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69話:邪神の城 ~ウラノス~

「いくよ、シャウラ!」


「うん…………」


シャウラを抱え、空高く飛び上がるスピカ。一方のリゲルはプルートにまたがりながら声を上げる。


「任せたぜプルート!」


「ガフウッ」


 リゲルの声にあわせて地上を疾駆するプルート。黒い体躯は一瞬にして夜の闇にまぎれ、姿を消してしまう。


《スピカ、今日はずいぶん調子が良いわね》


(うん、星空が綺麗に出てるからかな?)


 夜空を見上げ、満面の笑みを浮かべるスピカ。雲一つない満点の星空に照らされ、グングンと高度を上げていく。


 流星のごとく光の尾を引くスピカは、一直線に天へと翔け上る。その眩い輝きに、ドラゴンゾンビの注意が向く。


「とりあえず軽く牽制する、しっかり捕まってて!」


「…………分かった…………」


 右腕でしっかりシャウラを抱え込んだスピカは、そのままドラゴンゾンビの真上まで移動し空中で静止する。狙いを定める様に左手をかざすと、閃光と共に星の魔法を放つ。


 眩い輝きと共に放たれた二つの光は、対照的な動きで交差する様に宙を舞うと、ドラゴンゾンビの周囲を円形に飛んで回る。


「あれ? なんか二つ出たよ!」


《ホントだわ! 今までは一つだけだったのに、どういうことかしら?》


 前触れもなく数を増やしたスピカの魔法。突如の現象に小首を傾げるスピカだったが、その疑問にシャウラが答える。


「魔法は…………使えば使うほど…………威力や精度が…………増していく…………だから…………二つ同時に…………使えるほどに…………スピカが魔法を…………使いこなせる様に…………なってたっていう…………ことだと…………思う…………」


《そういうことね……確かにスピカ、ここ最近は毎晩魔法を使っていたものね、とても変態的な使い方だったけれど……》


 最近の日課となりつつあった、シャウラがただただスピカの魔法を食らうだけの催しを思い出し、呆れ半分、納得半分の声を上げるトレミィ。


 一方、魔法を放ったスピカ本人は、スッと目を細め二つの魔法に意識を集中する。


「うん、問題なく使えそうな気がする!」


 ニヤリと笑みを浮かべたスピカは、シャウラを抱えたまま左手を軽く振るう。その動作にあわせ速度を増した二つの魔法が、挟み込むようにドラゴンゾンビへと襲い掛かる。


「グオオアアァァッ!!」


 二つの魔法の強襲を受け、雄叫びを上げるドラゴンゾンビ。地上から回り込む様に移動を続けていたリゲルは、その様子を冷静に観察する。


「ほお、魔法が増えてるな、とりあえずナイスだ」


「ガッフゥ!」


 きらめく二つの魔法の光を見ながら、嬉しそうな吠え声を上げるプルート。弾む様に地を駆け勢いを増すと、一気にドラゴンゾンビの足元まで辿り着く。


「ここだ、合図いくぞ!」


「ガルゥ!!」


 掛け声と共に持っていたフラスコを地面に叩き割るリゲル。発行性の液体が空気に触れると、強い光が周囲に迸る。


「きたよ…………合図…………」


「了解!」


 空中からその光を確認したスピカは、タイミングを合わせて急降下を開始する。


 そのスピカを迎え撃つべく、ドラゴンゾンビが大きく口を開けブレスの体勢に入る。しかし、ブレスが発射される直前、地上のリゲルが次の一手を打つ。


「させるかよ!」


 ドラゴンゾンビの足元で発動される錬金術。一瞬にして沼地へと変化する地面。そのぬかるみに足を取られたドラゴンゾンビは、大きくバランスを崩す。


「さっすが、タイミングばっちり!」


 体勢を崩すドラゴンゾンビ、その両側から挟み込む様に距離を詰める星の魔法。


 正確に操られた二つの魔法は、ブレスの発射に備え無防備となっていたドラゴンゾンビの顔面を挟撃する。


 左右からの圧力を受け、大きく口を開けさせられるドラゴンゾンビ。発射寸前だったブレスは、その衝撃を受け霧散していく。


「今…………いける…………!」


「うん、任せて!」


 空中でターンをしながら、ゾロリと牙の生え揃った口腔内に向け飛び込んで行くスピカとシャウラ。


「それじゃあ!」


「うん…………いってくる…………」


 短く言葉を交わすと、口の中に飛び込んでいくシャウラ。鋭い牙に全身を切り裂かれながらも、スルリと喉を通ると、そのまま体内へと滑り降りていく。


「リゲル、成功!」


「よし、撤退!」


「ガルガルゥッ!」


 スピカの言葉にあわせて、城の正面入り口前まで後退していくスピカとリゲル。


《それにしても、ホントに口の中に飛び込んでいくなんて、完全にイカれてるわね……》


(私のパーティなんだもん、ブッ飛んでるくらいで丁度良いよ!)


《何が丁度良いのか全く分からないわよ……》


 トレミィの呆れ声を聞きながら、城の正面に着地するスピカ。やや遅れてプルートに乗ったリゲルも合流する。


「上手くいったよ!」


「ああ、後はあいつ次第だな」


 スピカとリゲルの視線の先、地をならしながら悠然と城に向かい突き進むドラゴンゾンビ。


 徐々に城との距離が詰まってきたその時、灰色の巨体がビクリと大きく痙攣する。


「グゥッ……グオオアア!?」


 けたたましい鳴き声を上げながら、巨体をのた打ち回らせるドラゴンゾンビ。所々欠損した体からは、淡い光が漏れ出ている。


 徐々に強さを増していく光。その光が体中を覆い尽くすと、欠損していた翼や肉が次第に再生されていく。


 唸り声を上げ暴れ回るドラゴンゾンビだったが、動きが激しさを失ってくる頃には、ボロボロだった体は再生され、灰色の鱗に覆われたドラゴン本来の姿へと戻っていた。


 全身を再生され、地面に伏せるドラゴンゾンビ。その様子を訝しげに眺めるスピカとリゲル。


「終わった……のか?」


「分かんない、傷は無くなったみたいだけど……」


 様子を伺う二人の視線の先で、大人しく地に伏せていたドラゴンゾンビだったが、唐突に口を開けると苦しみだす。


「ゴッ、グオェッ!」


 ベチャリッ


 不快な音を立て、ドロドロとした液体にまみれた白と黒の塊が吐き出される。ドラゴンゾンビの体液にまみれたシャウラが、ベチャベチャと音を立てながらゆっくりと立ち上がる。


「無事だったか……って臭っ!?」


「大丈夫だった……って臭い!!」


「皆…………ひどい…………」


 ベタベタの体液にまみれながら、恨めしそうな視線を向けるシャウラ。


「綺麗に…………する…………」


 シャウラの呟きと共に、全身を光が覆う。すると、体にこびりついていた体液が見る間に蒸発し消え去っていく。


「へえ、お前そんなこともできたのか?」


「一応…………僧侶だから…………不浄のものは…………浄化できる…………」


 体液を落とし、綺麗になった体を確かめたシャウラは、ニヤリと笑みを浮かべドラゴンゾンビを指差す。


「予定通り…………制圧したよ…………それで…………この子…………どうするの…………?」


「そうだな……こいつ、もう危険はねえのか?」


「危険は…………ない…………ちゃんと…………私の…………言うことを…………聞くよね…………?」


「グオオゥ……」


 シャウラの問いに対して、肯定の意を表す様に低く唸り声を上げるドラゴンゾンビ。


「言葉も通じるんだ、凄いね!」


「そう…………かな? …………ふふふ…………」


「おい、気持ち悪い笑い方すんなよ……」


 スピカの賞賛を受け、ニヤニヤと笑みを深めるシャウラ。その姿を見て引きつった声を上げるリゲル。


「まあ何にせよだ、危険がないなら連れて行くべきじゃねえか? ハッキリ言って戦力としては相当なものだしな」


「そうだね。プルートと同じ様に、村の周りをうろうろしてて貰うのが良いかも?」


「そう…………なら…………一緒に…………連れていく…………ね…………」


「グオォッ!」


「ガルゥッ!」


 喜びを表す様に唸り声を上げるドラゴンゾンビ。それに呼応して吠え声を上げるプルート。


「ということは、プルートの後輩だね! そうだ、プルートみたいに名前を付けてあげなよ」


「名前…………名前…………」


 スピカの提案を受けて、じっと考え込むシャウラだったが、困った様に眉をハの字に曲げる。


「思い…………浮かばない…………スピカが…………考えて…………」


「私で良いの? それじゃあ、どうしようかな……」


「おいおい、名前なんか何でも良いだろ? さっさと決めろよ」


「じゃあ…………リゲルが…………考えたら…………良い…………思い浮かぶなら…………」


「ぐっ……」


 ズイッと顔を寄せるシャウラの圧力に、サァッと顔を青ざめさせるリゲル。その傍らでポンッと手を叩きながら、スピカが声を上げる。


「決めた! じゃあこの子は今日から "ウラノス" で!」


《あら、カッコイイじゃない!》


「へえ、悪くねえな」


「うん…………素敵…………」


「グオオオオォォゥッ!!」


 スピカから名を貰い、雄叫びを上げるドラゴンゾンビ、改めウラノス。


 こうして新たな仲間を加え、邪神の城の探索は幕を閉じるのだった。

ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。

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