疑問の声を上げながらも、降下するジェルミーナとウラノス。その間にプルートから飛び降りたリゲルは、プルートへも指示を出す。


「こっちも準備進めるぞ、プルート」


「ガルゥ?」


「アイツ、しばらくお前に任せられるか?」


 アークトゥルスを指差し訪ねるリゲルに対して、勢い良く首肯し答えるプルート。


「ガルルッ!」


「よっしゃ! そんじゃしばらく任せる、あとで合流するぞ」


「ガルラアァッ!!」


 声を上げ駆け出すプルート。入れ違いにウラノスが地上へと降り立つ。


「来ましたよ、それで策というのは何なんです?」


「おう、お前らひとっ飛びしてアレ一つ奪ってこい」


 立ち並ぶバリスタを指差し、ニヤリと笑みを浮かべるリゲル。


「それと、俺の荷物全部降ろしていけ」


「良く分かりませんが……アレがあれば勝てるのですね?」


「ああ、勝てる。いや、俺が勝たせてやるよ」


 不敵に笑うリゲルに対して、ジェルミーナもまた薄く笑みを浮かべる。


「カッコ良いことを言うじゃないですか。分かりました、いきましょうウラノス様!」


「グウオオォッ」


 ジェルミーナの言葉と共に、風を巻き上げ飛び立つウラノス。


「よし、こっちも準備を進めるか」


 ウラノスの背を見送り、降ろされた荷物を漁るリゲル。そこへ、背後からプルートの遠吠えが響き渡る。


 遠吠えの元。プルートに噛み付かれたままのアークトゥルスが、地面を踏み鳴らしながらリゲルへと迫っていた。


 防衛軍をあっさりと壊滅させ、リゲルへと迫るアークトゥルス。何とか食らい付くプルートだが、桁外れの膂力に引きずられ、その勢いを止めることができない。


「おいっ、クソ人間共、全然時間稼ぎになってねえじゃねえか!」


 悪態をつく間にも距離を詰めるアークトゥルス。腕を振り上げ、勢いの乗った拳をリゲルへと突き放つ。


「クソが!」


 風を切り、リゲルへと迫るアークトゥルスの拳。その拳がリゲルへと届く一歩手前で、両者の間に流星が降り注ぐ。


「させない!!」


 アークトゥルスの拳を受け止める眩い光の塊。


 間一髪、リゲルの前へと降り立ったスピカが、真正面から拳を受け止める、しかし。


「うわっ! ちょっ、強っ!?」


「スピカ…………ちゃんと…………受け止むみゃっ…………!?」


「おいっ、ちゃんと受け止めうべぁっ!?」


 勢いの乗った拳に押し切られ、リゲルを巻き込みながら吹き飛ばされるスピカ。


 スピカにしがみ付いていたシャウラも一塊にし、土埃を上げながら地面を滑る。


「はぁっ……ヤッバイ! あいつ強いね!!」


「強いね!! じゃねえよ! ちゃんと止めろよテメェ!」


「リゲル…………死ぬとこ…………だった…………この程度で…………すんで…………ラッキー…………」


「まあ、そうだけどよ」


 必殺の破壊力を持つアークトゥルスの一撃を食らった三人。しかし、スピカが勢いを相殺した結果、ほぼ無傷で立ち上がる。


「あいつで…………最後…………かな…………?」


 三人の傷を癒しながら、ニヤリと唇を吊り上げるシャウラ。


「そうみたいだね、それじゃあ」


 アステルを引き抜き、光の粒子を舞い散らせるスピカ。


「あぁ、役者はそろった、後は勝つだけだ!」


 コートをはためかせ、声を張り上げるリゲル。


 ついに揃った、スピカとそのパーティ。


 戦いは最終局面へと突入する。

ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。

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