50話:正教会からの刺客 ~それぞれの戦い~
今回で50話です。
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「ガルゥアアアッ!!」
「うらぁっ!!」
バキバギギギィイッ!!!!
殺気に満ちた吠え声と、気迫の籠った叫び声が戦場に響き渡る。激しい衝撃音と氷結音を立てぶつかり合う豪爪と豪槍。戦場の一角では、プルートとアレクシスの一歩も引かない攻防が繰り広げられていた。
「ちぃっ、やはり普通のガルムではないな?」
「グルアゥ」
地面を蹴り込み前足を覆っていた氷を砕くプルート。衝突の度に氷結による攻撃を受けているプルートだが、進化した強靭な体毛はそのダメージの一切を防ぎきっていた。
体の表面だけが氷結し、すぐさまそれを砕いてはまた衝突し、それを繰り返しているのである。
「グルルルルゥ……」
ガリガリと爪を鳴らしながら距離を詰めるプルート。対するアレクシスは苦々しい表情を浮かべながらも、隙の無い構えは崩さない。
「あの体毛が邪魔だな、ならば……」
静かに構えたまま槍の先端に魔力を集中させるアレクシス。プルートもまた前足に力を籠め次の攻撃に備える。
「ガウゥッ!」
「っ!!」
示し合わせたかの様に駆け出す両者。一瞬で間が詰まると、プルートがその前足を横なぎに振るう。轟音を上げアレクシスに迫る爪、しかしその軌道は途中で阻まれることになる。
構えていた槍から左手を離すと、横に払う動作を見せるアレクシス。すると、その軌道をなぞる様に地面から巨大な氷塊が壁となって姿を現す。
氷塊によってプルートの一撃を防いだアレクシス。勢いのまま姿勢を低くすると、槍の先端を正面に構え、まるで自身が一本の槍と化したかの様な一直線の体勢を取る。
一方プルートも一瞬は氷塊に阻まれたものの、即座に氷塊を砕き割ると、その勢いで強引にアレクシスに向かい前足を振り下ろす。
ザンッ!!
交差する瞬間全力の一撃をぶつけ合う両者。アレクシスの肩口から切り裂く様に振り下ろされたプルートの爪。しかし、半身を躱し最小限の動きで見事回避して見せたアレクシスは、魔力を溜めていた槍の先端で、プルートの肩口から胴体にかけて切り裂くことに成功する。
「ガッッグルァ」
「まだだ!!」
パキキキィィッ!
激しい氷結音を上げ、傷口から凍り付いていくプルートの体。うめき声を上げながら距離を取るプルートだが、その体はじわじわと氷に覆われていく。
「やはり、その体毛を破ってしまえば氷結も効くか」
ニヤリと笑みを浮かべ槍を構えるアレクシス。プルートとアレクシスの戦いは、アレクシスが一歩優位に立つのだった。
他方、戦場の端々では一人また一人と調査団員が獣人達の手によって止めを刺されていた。その間を縫う様に駆け抜けるスピカとリゲル。
《凄いわスピカ、この勢いなら勝てちゃうわよ!》
(うん、リゲルの作戦は凄いね!)
《悔しいけど、けど本当に凄いわ!》
周囲を警戒しながら戦場の端まで辿り着くスピカとリゲル。丁度ジェルミーナがプルートに乗って戦場を脱出した辺りである。
「よしスピカ、ここまでで大丈夫だ、お前も戦いに行ってこい」
「うん、でも本当に一人で大丈夫? 錬金術の途中で攻撃されたりしたら……」
「ああ? 敵もほどんど残ってねえんだ、分かったらさっさと行け!」
煩わしそうにしっしっと手を振るリゲル。小さく頷いたスピカは踵を返し戦場に向かう。
《もう、何であいつはあんな言い方しかできなのかしらね》
(リゲルなりに心配させない様にしてくれてるんじゃなかな?)
笑みを浮かべながら戦場へと切り込んでいくスピカ、その視線がある一点で止まる。
(あれは……放っとかない方が良いかな……)
すっと目を細めたスピカは、気配を消し静かに移動するのだった。
一方、クラーラと対峙するジャンルーカとフェルナンドは、防戦一方の戦いを強いられていた。
常に上空で竜巻をまといながら弓矢による遠距離攻撃を繰り出すクラーラに。反撃の手立てが打てずに防御と回避を繰り返していたのだ。
「くっ、このままではジリ貧だぞ」
苦々しい声を上げ戦場を駆け回るフェルナンド。ジャンルーカも苦しげな表情を浮かべながら、風の魔法で応戦する。
「分かっている、私に考えがある!」
「本当か?」
「だが準備に少し時間がかかる、その間奴を引き付けられるか?」
「分かった、任せろ!」
アイコンタクトを取り頷き合うと、クラーラに向かって駆け出していくフェルナンド。それに気付いたクラーラは、とっさに矢を構えると旋風の矢を雨の様に放つ。
「自ら死にに来るとは、良い度胸です!」
「誰が死にに行くって?」
獣人特有のしなやかな体を活かし、縫う様な動きで矢を躱していくフェルナンド。しかし、旋風まとった矢は、直撃せずともその衝撃波で周囲を巻き込むことができる。
少しずつ、しかし確実にダメージを負っていくフェルナンド。それでも身を躱し、跳躍し、時にはダメージ覚悟でクラーラの元へ駆けていく。そしてついに、クラーラの真下まで辿り着く。
「よし、ここだ!」
「あら、何のつもりです?」
眉をひそめるクラーラ。フェルナンドはというと、得意げな表情でクラーラを見上げながら答える。
「何って、お前の弱点を突きにきただけだ。この位置、真下には先ほどの矢は放てないだろう?」
挑発する様にクイクイと指を曲げて見せるフェルナンド、しかし、クラーラは一瞬ポカンとした表情を浮かべたかと思うと、高笑いを上げる。
「アッハッハッハッハッ! やはり亜人とは愚かな生き物ですね。私の弱点? 残念ながらあなたの推測は間違っていますよ」
「何っ!?」
そう言うと、これまでにないほどに強く弓を引き絞るクラーラ。
「さて、では愚かにも私の足元まで来てくれたあなたに、私からの素敵な贈り物です!」
直後、数十にも及ぶ旋風の矢がフェルナンドに向かい一斉に降り注いだ。
一射同時複数攻撃。一本一本の威力はそれほどでもないが、あまりの物量にフェルナンドも回避が間に合わず全身にダメージを負ってしまう。
「ぐっ、っうぅ……」
「おや? 致命傷は避けましたか、悪あがきですね」
再び弓を引き絞るクラーラ。次の一射を放とうとしたその時、その表情が困惑に歪められる。
「なっ、何!?」
ガクンッと姿勢を崩すクラーラ。そのまましばらく滞空していたが、大きく体を傾けると地面まで落下していく。
「馬鹿なっ、一体何が!?」
「馬鹿は貴様だ」
地に膝を付くクラーラに、ゆっくりと歩み寄るジャンルーカ。その手には愛用のナイフが握られている。
「何を、一体何をしたの!?」
「分からないのか? 貴様の周りの気圧と気流を乱しただけだ」
「ありえないわ! そんなことでこの私が……」
驚きに目を見開くクラーラ。ジャンルーカはあえて説明を端折ったが、クラーラのまとう竜巻の動きを細かく観察し、その一部分に乱れが集中する様に精密かつ正確な妨害を仕掛けていたのだ。
結果、バランスを崩し浮遊状態を保てなくなったクラーラ。地に足を付けたままギリギリと睨み合う両者。しかし、精密な魔法行使で明らかに疲弊しているジャンルーカに対して、余裕のあるクラーラは先手を取るべく矢を構えながら跳躍の姿勢を見せる。
「させるか!」
「なっ、きゃあぁっ!?」
構えを取ったクラーラの隙を突く様に、背後から切りかかるフェルナンド。反応の遅れたクラーラは、その肩から背までを大きく切り裂かれ地面に転がり倒れる。
「まさか、弱点も話も全ては私の注意を引くための? 亜人がっ、亜人ごときがこの私をっ!」
「その亜人ごときに見下ろされる気分はどうだ? お嬢ちゃん」
「くうぅ……」
満身創痍ながらもクラーラを追い詰めるジャンルーカとフェルナンド。倒れ伏すクラーラに止めを刺すべくナイフを振り上げるジャンルーカ。風の魔法を発動し振り下ろすその瞬間。
「させない!」
背後からの強い衝撃を受けるジャンルーカ。驚くフェルナンドをも巻き込み、まとめて吹き飛ばされていく。
「「があぁっ!?」」
顔を上げ喜色を浮かべるクラーラ。その視線の先では、体を引きずる様にしながらベリンダが拳を構えていた。
「ベリンダ! 無事だったのね!」
「全然無事じゃないよ、アタイ今ボロボロなんだから!」
「そうね、でも助かったわ」
フラフラとその場に倒れ込むベリンダ。その体はいたる所から出血し、片腕はねじ曲がり骨が突き出している。大きく晴れた顔面は痛々しいありさまだ。
「ベリンダは休んでて、私がやるわ」
「うん、任せる」
ゆっくりと立ち上がり弓を構えるクラーラ。追い詰められたジャンルーカとフェルナンドは険しい表情を浮かべるが、その顔がみるみる驚愕の色へと変わっていく。
その様子を見て怪訝な表情を浮かべるクラーラ。直後、背後からズブリという嫌な音と共に甲高い声が耳に響く。
「残念、油断しちゃダメだよ?」
「ぎゃっっぁああ!?」
慌てて振り向くクラーラ。そこには、背中から胸元にかけ深々と剣で貫かれ、血を吹きながら白目をむくベリンダの姿が。
そして、その背後で剣を押し込みながら、不敵な笑みを浮かべるスピカの姿があった。
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