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54話:死の戦場 ~不死~

 岩石に身を埋め、動きを封じられる死者達。


 じたばたともがき蠢いていた死者達は、次第に埋められた手や足を引きちぎりながら、ズルズルと這いずり出てくる。


「くそっ、何だこいつら!」


 動き出した死者達の迎撃に向かう獣人達。しかし、切っても刺しても動き続ける死者達を相手に、徐々に体力が奪われていく。


 焦る獣人達。そこへリゲルの声が響き渡る。


「そいつらは普通にやっても死なねえ、火で燃やすか頭を切り落とせ! それでしばらくは復活できねえはずだ!」


「なるほど……よしっ、とにかく頭を狙って切り落とせ!」


「はいっ」


 リゲルの助言を受け素早く指示を出すフェルナンド。その指示に従い次々と頭を切り落としていく獣人達。


 頭を切り落とされた死者が一時的に動きを止めていく、弱点を突くことで優位に立つことに成功したのだ。


「よしっ、この調子で――」


「ぐあああぁぁぁっ!!」


 順調に死者の動きを封じていた獣人達だったが、戦場の一角から上がった叫び声で状況は一変する。


 そこには、生前と変わらず魔法を駆使した戦闘で獣人に襲い掛かる、ベリンダとクラーラの姿があった。


「あれはマズいな」


 即座に応援へと駆け付けるフェルナンド。しかし、元二等級勇者二人という強大な戦力を前に絶望的な対面を強いられる。緊迫した空気が流れる中、その空気を切り裂く様に巨大な黒い影が戦場を駆け抜ける。


「ガルルアアァァッ!!」


 死者の間を縫う様に駆け、フェルナンドの前に飛び出すプルート。ベリンダとクラーラに対峙すると、鋭く深紅の瞳を光らせる。


 アレクシスの攻撃により、未だ半身は凍り付いたままの姿。さらに、リゲルの錬金術に巻き込まれた体躯には、岩石が固まったまま張り付いている状態だ。


 戦闘のダメージを残しながらも、残り少ない体力で駆け付けたプルート。その横にフェルナンドが並び立つ。


「助かった、お疲れのとこ悪いが、力を貸してもらうぞ?」


「ガルルゥ!」


 フェルナンドの言葉に唸り声で答えるプルート。元二等級勇者二人を相手に、フェルナンドとプルートのコンビが相対する。



 一方、シャウラと対峙しているのはスピカとジャンルーカだ。


 ペタペタと足を鳴らしながらゆっくりと距離を詰めるシャウラを相手に、応戦の構えを見せながらも、攻撃へと転じることができずにいた。


「くっ、これでは近づけんな……」


《近付いたらさっきの回復でやられちゃうんでしょう? だったらこっちから攻撃出来ないじゃない、どうするのよ?》


(うん、思った以上に厄介かも……というか私じゃどうしようもないかな……)


《えぇ!? ダメじゃない!》


 反撃の糸口がつかめず、眉間にしわを寄せるスピカとジャンルーカ。


「ジャンルーカ、魔法で何とかできない?」


「うむ、試してみるか。しかし私もそろそろ魔導力が切れる、あまり連発は出来ないぞ」


 そう言うと、ナイフを振るい風魔法を放つジャンルーカ。


 鋭い風切り音を立てながら放たれた大気の刃は、一瞬のうちにシャウラに迫ると、その無防備な首筋を切り裂く。


 血が噴水の様に噴き出し周囲が赤く染まるが、まるでダメージを受けていないかの様に前進を続けるシャウラ。切り裂かれた首筋も一瞬で塞がってしまう。


「これは、私の魔法では足止めも出来ないな」


「うーん……困った!」


《困った! じゃないわよ、何か考えないと!!》


 尋常ならざる不死性を前に頭を抱えるスピカとジャンルーカ。トレミィも騒ぎ立てるものの解決策を見出せずにいる。


「もう…………終わり…………? …………だったら…………今度は…………こちらの番…………」


 小さく唇を吊り上げ口を開くシャウラ。か細い声でつぶやいたかと思うと、予備動作なしで一気に加速する。


 それまでのゆったりとした動きからは想像できない俊敏さで、スピカとジャンルーカの横を駆け抜けると、瞬く間にリゲルの元まで迫る。


「なっ!?」


「速い!!」


 その速度に反応しきれず、驚きの声を上げるリゲルとジャンルーカ。唯一スピカだけがシャウラの動きに反応し、即座に踵を返していた。


(間に合え!)


《ダメよスピカ! 近付きすぎちゃ――》


 トレミィが制止の声を上げる中、シャウラの背中を目掛けて袈裟懸けに剣を振り下ろすスピカ。背に入った逆十字の入れ墨を斜め一線に切り裂く。


「何? …………邪魔…………」


 足を止め、振り向きざまに腕を振るうシャウラ。スピカを捕らえるべく伸ばされたその腕を、深くしゃがみ込む形で躱したスピカは、起き上がると同時に剣を振り上げ、伸ばされた腕を切り飛ばす。


《気を付けて、捕まったらさっきの人間みたいに!》


(うん、でも触られなければいけるかも!)


 腕を切り落とされた衝撃でバランスを崩すシャウラ。その隙を突き、深々と胸に剣を刺し込んだスピカは、勢いを利用し背後の崖まで押し込んでいく。


 ガキィンッ!!


 激しい衝突音を立て突き立てられる剣。その衝撃に中ほどからへし折れるスピカの剣だが、それでも構わずに剣を押し込んだスピカは、シャウラを崖に串刺しにする。


 動きを封じることに成功したスピカ。しかし、その目に飛び込んできたのは、血を吹き出しながらもニヤリと笑みを浮かべ手をかざすシャウラの姿だった。


「逃がさない…………」


「!?」


 シャウラの伸ばした手がかすかな光を帯びる。直後、剣を押し込んだスピカの左腕が赤黒く変色し、大きく腫れ上がる。


(やっばい!)


《スピカッ、まずいわ!!》


「おいっ、早く離れろ!!」


 トレミィとリゲルの危機感に満ちた叫び声が響く。慌てて距離を取るスピカだったが、血に濡れたシャウラの口が小さく開く。


「もう…………遅い…………」


 パァンッ!!


 シャウラの言葉と同時に、激しい破裂音を立て吹き飛ぶスピカの左腕。その衝撃にたまらず体勢を崩し、ゴロゴロと地面を転がる。


(痛ったぁ……マズったぁ……)


《スピカ! 腕がっ……腕がぁっ!!》


 左肘から先を失い、苦悶の表情を浮かべるスピカ。その光景を見て、嗚咽交じりに叫び声を上げるトレミィ。


 ボタボタと血を垂らしながら起き上がるスピカの元へ、ジャンルーカが駆け付ける。


「スピカ殿っ、なんということだ……」


 ふらつくスピカを抱え上げ後退するジャンルーカ。即座にリゲルと合流し、止血の為スピカの肘をきつく縛り上げる。


「馬鹿かお前は! 近づくなっつったろうが!!」


「だって……あのままだとリゲルがやられてたよ……」


「ちぃっ」


 苦虫を噛み潰した様に顔を歪めるリゲル。激しい流血で顔を青くし、びっしょりと冷や汗を流すスピカだが、その顔にはうっすらと微笑みが浮かんでいる。


「リゲルは私のパーティだからね……無事で良かったよ……あいつを倒す作戦……頼りにしてるから……」


「っ! クソ!!」


 串刺しになったシャウラに目を向けながら、悪態をつくリゲル。


「……おい、そいつ連れて離れてろ、他の連中もとにかく遠くまで逃がせ」


 真剣な表情でそう言うと、懐から淡い銀色の液体を取り出す。


「リゲル殿、何を!?」


 怪訝な声を上げるジャンルーカ。しかしその声も無視し、一息に液体を飲み干すリゲル。


「あいつは、いや、あいつらは俺がやる……!」


 ただならぬ雰囲気を察し、スピカを抱えその場を離脱するジャンルーカ。去り際、戦場に残っている獣人達へ向かって声を張り上げる。


「総員ただちに退避だ! 急げ!!」


 ジャンルーカの言葉に一瞬戸惑いを見せるも、即座に戦場を離れる獣人達。それを確認したリゲルは、両手を揃え地面に触れると小さく口を開く。


「覚悟しろよお前ら……」


 直後、コートから激しい光が迸る。これまでにないほどの強烈な光は、夕暮れに染まる戦場を明るく照らす。


 ズズズンッッ!!


 三度目となるリゲルの大規模錬金術、その波動が地を駆け抜ける。直後、硬質化していた地表が光沢と粘性を帯びていく。


 それを確認したリゲルは、自身も距離を戦場から離脱しつつ、落ちていたこぶし大の岩石を握り締める。


「これで終いだ」


 言葉と共に、ソレを放り投げるリゲル。


 瞬間、眩い光が周囲を照らした。

ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。


また、ブックマークやpt評価、感想も喜んでお受けしております。


執筆の励みとさせていただきますので、どうぞ応援よろしくお願いします。

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