47話:正教会からの刺客 ~作戦開始~
※2019/10/18 表記方法を修正しました。
獣人サウロが亜人達の村へ辿り着いた日の翌日。
夕方に差し掛かろうかという時間帯、アレクシス達調査団一行は森林地帯を抜け山岳地帯の手前、亜人達の村まで約一日の距離まで迫ってきていた。
「アレクシス様、ここから先は山岳地帯に入るようです、このまま進みますか?」
「えー、アタイだるいよー」
真剣な表情で地図に目をやるクラーラ、一方のベリンダは頭の後ろに手をやり口をとがらせている。そんなベリンダを呆れた様に眺めるアレクシス。
「ベリンダに同意する訳ではないが、無理に山岳地帯を進み体力を使う必要もないだろう。少し迂回し、平地を進みながら亜人達の村とやらを目指そうか」
「やった、さっすがアレクシス様!」
アレクシスの指示に従い、山岳地帯を迂回する様に進路をとる調査団。そこへ、周囲を警戒していた調査団の一人から声が上がる。
「アレクシス様、あそこに何か!」
調査団員の指し示す先。そこには、驚いた表情で調査団を見つめる小柄なエルフの少女の姿があった。
「あっ、え……?」
訳が分からないといった様子のエルフの少女は、困惑したままゆっくりと後ずさっていく。その様子を見て調査団の面々は邪悪な笑みを浮かべる。
「亜人だ!」
「見ろ、エルフだぞ!」
「よし、捕えるぞ!」
「ひぃっ、嫌あぁ!!」
調査団から次々と浴びせられる言葉に、叫び声を上げながら逃げていくエルフの少女。そのまま山岳地帯の方向へと姿を消す。
「あのエルフは一体……なぜこんな所に?」
怪訝な表情で目を細めるアレクシス。そこへ、クラーラとベリンダからそれぞれ声がかけられる。
「アレクシス様、亜人の村とやらまではまだ一日ほどもかかりますし、こんなところにあの様な少女が一人でいるのは不自然です。もしかしたらこの先に奴ら亜人の拠点でもあるのかもしれません」
「難しいこと話してないで早く追おうよ! あいつ逃げちゃうよ?」
「お前、山越えはだるいんじゃなかったのか……」
ブンブンと腕を振り回すベリンダ。そんなベリンダを再び呆れた様に眺めながら、アレクシスは調査団全体に聞こえる様大きく声を張り上げる。
「よし、我々はこれよりあのエルフを追い、山岳地帯に突入する! 多少の難所にはなるだろうが、乗り越えられないものではない! 速やかにあのエルフを捉え、情報を引き出せ!!」
「よおっし! さあさあさっさと追うよー!!」
「「「おおぉっ!!」」」
真っ先に声を上げ答えるベリンダ。それに続く様に声を揃え気合を入れる調査団の面々は、我先にと山岳地帯に突入していく。その様子を見届けたアレクシスは、一人集団の最後尾に控えていた神前の元を訪れる。
「神前殿、あのエルフを追うことにしたが、それで良いな?」
「…………」
コクリ、と無言で頷く神前。それを確認したアレクシスもまた、山岳地帯に突入していくのだった。
一方調査団の先頭では、男達の怒号が飛び交っていた。
「待てこらぁ!」
「逃がさねえぞエルフがぁっ」
「たっ、助けてぇ!!」
調査団に追われ逃げ惑うエルフの少女。その背後からじりじりと距離を詰める調査団だが、身軽に飛び回り、中々捕まらないエルフの少女に徐々に苛立ちを見せる。
「くそっ、意外とすばしっこいぞ」
「誰か回り込んで挟み撃ちに出来ないのか?」
「馬鹿やろう、見れば分かるだろう、無理だ!!」
「ちっ、クソが!!」
苛立った声が次々と飛び交っていく。現在エルフの少女と調査団が進んでいる道は、両側を崖に囲まれた一本道である。
調査団から見て左側は、十メートルほどの高さの崖が壁を作っており、簡単には登って回り込むといったことができない高さである。
反対に右側は、急な斜面が二十メートルほど下まで続いており、こちらも簡単には下りて回り込むといったことができそうにない高さだ。
つまり、エルフの少女を捉えるためには、この一本道を進み続けるしかないということである。
「だが一本道なら速度がものを言うはずだ、一気に追い詰めるぞ」
「おお!」
速度を上げエルフの少女を追い詰めていく調査団の面々。その様子を、岸壁の上から静かに眺める視線がある。
「来た来た、予定通りだね」
「ああ、ジェルミーナのやつ中々演技力高いんじゃねえか? 普段からあれくらいしおらしくしてりゃあ可愛げもあるのによ」
「そんなこと言って、実は心配してるくせに」
「ばっ、してねえよ!」
軽口をたたき合いながら状況を観察しているのはスピカとリゲルだ。その横ではジャンルーカがハラハラしながら成り行きを見守っている。
「ジェルミっ、危ない! くそ、あいつら……、もっと早く、ああ!! 頑張れジェルミ!」
「おい、こいつちょっとうるせえぞ」
《確かに、ちょっとどころかかなりうるさいわね、さっきからずっとこんな調子じゃない》
視線の先では、エルフの少女ことジェルミーナが叫び声を上げながら逃げ惑っている。間もなくスピカ達のいる場所の真下に到達するころだ。
「よし、そろそろポイントだよ」
「頼んだぞ、リゲル殿」
「おっしゃ、じゃあ気合い入れていくか」
スピカとジャンルーカの言葉に、片手を上げて答えるリゲル。パンッと手を鳴らしながら崖から距離を取ると、地面に埋められた金属の杭に両手を添え、静かに集中する。
すると、リゲルのコートに隙間なく刺繍された錬成陣をめまぐるしい光が駆け抜ける。強さを増していく光は、やがてチカチカと点滅すると、一際大きな光を放つ。
「いくぞ、離れてろよお前ら!」
大きく声を張り上げるリゲル。直後、衝撃が辺り一帯に駆け巡る。
一方の調査団は、徐々にジェルミーナとの距離を縮めていたが、あと一歩というところで中々距離が詰められずにいた。
距離が詰められないながらも追い詰めつつあると思い込む調査団。しかし実は、ジェルミーナは風魔法によって自身の移動速度に加減を加えることで、調査団との距離を絶妙に調整しているのだ。
結果、惜しいところで捕えることができないという状況を繰り返していた調査団。そこへ、しびれを切らせたベリンダが前へ出る。
「もう、いつまで追いかけっこしてるの! アタイがやるからアンタ達どいてて!」
そう言うと、一気に加速し調査団から飛び出すベリンダ。一瞬の出来事にギョッとするジェルミーナ、風魔法による加速も間に合わず、ベリンダの手がジェルミーナに届こうかというその時。
ズズンッッ!!!!
激しい衝撃音が辺り一帯に響き渡る。断続的な地鳴りに思わず足を止めるベリンダ、調査団の面々も何事かと周囲を見回している。
グラグラと揺れ続ける地面。その揺れが一際大きくなると同時に、バキンッという破砕音が周囲に響く。
破砕音のする方向、左側にそびえていた崖には徐々に亀裂が走っていく。そして、一際大きな破砕音と共に、巨大な錬成陣が崖一面に浮かび上がった。
「なっ、 何これ!?」
「アレクシス様、これはっ」
「何か来るぞ、お前達早く構えを――」
慌てて指示を出すアレクシス。しかし、その指示が行き届くよりも先にリゲルの錬金術が完成する。崖を覆っていた錬成陣がまぶしく光ったかと思いきや、崖を構成していた岩石が見る間に流動性を帯びていく。
次の瞬間、溢れかえる土砂が調査団に襲い掛かった。
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