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43話:初めてのパーティ

※2019/10/18 表記方法を修正しました。

カタカタカタカタ……ボンッ!!


「《!?》」


 早朝。


 まだ皆が寝静まっている時間帯。スピカもまた、ぐっすりと熟睡していたが、突然の爆発音に叩き起こされる。


「なっ、何今の!?」


《何か爆発音がしたわよ》


 寝間着姿のまま家を飛び出すスピカ。ちなみに、普段は同じベッドで一緒に寝ているジェルミーナだが、この日は兄ジャンルーカの家に泊まっており不在だ。


 勢い良く玄関のドアを開け、外の様子を伺う。すると、家の正面でもうもうと黒い煙が上がっていた。何事かと周囲を観察すると、少し離れた場所に、煤だらけのリゲルが転がっている。


「リゲル!」


《あいつ、朝っぱらから何してるのよ!?》


 慌てて駆け寄るスピカ。一方のリゲルは、頭を抱えながらゆっくりと起き上がる。


「……おう? スピカか、今日は早いな」


「早いなじゃないよ、凄い音がしてびっくりしたんだから!」


「ああ……悪いな、ちょっと失敗してよ」


《失敗って、何をどうしたらこんな失敗になるのよ》


 地べたに座り込んだまま顔をしかめているリゲル。その手には、大事そうに白銅色の塊が抱えられていた。所々煤で汚れており分かり辛いが、どうやら先日入手したゴーレムの核だと思われる。


「それってゴーレムの? 一体何しようとしてたの?」


「ちょっとした実験だ、その前にまずは風呂入って来るわ」


「あ、うん、そうだね」


 煤だらけで真っ黒のリゲルを見て、納得の声を上げるスピカ。


《スピカも、いつまでも寝間着姿だとはしたないわよ、寝ぐせも酷いことになってるし》


(あ、うん、そうだね)


 こうして、いつにも増して慌ただしく、一日が幕を開けるのだった。



★ ★ ★ ★ ★ ★



「で? 結局リゲルは一体何をしようとしてたの?」


 朝食を取りながら質問を投げかけるスピカ。半時ほど経ち、寝間着から着替えたスピカと、煤を落としたリゲルは、朝食を取りながら先ほどの顛末について話し合っているところである。


「ああ、あれは錬金術の実験だ」


「ふーん、どんな実験なの?」


「ゴーレムの核を再生させようとしてたんだ」


《再生って、そんなことできる訳ないでしょ!?》


 リゲルからの返答に驚きの声を上げるトレミィ。あまりピンと来ていないスピカは小首をかしげている。


「そんなことできるの? 再生って難しみたいだけど……」


《難しいなんてレベルじゃないわよ、壊れた命を蘇らせようとしてるんだから》


「どうだろうな、成功したって話は聞いたことねえけど、だからこそやってみねえと分からねえだろ? せっかく手に入れた核だしよ」


 ゴーレムの核を取り出し、ゴトリ、とテーブルの上に置くリゲル。


「中々貴重なものだしな、色々実験出来るのに塩漬けしておくのはもったいねえぜ?」


「そっか」


《だからって朝から爆発はないわよ……》


(うん、確かに)


 その後、ゴーレムの核を見ながら黙々と食事を取り続ける二人。皿が空になったところでスピカが再び口を開く。


「ねえ、リゲルはどうして錬金術師になったの?」


「唐突だなおい、聞いてどうするんだよ?」


「うーん? ちょっと知りたくて」


「……」


《何よこいつ、急に黙り込んじゃって》


 スピカの問いに無言で返すリゲル。


「あ、別に言いたくないなら言わなくても良いよ?」


「いや、そういう訳じゃねえよ、ただそうだな……」


 少し考えるそぶりを見せたリゲルは、スピカの方を指差しながらニヤリと笑みを浮かべる。


「じゃあこうしようぜ。お前、夜になると光るよな? あれについて隠している秘密を一つ教えろよ、そしたらさっきの質問にも答えてやるよ」


《なっ、何よそれ! 別にこいつのことなんて誰も知りたくないわよ!!》


 息を荒げるとトレミィ。だがスピカはあっさりとその要求を承諾してしまう。


「いいよ、一つだけね」


《ちょっとスピカ!》


「よし、じゃあ俺が錬金術師になった理由だが、生き返らせたい奴がいるからだ」


「《生き返らせる?》」


「ああ、人体錬成って知ってるか? 錬金術における禁忌にして奥義だ、それを使ってこの世に生き返らせたい奴がいる」


《人体錬成って、不可能に決まってるじゃない! そんなの過去誰も成功してないわよ!? 無理よ!》


 リゲルの答えに益々声を荒げるトレミィ。スピカはというと、感心した様に声を上げている。


「へぇー! そんなことができるんだ?」


《そんなことできないわよ!》


「やってみねえと何とも言えねえ、が、諦めるつもりはねえよ?」


「おぉー」


「おいおい、あんまり興味なさそうだなお前」


 不服そうな様子のリゲルだが、スピカは満足気な表情で頷いている。


「それじゃあ今度はこっちの番だ、隠していることを一つ教えろよ」


《ちょっと! 聞かれちゃってるわよ、どうするの?》


(うん、普通に教えてあげるよ?)


《でも! 二人だけの秘密はどうしたのよ?》


(それは大丈夫、任せて任せて)


 一人小さく頷くスピカ。そして、一言簡潔に答える。


「あれはね、神託で授かった力だよ」


「はっ!?」


 驚きに目を丸くするリゲルは、信じられないといった様子でスピカに詰め寄る。


「お前っ、神託の勇者だったのか? というかそもそも神託の意味が分かってんのか? いや、だがそれならあの力も納得だな……、お前いつどこでどうやってその力を手に入れたんだよ!?」


「ブー! それは教えられないよ、だって教えてあげるのは一つだけって言ったもんね」


 手をばってんにして、ペロリと小さく舌を出すスピカ。


「なっ、てめえ!!」


《なるほど、流石だわ! ナイスだわ!》


(うん、だってトレミィのことは二人だけの秘密だからね)


《そっ、そうよね!》


 ニコニコと笑顔のスピカ。それに対して舌打ちをしながら目をとがらせているリゲル。そのまま不満そうな様子で席を立とうとするが、スピカが制止の声を掛ける。


「あ、待って! リゲルに相談したいことがあって」


「あ? 何だよ」


《あら、何かしら?》


 不機嫌そうなリゲルを席に座らせたスピカは、一呼吸間を開け口を開く。



「私と……私とパーティを組まない?」



「はあ!?」


《ええ!? ちょっと!!》


「お前っ、マジで何を突然言い出してんだよ!!」


《そうよ! なんで突然、しかもこいつなのよ!?》


 息巻く二人に、スピカはいたって冷静に言葉を続ける。


「私ね、いつか世界中を旅して回りたいと思ってて。でも私一人の力じゃ実現できないと思ってて。そのためのパーティが必要だと思うの。ほら、私の力って夜しか使えないでしょ? それに、一応私も勇者だからパーティを持ってて良いはずだし」


「それで、なんで俺なんだよ?」


《そうよ、何でこいつなのよ?》


「だってリゲルが良いんだもん」


「だから! 理由を聞いてんだよ俺は!」


 マイペースなスピカに、益々イライラを募らせるリゲル。


「リゲルって、よく毒とか作ってるじゃない、だから毒に詳しいんじゃないかなと思って」


「まあ毒物関係はある程度詳しいが……って、あれは毒じゃねえよ! 薬だアホ!!」


《どういうことかしら……毒に詳しい相手が良いってことかしら?》


(毒っていうか、毒物みたいなものに詳しい人が良いかな。トレミィが復活したときに、瘴気を何とかしてくれそうな人が良いよ、瘴気も毒みたいなものでしょ?)


《スピカ!!》


 スピカの答えに言葉を詰まらせるトレミィ。その声は徐々に震えていく。


《わわぁ私のためを思ってだったのねぇ……だったらもうスピカの判断にまかせるぅわあぁ……》


「トレミィ、また泣いてるの? 声が震えてて何言ってるか分からないよ」


「お前マジで、まったく意味が分からねえな」


 じっと黙り込んでトレミィと会話をしていると、リゲルから呆れた声が上がる。リゲルに意識を向けなおすと、さらに提案を付け加えるスピカ。


「パーティを組んでくれたら、実験にも付き合ってあげるのに……」


「なに!?」


「星の力も研究させてあげるのに」


「マジかっ!?」


「私達、すごく連携もできてたし、きっと相性が良いと思うのにな……」


 そう言われ、ギリギリと歯を鳴らしながら葛藤するリゲル。そんなリゲルに向かい、チラリと伺う様に目線を送るスピカ。視線の合ったリゲルは大きな舌打ちを漏らす。


「……ちぃっ、分かったよ! とりあえず仮パーティな」


「うん! やったあ!!」


 パアッと顔をほころばせ、勢い良くリゲルに駆け寄るスピカ。そのままギュッと抱き着くとグリグリと顔をこすりつける。


「うぐぁっ、おい離れろ! 苦しいわボケカスが」


《スピカ! パーティだからって軽々しく抱き着いちゃダメよ!!》


「ああっ、ゴメン!」


 パッと手を離されたリゲルは、勢いよく地面に放り投げられる。ドスンと大きな音を立て、床に尻もちをつくと苦しそうにうめき声を上げる。


「痛ってぇ、お前マジで下すときは気を付けろってこの前も言ったろ!!」


「あああっ、ホントゴメン!!」


 いつにも増して慌ただしい一日。


 この日、勇者スピカに初めてパーティが出来た。

ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。


また、ブックマークやpt評価、感想も喜んで受け付けております。


執筆の励みとさせていただきますので、どうぞ応援よろしくお願いします。

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