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72話:拉致

(ヤバいヤバいっ、ヤバいよトレミィ!)


《分かってるわよ、どうするのか考えないと!》


(どうするって、剣もないし昼間だし……どうしようもない!)


《ダメじゃない!!》


 慌てふためくスピカとトレミィを見据え、大気を巻き上げながら悠然と降り立つエリスカリス。


《もの凄く強そうよね、何とかしないと!》


(何とかって……とりあえず逃げるしかないと思うけど……)


 チラリと背後に視線をやるスピカ。その仕草を目ざとく見つけたエリスカリスは、ニヤリと唇を歪ませながら口を開く。


「あら、もしかして逃げるつもり? フフッ、逃がす訳ないじゃないのさ」


(ダメだった! 逃がしてくれないみたい)


《ちょっと! 諦めないでよ!?》


 ゆっくりと後ずさるスピカに対して、緩やかな羽ばたきでじりじりと距離を詰めるエリスカリス。背の一対を飛行に使い、開いた腕でスピカを指差す。


「さあて……アナスタシオスに頼まれてるからね、ささっとやらせてもらうわよ」


 瞬間、エリスカリスから放たれていた殺気が急速に密度を増す。


 空気をも歪ませるほどの濃い殺気をまとい、飛翔の体勢に入るエリスカリスだったが、それを拒む様に二つの影が立ち塞がる。


「さっさと逃げろ、邪魔だ!!」


 スピカを背に庇い、エリスカリスと対峙するリゲル。


「あなたの…………相手は…………私…………達…………」


 リゲルと同じく、スピカの前へと飛び出したシャウラは、両手を組み合わせ祈りの姿勢を取る。


 エリスカリスに狙いを定め、強制回復を行使するシャウラ。しかし、回復術の発動より一瞬早く反応したエリスカリスが、その両翼を轟音と共に振り払う。


死を拒む者(ネクロマンサー)っ、あんたは引っ込んでな!!」


「…………うっ…………ぐぅっ!」


 エリスカリスにより巻き起こされた豪風。激しい大気の奔流に巻き上げられたシャウラは、為す術もなく宙を舞うと、頭から地面に叩きつけられる。


「よしっ、今の内だ、行け!!」


「うん、任せた。ありがとう!」


《あんた達、薄情というか何というか……もう少し心配くらいしてあげなさいよ……でもナイスチームプレイね!》


 吹き飛ばされたシャウラを見て、躊躇うことなく指示を出したリゲルと、踵を返し走り出したスピカ。その様子に呆れつつも、称賛の声を上げるトレミィ。


 一方、シャウラを退けたエリスカリスは、再びスピカに狙いを定める。


「はぁ? 逃がす訳ないし!」


 一瞬で加速し高度を上げるエリスカリス。スピカに向かい降下の姿勢をとるが、同時に二つの声が響き渡る。


「プルート、押さえろ!」


「ウラノス…………お願い…………!」


 リゲルの指示を受けたプルートが、四足獣特有の柔軟な体躯を活かし、一息にエリスカリスと同じ高度まで跳躍する。


 その動きにあわせ、シャウラの指示を受けたウラノスも、プルートと挟撃する形でエリスカリスへと襲い掛かる。


「グルアァッ!」


「ゴオォゥッ!」


 跳躍の勢いそのままにエリスカリスへと襲い掛かるプルート。勢いを利用し振り下ろされる前足。その爪は大気を切り裂き、必殺の一撃としてエリスカリスへと迫る。


 直撃すれば致命傷は免れないであろう一撃。しかし、対するはエリスカリスは、軽やかに身を反転させると、羽の様な身のこなしであっさり躱してしまう。


「あら、その程度?」


 攻撃を空振ったプルートとのすれ違い様、目を細め狙いを定めたエリスカリスは、プルートの胴体を目掛け筋肉質な右脚を突き出す。


 膝から下を鳥類特有の鱗に覆われた強靭な脚。その先端で鈍く光を反射する鉤爪が、無防備なプルートの胴体へとえぐり込まれる。


「グルアァッ!?」


「邪魔よ!」


 言葉と共に、空中で一回転するエリスカリス。遠心力を利用しプルートを振り回すと、その勢いのまま地面に叩きつける。


「ガルッ……グゥ……」


 激しい衝撃音と共に地面に叩きつけられ、小さく唸り声を上げ動かなくなるプルート。その様子を一瞥したエリスカリスは、迫るもう一体の存在へと注意を向ける。


「さて、次はこっちね」


 エリスカリスの上に位置取り、猛烈なブレスを浴びせかけるウラノス。


 周囲の大気を侵食しながらエリスカリスを襲う紫色のブレス。だが、当のエリスカリスは余裕の表情でブレスを仰ぎ見ている。


「あんまり舐めないでもらいたいわね……」


 言いながら背と両腕、四枚の翼を折りたたんだエリスカリスは、ブレスが襲い掛かる寸前、折りたたんだ翼を一気に解き広げる。


「そおっれ!」


 全ての翼を動員して巻き起こされた突風。その風圧に、ウラノスのブレスはあっけなく吹き飛ばされてまう。


 ブレスを防がれたウラノスだったが、すぐ様立て直すとエリスカリスに向かって急降下する。鋭い牙の生えそろった顎を開き、エリスカリスへと襲い掛かる。


「ふうん? 中々やるわね」


 迫るウラノスの見つめながら、不敵な笑みを浮かべるエリスカリス。背の二枚と両腕の二枚、それぞれの翼を別方向に動かすと、空中で器用に体を捻る。


「グオァ!?」


 変則的な動きでウラノスの強襲を躱したエリスカリス。驚きの声を上げるウラノスに対してエリスカリスが反撃にでる。


「この程度で驚いてるんじゃないのよ、誰を相手にしてると思ってるのさ?」


 急降下していたウラノスとすれ違う様に、高度を上げるエリスカリス。両足を揃えて天に向けると、頭を下にしウラノスに狙いを定め、体を回転させながら急速に落下する。


「私は空の支配者、エリスカリス様だよ!!」


 落下の勢いを乗せ、三日月を描く様に体を反転させたエリスカリスは、ウラノスに向かい揃えた両足を振り下ろす。


 鋭く揃えられた鉤爪はウラノスの首元を捕らえると、軽々と骨と動脈を突き破る。


「グァッ、グオオォッ」


「出直してらっしゃい!!」


 ドオオォォンッ!!


 落下の勢いに任せ、突き立てる様にウラノスを地面に叩きつけたエリスカリス。


「大したことないわねぇ、さて次は……ぐっ!?」


 悠々とウラノスを踏みつけにしていたエリスカリスだが、突如としてその表情が曇る。


「捕らえたぞ、やれ!」


「任せて…………」


 エリスカリスの足首に巻き付けられた鎖。地面から直接生えたその鎖は、リゲルの錬金術によって生み出されたものだ。


 鎖により一瞬動きを封じされたエリスカリス、その一瞬の隙を突き、エリスカリスの足元に迫るシャウラ、


「ちぃっ、鬱陶しいわよ!」


 苛立ちながら四枚の翼を四方に広げたエリスカリスは、全方位への羽ばたきにより、周囲全体へ強烈な大気の塊を叩きつける。


 その強大な威力の風圧は、リゲルの錬成した鎖をいともたやすく引きちぎり、シャウラを地面に押しつぶす。


 急激な圧力を受け、内臓が破裂し、顔中から血を吹き出すシャウラ。しかし、その視線はエリスカリスから外れることはない。


 しっかりと狙いを定めると、心の中で神への祈りを捧げる。


「ぐぅっ、こいつ!?」


 シャウラの強制過回復を受け、肩口から血を流すエリスカリス。身を翻しシャウラの狙いから外れると、強風を撒き散らしながら地面すれすれの高度を滑空する。


「しまった、あっちは!」


 リゲルの視線の先。そして、エリスカリスの向かう先で、ギョッと目を見開くスピカ。


《後ろ、来てるわよ!》


「マズっ、きゃうぅ!!」


 脱出を図っていたスピカとの距離を一瞬で詰めたエリスカリスは。その鉤爪で、無防備なスピカの胴体を掴み上げる。


「捕まえたわよ! 大人しくしてなさいな?」


「ぎゃっ……かっ……」


《スピカ!!》


 プルートを投げ飛ばすほどの怪力に握り締め上げられ、血を吐きながら意識を失うスピカ。


「スピカ…………ッ」


「くそっ、待ちやがれ!」


 ぐったりと意識の無いスピカを掴み上げ、高度を上げるエリスカリス。


 その様子を、為す術もなく見上げるリゲルとシャウラ。


「それじゃ、この子は貰っていくわよ!」


 スピカを捕らえたエリスカリスは、そう言って高らかに笑い声を上げると、東の空へと姿を消すのだった。

ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。

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