60話:新たな日常
今回で第二章終了です。 ここまで応援して下さりありがとうございました。
第三章のプロットをまとめるので投稿が少し開くかもしれません、ご了承ください。
引き続きお楽しみいただければ幸いです。
シャウラが村の住人となって二週間。
村にはこれまでと少し違った、新たな日常の風景が流れていた。
太陽の昇りきったお昼時。村の中央広場では、狩りに出発するべくフェルナンドと獣人達が準備に取り掛かっていた。傍ではプルートがその巨体をゴロリと横たえ大きな欠伸をしている。
そして、そんな獣人達の中に紛れて、フラフラとさ迷い歩く人影が二つ。
浅黒い肌にグルリと上を向いた眼球。生気の無い表情でかすかに開いた口からは小さなうめき声が漏れている。
小柄な体躯にツインテールの黒髪をした少女と、ブロンズヘアのグラマラスな女性。二等級勇者であるベリンダとクラーラである。
この二人、戦いの中でリゲルによって引き起こされた大火に巻き込まれていたのだが、二等級勇者としての強靭な肉体によって完全なる炭化を免れていたのだ。
結果、戦いの後それに気づいたシャウラによりアンデットとして復元され、今では動く屍戦力として村の警護や狩りの手伝いに駆り出されているのである。
「しかし隊長、この二人が来てから随分狩りが楽になりましたね」
「何せ元二等級勇者だからな、戦闘能力もほとんど損なわれていない、だがしかし……」
「あ゛あ゛あ゛ぁぁー……」
「う゛あ゛あ゛ぁぁー……」
「意思の疎通が取れないのが難点だな」
「そうですね、こちらの指示には従ってくれるんですがね」
うめき声を上げさ迷い歩く二人に、憐れむ様な視線を向ける獣人達。そこへ、良く通る甲高い声が響く。
「隊長、今から狩り?」
「スピカか、丁度今から狩りだな……ってうぉ!?」
振り向きざまにスピカの姿を目にとらえ、思わず驚きの声を上げるフェルナンド。
視線の先ではラフな格好をしたスピカが疲れ切った表情で立っている。
そして、その右腕にしがみつき、ニヤニヤと笑みを浮かべながらスピカに体をこすりつけるシャウラ。
さらに、その左腕にしがみつき、シャウラをキッと睨みながらスピカに体をこすりつけるジェルミーナ。
そんな二人に挟まれ、げっそりとした表情のスピカがフェルナンドの前で立ち止まる。
「おぉ……大変そうだな」
「うん、もう慣れっこだよ……」
《全然慣れっこな感じじゃないわよ、うんざり感が尋常じゃないわよ》
(あー……うん……)
トレミィの言葉にも曖昧な返答を返すスピカ。
トレミィの存在を感じる為と言い、何かにつけてスピカとの距離を詰めたがるシャウラ。そのシャウラに対抗心を燃やし、今まで以上に積極的に距離を詰めるジェルミーナ。
そんな二人の相手に、いい加減うんざりしているスピカなのであった。
「スピカ…………今夜もまた…………すっごいの…………ぶち込んでね…………」
ざわ……ざわ……
ぽそりと放たれたシャウラの一言。その内容にざわつく亜人達。
《スピカ、早く訂正しないと変な誤解をされてるわよ!》
(え? うわ、ホントだ)
「えっと、ぶち込むっていうのは魔法のことだよ、変な意味じゃないからね?」
慌てて訂正するスピカ。その言葉通り、最近ではシャウラのリクエストで、夜ごとに連れ出されてはスピカの魔法をシャウラがただただ食らうという謎の行事が開催されていた。
これも、シャウラがトレミィの存在を感じたいという思いからのリクエストである。
「いい加減にしてくださいシャウラ! あなたのせいで毎晩スピカ様の寝る時間が遅くなってしまっています!」
シャウラを睨みつけながら声を張り上げるジェルミーナ。その言葉通り、スピカの目元にはうっすらとくまが浮かんでいる。
「スピカ様が体を崩されてはどうするのですか? 今夜は私とゆっくり一夜を過ごすのです!」
ざわ……ざわ……
勢いよく放たれたジェルミーナの一言。その内容に再びざわつく亜人達。
《スピカ、こっちも訂正しないと変な誤解をされてるわよ!》
(えぇ? またなの?)
「えっと、ただ一緒のベッドで寝てるっていうだけだよ、変な意味じゃないからね?」
再び訂正をするスピカ。そんな様子を物陰から涙ながらに見つめる男が一人。
ジェルミーナの兄、ジャンルーカである。
「何ということだ、私の妹は女性を女性と取り合っているのか? 女性が取り合う女性を女性で女性? いったい何がどうなって……ううぅ……」
「落ち着きなさいな、温かく見守ってやるのも兄の仕事だよ」
ガックシと項垂れるジャンルーカの肩を、ポンと叩いて慰めるマイヤ。
視線の先ではシャウラとジェルミーナが引き続き言い争っているところだ。
「そもそも! 新参者が出しゃばらないで下さい、私とスピカ様はずっと前から甘い絆で結ばれているのです」
「それを言うなら…………私はもっと前から…………想い続けていた…………あなたよりも…………深い想いが…………ある…………」
(トレミィ、ずっと前からシャウラに想い続けられてたみたいだよ)
《スピカこそ、ずっと前から甘い絆が結ばれてたみたいよ》
(《はぁぁー……重いっ》)
声を揃え深いため息をつくスピカとトレミィ。
「おーい! お前ら探したぞ」
スピカを中心にやいのやいのと騒ぎが広がっていると、上機嫌なリゲルが荷物をいっぱいに抱え現れる。
「何だお前ら、またやってんのか? スピカも変態に囲まれて大変だなおい」
「誰が変態ですか! あなただって大概変態でしょう!!」
「うん…………リゲルだって…………十分…………変態…………」
一斉に反論されるが、飄々とした様子のリゲルは軽く手であしらう。
「はいはい、今日の俺は機嫌が良いからな、これくらいでいちいち突っかかったりしねえんだよ。それよりスピカ!」
「うん?」
ビシッとスピカを指差したリゲルは、自慢げな表情で手に持っていた荷物を揺らして見せる。
「ようやくゴーレムの核が上手くいきそうでな、今夜ちょっと実験に付き合えよ」
ニヤリと笑みを浮かべ自慢げに胸を張るリゲルに、シャウラとジェルミーナから一斉に抗議の声が上がる。
「ダメ…………スピカは…………今夜は…………私に…………感じさせてくれる…………予定だから…………」
「違います! スピカ様は今夜は私と一緒に過ごすのです! 二人きりでです!」
「あぁ? 俺と痺れる夜を過ごすに決まってんだろうが! 生ぬるいこと言ってんじゃねえよ」
《うわぁ……逆にどうやったらここまで誤解を招く言い方が出来るのかしらね……》
(うん、もう面倒だから訂正もしないよ……)
うっとりとした表情でスピカの右腕を引っ張るシャウラ。
顔を赤くしながらスピカの左腕を引っ張るジェルミーナ。
イライラと足を鳴らしながら声を張り上げるリゲル。
そんな様子を物陰から悲しそうに見つめるジャンルーカと、そっと慰めるマイヤ。
そして、顔を引きつらせながら一歩一歩と引いていくフェルナンドと獣人達。
傍では興味なさそうに大きな欠伸をするプルート。
訳も分からずさ迷い歩くベリンダとクラーラ。
《随分賑やかになったわね》
(うん、ちょっと賑やかすぎだよ)
《変なパーティを集めたスピカが悪いのよ》
シャウラが加わり、さらに慌ただしさを増した日常。
そんな新たな日常の光景を、げんなりとした顔でただ見つめるスピカだった。
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