42話:スピカの魔法 ~星の獣~
※2019/10/18 内容を微修正しました
雲一つない満天の星空。
そんな星空の下。輝く光の塊が、まるで流星の様に光を尾を引きながら縦横無尽に飛び回っていた。
ビュンビュンッ
「「《おぉ?》」」
ビュンビュンビュンッ
「「《おおぉ?》」」
ビュビュビュビュビュンッ
「「《おおおぉぉぉ!?》」」
夜の明かりに照らされた荒野に、大きな歓声が響き渡る。声の主はスピカとリゲルだ。
スピカが星の魔法を習得して数日、天気の良い日は毎晩の様に魔法の練習に励んでいるスピカ。この日はリゲルとプルートを連れての練習だ。
ちなみにジェルミーナは、村の女性達と亜人女子会があるとかで今日は不参加だ。
「昨日よりもさらに速くなってるな、というか速すぎるだろうこれは」
「うん、どんどん調子が上がってるみたい!」
ビュンビュンと手を動かしながら、指揮を執る様に魔法を操るスピカ。その速度は、初日とは比較にならないほど増していた。今や、目では追いきれないほどの高速で空を飛びまわっている。
「ガルゥッ、ガルガルゥッ」
キラキラと光を放ちながら飛んで回る星の魔法を見て、プルートも嬉しそうに吠え声を上げる。
「よし! じゃあ今度は……」
そう言うと、一呼吸置いた後勢い良く手を振り下ろすスピカ。その動きにあわせて、一直線に空から降ってくる星の魔法。すさまじい勢いで、そのまま地面に激突するかと思われたが。
(ストップ!)
スピカの思念に従い、地面の直前でピタリと停止する星の魔法。そのままの高度を保ちながら、地面スレスレを円を描く様に飛び回る星の魔法。
スピカの周りを一周すると、跳ねる様な軌道を描き、天に向かって飛び上がっていく。
《しゅごいわっ、良くそんなにうまきゅ動かせるわね!》
(うん、トレミィ、少し落ち着こう)
興奮しすぎで呂律が回っていないトレミィ。そんなトレミィを冷静に宥めながら、その間も縦横無尽に星の魔法を飛ばして回るスピカ。
《まるで後ろにも目があるみたい……見えてないところでもちゃんと動かせてるわ》
(何となくだけど、魔法が今どこを飛んでるかが分かるから、直接見えてなくても動かせるの)
そう言うと、自分の後頭部のすぐ後ろで、ピタリと停止させて見せる。
《すっごいっ、ホントに自由自在ね!》
嬉しそうに声を上げるトレミィ。だが、一方のリゲルは複雑な表情でスピカを見ている。
「こいつは、最初からヤバイとは思ってたが、予想以上にヤバイ魔法だな」
「私は他の魔法をあんまり良く知らないけど、結構ヤバイんだ……?」
「ああ、結構ヤバイな」
「それは、どういう意味でヤバイの?」
「ガチで軍事利用を検討されるレベルでヤバイな」
「うえ、そんなに……」
スピカが頭を捻っている間にも、複雑な動きで宙を舞い続ける星の魔法。光が尾を引き、空中に線を描く様はとても幻想的だ。
「ワウッ、ワウワウッ」
「プルート、どうしたの?」
飛び回る星の魔法を見て、尻尾を振りながらしきりに吠えるプルート。うずうずとした気配が、全身からにじみ出ている。
「ああ、もしかしてこいつ、お前の魔法で遊びたいんじゃねえか?」
「遊びたい?」
「犬とかってよ、動き回るものを見るとやたらに追いかけたりするだろ? こいつもでかい犬みたいなもんだし、そういう本能が呼び覚まされたんじゃねえか?」
「ちょっと! プルートは犬じゃないよ、ねえプルート?」
「キュッ!? キュウゥン……」
ばつが悪そうに顔を俯くかせるプルート。しかし、尻尾は相変わらずぶんぶんと振りまわされている。
《プルート……全然ごまかせてないわよ……》
(プルート、ホントは遊びたかったんだね……)
プルートの様子に優しい表情で浮かべながら、そっと手を動かすスピカ。プルートの目の前に、星の魔法をゆっくりと移動させる。すると、食い入る様にそれを見つめ、息を荒げるプルート。
「ハッハッハッハッ」
《プルート、よだれが出ちゃってるわよ……》
(うん、ちょっと可愛いかも)
《ぜんぜん可愛くないわよ、ただただ大きい犬よこれは》
しばらく星の魔法を見つめていたプルートだが、不意に、甘える様な視線をスピカに向けてくる。
「うん、分かったよ、それじゃあ」
そんなプルートの視線から糸を感じ取ったスピカ。投擲の様な姿勢で、大きく腕を引く。
「プルート! 行け!!」
掛け声に合わせて、何かを投げる様な形で、腕を振り魔法を放つ。
「ガッフウゥゥ!!」
「やっほう!」という声が聞こえてきそうな吠え声を上げ、追いかけ走るプルート。ジグザグに動く星の魔法を、一心不乱に追いかけている。
「まんま犬じゃねえか、良いのかよあれで?」
「うん、可愛いから良いんだ」
「どこがだよ、ただのでかい犬っコロじゃねえか」
《あら、珍しくこいつと意見があったわね……》
そうして話している間も、楽しそうに星の魔法を追い掛け回すプルート、何かに憑りつかれたかの様なその様子からは、もはや狂気すら感じる。
しばらく走り回っていると、徐々に速さを増していく星の魔法。、必死で追いすがるが中々追い付けず、そして、一段と速度が増した星の魔法に、勢い良く飛びついて――
ガブッ
「「《ああ!?》」」
勢いあまって魔法を丸のみしてしまった。
シンと静まり返る中、軽やかに地面に降り立ったプルート。ふらふら歩いたかと思うと、小さく唸り声を上げる。
「おいおい、今のは不味いだろ……」
「プルート、大丈夫?」
「グルルルルウゥ……」
しばらく小刻みに震えていたプルート。次第に震えが大きくなると、ざわざわと全身の毛が逆立つ。
「ウオオオオォォォォンッ!!」
カッと目を見開き、夜空に向かって遠吠えを上げる。すると、漆黒の体毛がみるみるうちに深い紫色を帯びてゆく。また、その体の一部はキラキラと光を反射しており、まるで星空そのものが獣の形を取ったかの様だ。
また、体高一メートルほどだった体も、一・五メートルほどまでに急激な成長を見せていた。まるで生物の成長、いや、進化を早送りで見させられているかの様な光景に、言葉を詰まらせるスピカとリゲル。
そうしている間にも変化は進み、一回り大きくなったプルートが、変わらない深紅の瞳でスピカ達を見つめていた。
「プルート……?」
「ガロロオオォォォォーン!!」
これまでとは比べ物にならないほどの巨大な遠吠え。力強く身震いすれば、スピカと同じ様に光の粒子が小さく周囲に舞う。
そんなプルートにゆっくりと近付いて行くスピカ。すると、先ほどまでの威圧感にあふれた雰囲気が一気に霧散し、甘える様な仕草を見せる。
「ガルルウッ」
「凄い! 凄いよプルート!!」
一回り大きくなったプルートにのしかかられ、身動きが出来ないながらも嬉しそうな声を上げるスピカ。少し離れた所では、感心した様にリゲルが声を上げる。
「これは……まさしく突然変異だな。しかしまさか、スピカの魔法を食って突然変異するとはな」
「ガルガル」
巨体からは想像もつかないほどの身軽さで、素早くスピカから飛びのくプルート。まるで新しい体を慣らすかの様に、スピカ達の周囲を走って回る。
《速い!》
(うん、とっても!)
駆け回るプルートの速度は、これまでの倍以上の速度だ。そのままの勢いで、今度は地面に爪を立てるプルート。すると、スピカが剣を振るう時と同じ様に、爪の軌跡に沿って光の粒子が尾を引き、斬撃となって地面を切り裂く。
「凄い凄い! プルートはやっぱり凄いっ、ちゃんと強くなれたよ!」
「ガルウゥッ」
「こいつは……また新たな実験台だな……」
嬉しそうに声を上げるスピカとプルート。一人不穏なことを言っている者もいるが、ともかくこうして、星の力を持った獣が誕生したのだった。
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