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46話:正教会からの刺客 ~調査団~

 城郭都市コントラカストラから西に進んだ先。


 森林地帯と山岳地帯に囲まれた荒野では、三十人近い人間の集団が陣を敷き野営を行っていた。


 正教会によって編成、派遣された、複数の勇者とそのパーティからなる調査団である。


 円形に陣を敷く調査団。その中央では特に強烈な存在感を放つ人物が三人、地図を囲みながら軽い食事を取り終えるところだ。


「よし、腹も膨れた、そろそろ出発するぞ」


 立ち上がりながら声を発したのは、褐色の肌にくせのある銀髪が印象的な、背の高い面長の男だ。


 彼こそ、正教会の最高意思決定機関からこの集団の全責任を任された一等級勇者、"氷結"の勇者アレクシスだ。十五人しか存在しない一等級勇者の一人にして、教会から"氷結"の二つ名を与えられた、紛れもない実力者である。


「えー、もうちょっと休もうよ、アタイまだ疲れてるよー」


「ベリンダ、わがままを言ってはダメよ、アレクシス様の指示に従いなさい」


「ぶぅー、クラーラだって疲れたって言ってたじゃんかー」


 頬を膨らませながらふてくされているのは、ベリンダと呼ばれた小柄な少女だ。丸っこい童顔に、ツインテールにまとめた黒髪が活発な印象を与えている。


 不機嫌そうに足をパタパタと揺らし抗議するベリンダ。そんなベリンダを、ブロンズのロングヘアが印象的な、クラーラと呼ばれた女性が宥めている。怪しく光る瞳にグラマラスな体つきが、扇情的な雰囲気を醸し出している女性だ。


「あまりわがままを言っていると、次のおやつは抜きにしますよ?」


「酷いっ、クラーラの意地悪!」


 軽口をたたき合う二人だが、どちらも二等級の称号を与えられた勇者である。"爆砕"の勇者ベリンダ、"旋風"の勇者クラーラと、両名共が二つ名を持つ勇者でもあり、調査団の中ではアレクシスに次いだ実力者達である。


 アレクシス、ベリンダ、クラーラ、この三人を主軸とし、三等級勇者が二人、四等級勇者が四人、そして教会員が総勢十八人。合計二十七人の集団が、教会から派遣された調査団である。


 そして、その調査団から少し離れた場所で、一人フードを目深にかぶったままじっと俯いている女性が一人。"神前"の称号を持つ彼女は、僧侶の頂点にして、教会の最高意思決定機関の一人でもある。


 どんよりとした雰囲気でじっと座り込む神前。その様子を忌々し気に眺めるアレクシスは、小さく舌打ちをすると、神前の座る方向を指差しながら口を開く。


「おい、あの女にも出発を伝えてこい」


「えーっ、アタイ嫌だよ、あいつ気味が悪くて嫌いなんだもん」


「私だって嫌ですよ、そもそも何故あの様な女が同行しているのか、今でも納得しておりませんので」


 口々に文句を言いあう女性二人。アレクシスもそんな二人に同意を示す。


「まったくだな、教会から同行を義務付けられたから仕方なく許しているが、ものの役にも立たない。そもそも神前などと仰々しく呼ばれているが、所詮はただの僧侶だろう。万が一瘴気が充満していた場合の浄化役という話だったが、この通り瘴気はすっかり消え去っているしな」


「こうなってくると彼女が同行する理由がありませんものね。あの様に連携もろくに取れない者など、集団のバランスを乱すだけの存在となります」


「ホントにそうだよ! 剣聖エルドレット様だったらすっごく頼りになるのに、僧侶なんて戦力としては絶対役に立たないじゃん」


 じっと座っている神前に目を向け、苛立たし気に睨みつける勇者達。


「あの様な者が神託の勇者様や剣聖様と肩を並べているなどおかしな話だが……まあいい、今回の任務は勇者たる我々の力で遂行して見せよう」


「そうだよね、亜人なんてアタイ達だけで十分だよ!」


「その通りです、この程度の任務私達あれば――」


「失礼します!!」


 頷きながら口を開くクラーラ。しかし、突如駆け込んできた男の声によって、クラーラ言葉は遮られる。


「ちょっと、私の話に割り込まないでちょうだい!」


「あぁ、すみません、それより大変です! 魔物が出ました!」


「魔物?」


 アレクシスが訪ねるのとほぼ同時に、調査団を取り囲む様に陣形の外側三ヶ所から大きな悲鳴と怒号が響き渡る。見ると、巨大な影がゆっくりと身を起こすところだ。


 鎌首をもたげる巨大なシルエット。それはまさしく巨大な蛇型の魔物、アスピスの姿であった。


「あの程度の魔物でいちいち騒ぐな。ベリンダ、クラーラ、さっさと排除するぞ」


「はいはーい!」


「承知しました」


素早く号令を出すと、疾風の様に駆けていくアレクシス。走りながら構える槍には、流水を思わせる複雑な装飾が施されており、一目でただならぬ武器であることが見受けられる。


そのまま一気に距離を詰めていくと、流れる様な動作で槍を振るう。すると、槍の軌跡に沿う様に、アレクシスの正面から一直線に地面が凍結していく。


 周囲の調査団員が目を見開く中、一瞬にして連なっていく氷塊は、バキバキと音を立てアスピスの全身を氷漬けにしてしまう。


「す、凄いっ」


「あれが、氷結と呼ばれる所以か……」


 周囲から歓声が上がるが、気にも留めないアレクシスは他の戦況に目を向ける。すると、アレクシスからは集団を挟んだ反対側で、大きな爆発音が起きる。


 爆発音の元で飛び回っているのはベリンダである。徒手空拳を主とするベリンダは、素早い動きでアスピスの刺客に潜り込むと、ひねりを加えた右ストレートでアスピスの胴体に拳を叩き込む。直後、拳が撃ち込まれた個所から目もくらむような閃光が迸り、アスピスの胴体を真っ二つに吹き飛ばしてしまう。


 これこそベリンダが爆砕の二つ名を持つ所以である。全身に魔導力を流し込み、攻撃の際に溜めた魔導力を炸裂させる。爆裂術という戦闘手法により魔物を粉砕する姿は、まさに爆砕と呼ぶにふさわしい。


 一方のクラーラは、スキップする様に何度か飛び跳ねると、そのまま空中を舞う様に飛び上がる。


 竜巻状の風の纏いながら空中で制止するクラーラ。そのまま余裕の表情で弓を構えると、矢の無い状態で目いっぱいに引き絞る。


 引き絞られた弓に呼応するかの様に大気が渦巻いていく。タイミングを図り、引き絞た弓から手を離すクラーラ。すると、渦を巻いた大気がまるで矢の様に放たれる。


 轟音と共に一直線に突き進む大気の矢は、アスピスの頭蓋を軽々と貫通しその命を奪う。まさに旋風の名にふさわしい、高度な風魔法による殲滅劇である。


「凄い、凄すぎる!」


「これが二つ名を与えられた勇者達の力なのかっ」


「この方々がいれば俺達は無敵だ!!」


 勝利に湧き上がる調査団の面々。その歓声に囲まれながら、アレクシスの元へ集まるベリンダとクラーラ。


「この布陣であれば、魔物達の頭目であるモンスターロードが相手でも引けを取らないだろうな」


「そうだよ、アタイ達だけでもモンスターロードなんかコテンパンだよね」


「ベリンダ、今回の標的は亜人ですよ、間違えない様にしてください」


「分かってるよー」


 ガルムと同等の魔物であるアスピス、それを一蹴する程の強大な戦力。


 かつてない脅威が、亜人達の村に迫っていた。

ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。


また、ブックマークやpt評価、感想も喜んで受け付けております。


執筆の励みとさせていただきますので、どうぞ応援よろしくお願いします。

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