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83話:ヴァン・デスティーユの攻防 ~血と骨~

血みどろ回です。

 燃え盛る黒炎。


 周囲に満ちる、生き物の焼けた匂い。


 血肉と骨の散乱する異様な光景。


 ヴァン・デスティーユ砦地下通路では、地獄の様な光景が広がっていた。


「カカカッ、その程度か死を拒む者(ネクロマンサー)? 口ほどにもないわ!」


 灼熱の黒炎を放つアナスタシオス。こぶし大の炎を無数に操り、シャウラの体を次々と焼き飛ばしていく。


 全身を焼かれ、熱風に手足を吹き飛ばされ、それでも余裕の表情を崩さないシャウラ。


「そっちこそ…………大したこと…………ない…………」


「ほう? その余裕、どこまで持つか試してやろう」


 アナスタシオスの持つ杖の先端、一際大きな火球が空気を歪めながら出現する。


「あっさりと死んではくれるなよ?」


 放たれた火球は一瞬にしてシャウラを包み、激しく全身を焼き散らす。


「更にゆくぞ」


 続け様に杖を振るい、魔力を集めるアナスタシオス。


 杖の先端から迸る黒い雷が、炎に包まれるシャウラへと襲い掛かる。


「止めだ、滅びよ!」


 三度魔力を集中させたアナスタシオスは、地面に杖を打ち鳴らす。


 アナスタシオスの魔力を受け、徐々に姿を変える石造りの床。砕けた石材が集い、シャウラの身長ほどもある巨大な獅子の頭部を形作る。


 禍々しい魔力に黒く染まる獅子は、燃え盛り電光を散らせるシャウラを一口に貪り食らう。


 やがて、炎は消え、雷は霧散し、獅子は役目を終え土塊へと姿を変える。融解し黒煙を上げる通路には、シャウラの姿は跡形も残ってはいない。


「カカカッ、所詮は人間の小娘よ……」


 勝利を確信し、きびすを返すアナスタシオスだったが、背後から冷ややかな声が上がる。


「もしかして…………もう…………お終い…………?」


「何!?」


 振り返るアナスタシオスの視線の先、すでに全身を再生し終えたシャウラが、何事もなかったかの様に焼け焦げた地面に立ち上がる。


「まさか、こうもあっさりと再生されるとはな」


「ふぅ…………あんなのじゃ…………死にたくても…………死ねない…………よ…………?」


 自らの爪で頬をガリガリと引き裂くシャウラ。流れ出た血をベロリと舐め取り、アナスタシオスへと笑みを向ける


「私の…………体は…………この…………血の…………一滴まで…………邪神様への…………信仰が…………染み渡ってる…………から…………」


 うっすらと頬を染めるシャウラは、引き裂いた頬を瞬時に再生させる。


「私を…………殺したい…………なら…………細胞の…………一欠片も…………残しちゃ…………ダメ…………だよ…………」


「なるほど、噂以上の再生力という訳か……」


 首肯し、杖を構えるアナスタシオス。その全身から揺らめく魔力が立ち上る。


「それでこそ、嬲り甲斐があるというものよ!」


「そう…………でも…………今度は…………こっちの…………番…………」


 対するシャウラは反撃に出るべく駆け出すが、アナスタシオスがそれを阻む。


「貴様の番などありはせぬ!!」


「うっ…………ぐうぅ…………」


 迸る黒い魔力。


 一瞬にして凝結する大気中の水分。


 表面に黒い紋様の走る氷塊が、シャウラの足元から立ち上り、瞬く間に腰元までを氷付けにし、その場に固定してしまう。


 身動きが取れずにもがくシャウラ。そこへ、鋭く放たれた氷の槍が襲い掛かる。


「あっ…………うぅっ…………うっく…………」


「カッカッカッ! どれほど再生力が高かろうとも、動きを封じてしまえば関係はない。多少傷が再生できる程度の力で、吾輩に歯向かった己の愚かさを悔いるが良い!」


 氷の槍に串刺しにされたシャウラへ、ゆっくりと歩み寄るアナスタシオス。動きを封じられたシャウラのあごを、杖の先端で強引に持ち上げる。


「では、このまま貴様の気が触れるまで、じっくり拷問といこうか?」


「…………お断り…………」


 突如として吹き上がる血しぶき。


 地下通路に響く破裂音。


「何だと!?」


 氷漬けされ、身動きを封じれていたシャウラは、固定されていた腰から下を過回復し、自ら下半身を破裂させたのだ。


 下半身を捨てることで強引に脱出したシャウラ。本来であれば致命傷である傷だが、意に介すことなくアナスタシオスへと掴みかかる。


「捕…………まえ…………た…………」


 ニタリと邪悪な笑みを浮かべたシャウラは、禍々しい紋様の走るアナスタシオスの骨腕を掴みとる。直後、シャウラの全身がぼんやりと薄く光り輝く。


「あなたも…………アンデット…………だったら…………私が…………生き返らせて…………あげる…………よ…………」


 シャウラから直接力を流し込まれ、アナスタシオスの骨腕からは漲る魔力の証である紋様が徐々に薄まっていく。


「我輩を生き返らせるだと!? 舐めるな小娘が!!」


 怒声を吐きながら、掴まれた骨腕へと魔力を集中するアナスタシオス。


 魔力を帯びた紋様は、再び濃く深く、禍々しさを増していく。


「我が名はアナスタシオス! 死者の王である! 小娘の信仰ごときに屈することは断じてない!!」


「死者の王…………でも…………所詮は…………ただの…………大きな…………骸骨…………でしょ…………?」


「ほざけっ!!」


 動きを止め睨み合いながら、力をぶつけ合う両者。


 シャウラの放つ信仰の光と、アナスタシオスの放つ黒い魔力が混じりあい、弾けたエネルギーが激しく火花を散らせる。


「こっ……の……小癪な!!」


「あっ…………」


 強引に腕を上げ、シャウラを振り払うアナスタシオス。下半身を失ったままアナスタシオスの腕にぶら下がっていたシャウラは、あっけなく放り飛ばされ地面を転がる。


 下半身を再生させ、立ち上がろうとするシャウラだが、先に体勢を立て直したアナスタシオスが魔力を迸らせながら杖を振るう。


「貴様はもう二度と近付けさせはせん!」


 放たれた魔法によって固められる周囲の大気。高密度の大気で作られた巨大なハンマーにより、押しつぶされるシャウラ。


「くっ…………ぐうぅ…………」


 空間を歪める程の圧力。高まっていく気圧に動きを封じられ、シャウラの全身から血が溢れ出す。


「カカカッ、このままミンチにしてやろうか!」


「ミンチ…………なんだ…………その程度…………」


 唐突に全身から力を抜くシャウラ。地面にひしゃげ、骨と内臓を軋ませるが、視線だけはアナスタシオスを捉えたままだ。


「何だ、まさか諦めたのか? だとしたら興醒めよ」


「逆…………だよ…………集中…………したかったから…………ね…………ふふっ…………」


 血を吐きながらも怪しく笑うシャウラは、ゆっくりと両手を重ね目を閉じる。直後、シャウラの全身から眩い光が溢れ出す。


「何だ!? これ……は……」


 柔らかで幻想的な光。その光を浴びたアナスタシオスの体から、徐々に魔力が霧散していく。


「馬鹿……な……直接触れずに……だと!?」


「毎日…………邪神様の…………お近くで…………祈りを…………捧げてるから…………ね…………これくらい…………出来て…………当然…………」


「くっ……」


 全身を覆う紋様も薄まり、苦しげに膝をつくアナスタシオス。


「じゃあ…………そろそろ…………生き返って…………みる…………?」


巫山戯(ふざけ)るな!!」


 禍々しいオーラ放ちながら巨体を起こすアナスタシオス。ドス黒い魔力を撒き散らしながら、杖を構えシャウラへと迫っていく。


 アナスタシオスの怒気に呼応し、再び濃度を増していく魔力の紋様。


 シャウラの光とアナスタシオスの闇がぶつかり合う地下通路。


 一歩も譲らない両者。戦いが膠着状態に陥ったその時──


「きゃあぁっ! あっああぁぁぁっ!!」


「何事だ!?」


「何…………?」


 突如として天井を破り、地下通路に舞い込んできた巨大な影。


 全身土にまみれているが、特徴的な極彩色の翼はアナスタシオスの見慣れたものだった。


「エリスカリスか! 馬鹿な、やられたというのか!?」


 突然の事態に動きを止め、魔力を途切れさせるアナスタシオス。


「隙…………だらけ…………」


 シャウラはその隙を見逃さない。


 アナスタシオスの魔法が途切れた瞬間、一気に駆け出しアナスタシオスの懐まで潜り込むと、胸元に両手を突っ込み目を閉じて祈りを捧げる。


「何だと!」


「もう…………遅い…………!」


 放たれた信仰の光と共に、アナスタシオスの全身から一気に魔力が霧散する。


 禍々しい紋様の走っていた骨格は、ただの白い骨へと姿を変える。


「があぁっ……まさか……我輩が……ここまで浄化されるとは……」


 体を震わせながら、杖を振り上げるアナスタシオス。


「貴様! 生かしてはおかぬぞ!」


 睨み合うシャウラとアナスタシオス。


 その頭上から響く甲高い声と共に、舞い降りる星の煌めき。


「残念、もうシャウラの勝ちだよ!」


 キラキラと光の粒子を撒き散らせながら、両者の間に降り立ったスピカ。


「シャウラ、迎えに来たよ」


「スピカ…………先に…………逃げてって…………言ったのに…………」


「そこの鳥に見つかっちゃってね。でも、良いタイミングで落ちてきたでしょ?」


「うん…………ナイス…………タイミング…………」


 笑顔と言葉を交わし、ハイタッチするスピカとシャウラ。


《まさかスピカ、ここを狙って落としたの?》


(うん、シャウラが戦ってるのは分かってたから、良い感じに蹴り飛ばせてよかったよ)


《何枚上手なのよ、スピカ……》


 感嘆するトレミィの声を聞きながら、シャウラを抱え上げたスピカは、そのまま空中へと飛び上がる。


「待てっ、貴様等!」


「用事は…………済んだ…………足止めも…………終わり…………」


 浄化され弱体化した体を無理やり動かし、追いすがるアナスタシオスに対して、ヒラヒラと手を振りながらペロリと舌を出すシャウラ。


「それじゃあ…………バイバイ…………お馬鹿な…………骸骨さん…………」


 挑発の言葉を残し、夜空へと消えていく。


「おのれ……」


 残されたアナスタシオスは、骨を鳴らし方を震わせる。


「おのれええぇぁぁっっ!!」


 夜空にこだまするアナスタシオスの怒号。


 ヴァン・デスティーユ砦、地下通路での攻防。


 アナスタシオスとの血みどろの激戦を制したシャウラは、スピカに抱えられ夜空へと舞い上がるのだった。

ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。

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