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77話:救出作戦 ~ゴーレムロード~

 ヴァン・デスティーユ砦、執務室。


 鳴り響く警報音と爆発音に、室内は騒然とした雰囲気に包まれていた。


「何だこれは、一体なにが起こった?」


「しばしお待ち下さい、配下の者が状況の確認に向かっておりますので」


 アナスタシオスの問いに、鎧を着こんだ部下のスケルトンが答える。そこへ、慌ただしくドアを開き、グールが駆け込んでくる。


「アナスタシオス様、大変です! 地下の人間が、それと砦正面でアンデットが大量に!!」


「落ち着くのだ、報告は正確に述べよ。地下がどうした?」


 ゆったりと構えるアナスタシオスの声色に、少し落ち着きを取り戻した様子のグールが、あらためて口を開く。


「失礼しました。まずは地下ですが、捕らえていた人間が脱走を図った様です。方法は分かりませんが、地下と地上を繋ぐ通路で外壁を破壊、こちらに連行途中だったグール二体を打ち倒した模様です」


「なるほど、やはり何か力を隠し持っていたか……」


「その様ですな。先ほどの爆発音も、件の人間が外壁を破壊した音かと思われます」


 静かに思考するアナスタシオスに、部下のスケルトンが言葉を重ねる。


「して、砦正面はどうなっておる?」


「それが、砦正面に大量のアンデットが現れたと報告があり……」


「大量のアンデットだと? それは当然であろう、この砦はアンデットロードたる吾輩が支配しておるのだからな」


「いえ、アナスタシオス様配下のアンデットではなく、別のアンデットが大量に地面から湧き出てきたと報告が上がっております」


「別のだと?」


 配下のグールからの報告を受け、怪訝な声を上げるアナスタシオス。


「はい、現在はアナスタシオス様の配下と湧き出てきたアンデットとで、混戦状態に陥っているとのことです」


「ふむ……」


 再び静かに思考に没入するアナスタシオス。配下のスケルトンも同様に、腕を組み考えながら口を開く。


「これは……アナスタシオス様、やっかいな敵が紛れ込んだかもしれませぬな」


「うむ、大量のアンデット……そんなことができる者は限られておるからのう」


 そう言いながら、顔を上げたアナスタシオスが砦正面の方角に目をやったその時、空気を震わせ巨大な咆哮が砦中に響き渡る。


「ゴオオォォッッ!!」


 ビリビリと砦全体を震わせるほどの咆哮に、部下のグールとスケルトンも思わず声を上げる。


「ひいぃ!?」


「こっ、この声は?」


「ふむ、アークトゥルスか。奴が暴れるとなると、吾輩の配下もまた数を減らすやもしれぬな」


 一人冷静に状況を分析したアナスタシオスは、壁に掛けてあった身の丈ほどもある杖を手に取り、執務室の扉を開ける。


「まあ良い、砦正面はアークトゥルスに任せておけ、吾輩は地下に向かう。お主等は砦正面の事態収拾に尽力せよ」


「「はっ」」


 蛇と獅子の装飾が施された巨大な杖を鳴らしながら、地下に向かうアナスタシオス。


「さて人間。お主の力見極めさせてもらうぞ、カッカッカッ」


 薄暗い通路に、アナスタシオスの不気味な笑い声が響き渡る。



 ★ ★ ★ ★ ★ ★



 砦正面。


 ひしめき合うアンデットを薙ぎ払い、リゲルとシャウラの前に現れたのは、幾何学模様に覆われた五メートルを超える銀色の巨体であった。


 金属を思わせる光沢のある無機質な体。その表面を覆う幾何学模様は、常に複雑に形を変えながら全身を蠢いている。


 巨大な二本の腕に、巨体とは不釣り合いな細く短い脚。頭部にあたる部分には、銀色の不思議な球体が宙に浮いている。


 異様。


 としか形容しがたいその存在は、断続的に低い唸り声を上げながら周囲のアンデットを薙ぎ払い続ける。


 数いる魔物の中でも殊更に異質、そして強大なるその魔物。


 モンスターロードの一体にして、ゴーレムの頂点たる存在。


 ゴーレムロード、"アークトゥルス"がその猛威を振るう。


 圧倒的な破壊力を、見境なく振りまくアークトゥルス。それに対して、プルートはジグザグと縫う様に駆けながらアークトゥルスへと迫っていく。


「こいつは、ただのゴーレムじゃねえな」


「恐らく…………モンスターロード…………の一体…………気配が…………他の魔物とは…………全然違う…………」


「ってことはゴーレムロードか、何にせよヤバそうな野郎だ」


 プルートの背で冷静に相手を観察するリゲルとシャウラ。距離が縮まってきたその時、突如としてアークトゥルスの動きが変わる。


 闇雲に周囲を攻撃していたアークトゥルスだったが、ピタリと動きを止めるとプルートの方へと体を向ける。


 まるで狙いを定めているかの様に頭部の球体を動かすと、短い脚を跳ね上げプルートを目掛けて走り出す。


「来るぞ!」


「…………速い…………っ…………」


 ひしめき合うアンデットをなぎ倒しながら、巨体からは想像のつかない素早さでプルートとの距離を詰めるアークトゥルス。


 地面を鳴らし突進するアークトゥルスは、勢いに乗せ強引に巨腕を振るう。その腕は周囲のアンデットを巻き込みながらプルートへと迫る。


「プルート!」


「ガルウゥッ!」


 リゲルの声にあわせ、バックステップで距離をとりつつ回避するプルート。


 しかし、空振りしたアークトゥルスの腕。その表面の幾何学模様が薄く光ると、腕全体がまるで液体かの様に流動し、細く長く形を変える。


 鞭を思わせるしなやかさで再び振るわれた腕は、距離を取るプルートに易々と追い付き、リゲルとシャウラを諸共に吹き飛ばすべその先端を太くする。


「ガウゥッ!?」


「マジか!」


「これは…………マズぃ…………ぶふぇっ」


 間一髪、無理やり身を屈め回避したプルート。凄まじい速度でその頭上を通過するアークトゥルスの巨腕。


 プルートの背に張り付く形で体を伏せていたリゲルは、ギリギリのタイミングで難を逃れる。


 しかし、じっとプルートの背にまたがっていたシャウラは、腕の一振りをもろに食らい、頭部から上半身にかけて木っ端みじんに吹き飛ばされる。


「シャウラッ、くそ!」


 一瞬の出来事に、思わず悪態をつくリゲル。吹き飛ばされたシャウラの下半身は、グラグラと揺れながらプルートの背にまたがったままだ。


「ううぅ…………あれは…………中々…………強力…………」


「うぉ!? 生きてんのかお前」


 驚きの声を上げるリゲルの目の前で、グジュグジュと音を立てながら再生するシャウラの下半身。


「生きてる…………この程度は…………全然平気…………」


「そうか……ところでお前、どこから声出してんだ?」


 異様な光景に顔を引きつらせるリゲル。その間に、失った上半身を完全に再生してしまうシャウラ。


 そこへ再び、鞭の様なアークトゥルスの腕が迫る。


「きた…………またさっきの…………」


「ちっ、プルート、とにかく距離をとって走り回れ!」


「ガルァルアゥッ!!」


 両腕を伸び縮みさせながら、縦横無尽にプルートに襲い掛かるアークトゥルス。対するプルートも、素早い身のこなしで縦横無尽に走り回りながら、全ての攻撃を紙一重で躱し続ける。


「キリがねえな」


「どうする…………?」


 プルートの背で激しく揺られながら、次の行動を思案するリゲル。一瞬の思考の後、小さく頷くと口を開く。


「よし、アイツは俺とプルートで何とかする。お前は先にスピカの元に向かえ」


「一人で…………大丈夫…………?」


「は? 誰に向かって言ってんだよお前」


 シャウラの言葉に対して、リゲルは不敵な笑みと言葉で返す。


「俺は天才錬金術師リゲルだぜ? あんな奴余裕に決まってんだろ」


「そう…………だね…………余裕に決まってる…………じゃあ…………任せる…………」


「おう、さっさとそれ、スピカに届けてこい!」


「分かった…………行ってくる…………」


 スピカの装備一式をシャウラに持たせ、アークトゥルスへと意識を集中するリゲル。


 受け取ったシャウラは、走り回るプルートの背から振り落とされる形で強引に降りると、大量のアンデットに紛れながら、スピカを目指し静かに移動を開始する。


「さて、テメェの相手は俺達だな」


「ガルウウゥゥ……」


 シャウラを送り出した、正面からアークトゥルスを見据えたリゲルは、相手を挑発する様に指を折り曲げる。


 プルートもまた、殺気を孕んだ鋭い相貌でアークトゥルスを見据える。


「ゴゴゴオオォォッッ!!」


 怒りを表すかの様に、唸り声を上げるアークトゥルス。


 戦いは激しさを増していく。

ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。

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