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59話:円卓

今回は少し短めです。

 ポラリス正教会総本山、常陽の都サン・ポラーレ。


 その中心。サン・ポラリス大聖堂の一室には、教会内で最高位に位置する十名が集まっていた。


 枢機卿団のトップに位置する五人の司教枢機卿。第一神託を除いた四人の神託の勇者。そして剣聖。


 以上の十名が、巨大な円形のテーブルを囲っている。


 ここに、第一神託勇者と天道、神前を加えた十三名が、"円卓"と呼ばれるポラリス正教会における最高意思決定機関である。


 静寂が支配する室内。


 厳粛は空気の中、エインズワース司教枢機卿が顎髭を撫でながらゆっくりと口を開く。


「結局、神前シャウラは戻らず、か……」


 エインズワース司教枢機卿の言葉を受け、オブライエン司教枢機卿も重々しく声を上げる。


「同行させていたアレクシス一等級勇者に、クラーラ二等級勇者、ベリンダ二等級勇者も戻らずだ。返り討ちにあったか何かしらの事故にあったか、あるいは……」


「待って下さい、オブライエン司教枢機卿猊下」


 待ったをかけたのは、第五神託勇者レオンだ。


「一等級勇者や二等級勇者が戻らないのは、まあ返り討ちにあったか事故にあったかで説明がつきますが。しかし、神前シャウラが同じ理由で戻らないとは考えづらいでしょう。僕らですら彼女を完全に仕留めるとなると難しいのに、戻れないほどの状況に陥るとはとても思えない」


「そうなると、邪神によって神託を与えられた勇者が誕生した、という可能性がやはり濃厚だな。神託の力ならば状況次第でシャウラが後れを取る可能性も十分にありうるだろう?」


 レオンの言葉を引き継ぎ、剣聖エルドレッドが円卓に向かい問いかける。皆が一様に頷く中、エインズワース司教枢機卿が手を叩き注目を集める。


「では、新たな神託の勇者が誕生したという前提のもと、改めて対策を検討しよう。勇者諸君においても戦いの準備はしておいてくれたまえ」


 そう言って話をまとめるエインズワース司教枢機卿。それに対して鋭い眼光を向ける者が一人。


「俺達は初めからそのつもりだ、今更その様な確認は不要! そんなことで俺達を呼んだのではないのだろう? さっさと本題に入れ」


 殺気を孕んだアレクサンダーの言葉に、場が鋭い緊張感に包み込まれる。そんな中、明るい声が室内にこだまする。


「ちょっとちょっと、そんなピリピリしなくてイイじゃん? 今日の本題は ア・タ・シ からなんだから!」


「エステル……」


 苦々しい表情で声の主を睨み付けるアレクサンダー。しかし、睨まれた当の本人は飄々とした様子でテーブルに肘をついている。


 日に焼け、テカテカと艶っぽく光を反射する褐色の肌。特徴的なプラチナブロンドのロングヘアには、アッシュグレーのメッシュ際立つ。


 濃いメイクに露出の多い服装で、場にそぐわない扇情的な雰囲気を醸し出すその女。


 第四神託勇者、エステルである。


「エステル、言葉遣いには気を付けろよ」


「えー? なんでよイイじゃん、とりあえず伝わればそれでオッケーじゃん?」


 アレクサンダーの指摘も意に介さないエステル。そんな彼女の言動に皆が呆れた視線を向けるが、その態度を咎めるものは誰もいない。


 それはひとえに、彼女の実力とこれまでの実績故の許容なのである。


「では第四神託エステル、あらためて報告を頼む」


「はいはーい、まあ皆知ってると思うけど、アタシここんとこずっとおじいちゃん達の命令であるものを探してた訳よ」


 椅子に脚を上げ身振り手振りを交えながら報告を上げるエステル。そんな彼女を益々殺気を孕んだ目で睨み付けるアレクサンダーだが、エステルは気にする風もなく報告を続ける。


「で、つい何日か前かな? やーっと探してたものが見つかっちゃって、そんで今日集まってもらったのよ。どうコレ、凄くない?」


「なに、本当か?」


 驚きの声を上げる第三神託勇者トリスタン。他のメンバーも興味深そうに話を聞いている。


「マジに決まってんじゃん、アタシってけっこう凄いっしょ? ヤバイっしょ? 超大変だったんだから」


 カラカラと笑い声を上げるエステル。トリスタンはテーブルをコンコンと指で鳴らしながら再度口を開く。


「それで、場所はどこに?」


「大体予想通りだったんだけどね。南の諸島の端っこの方、西側でギッリギリ大陸と陸続きになってるところがあるでしょ? その先っぽかな」


「ふむ、ご苦労だったエステル。」


 エステルの報告を引き継ぎ、エインズワース司教枢機卿が円卓を見回す。


「という訳だ諸君。邪神の方も懸念はあるがまずはこちらを優先したい、大掛かりでかつリスクも伴うが、力を貸してくれたまえ」


 しんっと静まり返る室内。腕を組み目をつむっていたレオンは、ゆっくりと目を開けエインズワース司教枢機卿へ視線を向ける。


「話は分かりました。しかし分かっているのですよね? 手を出せば、南の魔女達が黙っていはいません。下手を討てば大きな戦が起きますよ」


「もちろんリスクもあるだろう、しかし得るものも多いはずだ。それに、魔女共との戦となっても恐れることはない、そのためにお前達がいるのだからな」


「……分かりました、それでは僕は指示に従いますよ」


 フンッと鼻を鳴らすレオンを一瞥すると。エステルとエルドレッドを交互に指差すエインズワース司教枢機卿。


「では、第四神託エステル、並びに剣聖エルドレッド 両名に"反魂"の回収を命じる。なお、こちらの件が片付くまで西方の邪神はしばらく諦観する。諸君、それでよろしいかな」


「うむ」


「異議なし」


「えー、またアタシがいくの? ダルぅ……」


「そう言うな、今回は俺も同行する」


「うーわ、マジでダルぅー、まあやることはやるけどさ」


 エインズワース司教枢機卿の言葉に同意する一同。


 こうして会議は静かに幕を閉じる。

ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。


また、ブックマークやpt評価、感想も喜んでお受けしております。


執筆の励みとさせていただきますので、どうぞ応援よろしくお願いします。

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