41話:スピカの魔法 ~星の魔法~
※2019/10/18 内容を微修正しました
スピカとリゲルが、素材探索の旅から戻った翌日。
村から少し離れた荒野に、スピカとリゲル、そしてジェルミーナの姿があった。
素材探索の最中魔法の力に目覚めたスピカは、リゲルとジェルミーナを誘い、日が落ちるを待って魔法の練習に来たのだ。
「それじゃあジェルミ、よろしくね」
「はい! でも、私で上手く教えられるか不安です……」
「おいおい、そんなんで大丈夫かよ、もっとちゃんとした奴を連れてきた方が良かったんじゃねえか?」
「うるさいですリゲル! あなたは黙っていて下さい!」
旅から戻って以降も、相変わらずいがみ合っている二人。そんな二人を見ながら、困った表情を浮かべるスピカ。
(早く魔法を使いたいんだけどな……)
《この二人は相変わらずなのね、もう放っといて、さっさと始めちゃいましょうよ》
(そうだね、そうしよっか)
睨み合う二人に背を向け、一人静かに集中するスピカ。目をつむり深呼吸を繰り返すと、星の力によって体を覆っていた光が、次第に強くなっていく。
「ふぅ……」
星の力が全身に満ちていくのを感じながら、ゆっくりと目を開く。そのまま軽く、肘を曲げる様に右手を前にかざすと、手のひらに意識を集中させる。
その様子に気付いたリゲルとジェルミーナ。二人が口を閉じて見守る中、手のひらに集まった光が徐々に強さを増していく。
その光が周囲を明るく照らすほどの大きさまで膨れ上がる。すると、タイミングを見計らったかの様に、曲げていた肘が一気に伸ばされ、グッと手の平が前に突き出される。
「ほっ!!」
掛け声と共に放たれる光の塊。数メートルほどフワフワと進んだかと思うと、その場に停止して動かなくなる。
(うん、ちゃんと出せた)
《そうね、でもずいぶん時間がかかったわ、昨日はすんなり出せたのに》
(うーん……戦ってる最中は結構スムーズに出せたんだけど、今日はなんだか調子が悪いのかな?)
《戦闘中だったからこそ、集中状態でスムーズに出せたのかもしれないわね》
トレミィと会話をしながら首を傾げるスピカ。そこへ、リゲルとジェルミーナが声を掛ける。
「やっぱ変わった魔法だよな、属性がよく分からねえし、出した後もしばらく消えねえし」
「スピカ様、ピカピカしてて綺麗です!」
腕を組みながら考え込むリゲル。ジェルミーナはニコニコと笑顔を浮かべ、楽しそうな様子だ。
「今日の魔法、なんだか違和感があるんだ、昨日はもっとスムーズに出せたんだけど……」
「ああ、そういやずいぶん時間がかかってたな、どうしたんだ?」
「それが分からないんだよ、上手く力が集まらなかった感じで……」
「なるほど」
スピカの言葉を聞き、再び考え込むリゲル。スピカも一緒に考え込んでいたが、ふと顔を上げるとジェルミーナの方を向きなおる。
「ねえ、ジェルミの魔法も見せてよ」
「私ですか? もちろん良いですが、あまり期待はしないで下さいね?」
「うん、簡単なので良いよ」
小さく頷いたジェルミーナは、両手を前にかざし静かに集中する。すると、手の先から小さく風が吹く。
ジェルミーナの集中に呼応するかの様に、徐々に強さを増していく風。最終的には小さな竜巻に成長した。
《へえ、中々やるわね》
「私は兄と同じく風の魔法が使えます、威力は遠く及びませんが」
「やっぱり、ジェルミの魔法はとってもスムーズだよね、凄いよ!」
「えへへ……そんなぁ……」
「おい、気持ち悪いぞ」
「なっ、なななっ、何ですって!?」
《もうっ、すぐケンカするわねこいつら!》
誉められて照れ臭そうに体をよじる。かと思えばリゲルの言葉に息を巻いて詰め寄る。情緒が安定しないジェルミーナ。
しかし、詰め寄られるリゲルは、顔色を変えることもなく冷静にスピカの魔法を分析している。
「なあ、スピカは魔導力の流れに違和感を感じているじゃねえか? だったら、ジェルミーナに直接感じさせてもらえば良いだろ」
「直接感じさせてもらう? そんなことができるの?」
「ああ、ジェルミーナが魔法を発動する時、なるべく体を寄せておくんだ。そうすれば、多少だが魔導力の流れを感じることができる」
「かっ、体を寄せて!? リゲル! なんてことを言うのですかっ、非常にナイスです!」
顔を赤くし、あわあわと手を動かしたかと思うと、鋭い目つきでリゲルを睨む。そしてグッ親指を立てる。情緒が安定しないジェルミーナ。
そんなジェルミーナを呆れた目で見ながら、グイグイとスピカを押し、ジェルミーナに密着させようとするリゲル。
「良いか、ジェルミーナの後ろから抱き着くみたいに覆いかぶさって。自分の両腕をジェルミーナの両腕に重ねるんだ。もっとちゃんとくっつけ」
「だだだっ、抱き着いて!? どこまでナイスなのですか! でも私以外の相手はダメですからね!!」
「ああもう! お前少し黙ってろ!!」
先程から全く情緒が安定しないジェルミーナに、苛立ちの声を上げるリゲル。スピカとジェルミーナを密着させると、自身は少し離れた場所から様子を伺う。
「ジェルミ、お願いできる?」
「は、はひぃっ、ではいきますね?」
恥ずかしそうに小さくつぶやくと、先ほどと同じ様に風魔法を放つジェルミーナ。
「お! おおぉ!!」
「どうでしょうか……?」
「なるほど、何となく分かった気がする!」
そう言うと、スルリとジェルミーナから離れるスピカ。「あ……」と寂しそうな声を上げるジェルミーナを他所に、意気揚々と右手をかざす。すると、手の平が光ったと思いきや、先ほどよりも大きな光の塊が放たれる。
《あ! 今のは良い感じだったんじゃないかしら?》
「うん! 今のはスムーズだった、ジェルミのおかげだよ!」
「いえ、私なんかそんな、こちらこそですぅ」
「良いんじゃねえか? だが二つ同時は無理みたいだな」
リゲルの言葉に周囲を見渡すが、最初に出した魔法が見当たらない。どうやらリゲルの言う通り、同時に発動できるのは一つまでの様だ。
「でもまあ、一つあれば十分かな!」
《そうよ、一つでも十分強いし恰好良いし!》
そのままリズムよく魔法を飛ばして回るスピカ。機嫌を良くしながらしばらく魔法を操っていたが、おもむろに手を上げると。
「てい!」
そのまま勢い良く手を振り下ろす。すると、振り下ろされた手の動きに連動した魔法が、光の尾を引きながら落下してくる、そして。
ドゴオオオオォォォォン!!
「「「《え…》」」」
地面に直撃した瞬間、轟音を立てて地面をえぐりとる魔法。土埃が収まると、巨大なクレーターの中心に、やや光の弱まった魔法が漂っていた。
「凄い威力……」
《凄すぎるわよ! こんなに凄いなんて思わなかったわよ!!》
「凄すぎですよ! こんなに凄いなんて思いませんでした!!」
声を揃えて驚くトレミィとジェルミーナ。一方のリゲルは冷静に魔法の様子を観察している。
「やはり消えないな……魔導力の消耗は感じないか?」
「良く分からないけど、疲れたりはしないよ?」
「なるほど……一度発動してしまえば、魔導力の消費無しで使い続けられるということか。だとしたらこれは、相当な規格外だな」
「そうなの?」
「そりゃそうだろ?さっきの威力の魔法がずっと使えるんだぞ、明らかにヤバイだろこれは」
《確かに……本っ当にもうっ、流石は私の勇者よ! 自慢しちゃう!!》
(もう、誰に自慢するの?)
舞い上がるトレミィに表情を緩めるスピカ。
「でも、これはちょっと軽々しく使わない方が良いかもね、これも奥の手かな」
《そうね……威力もそうだけど、性能も高すぎるものね》
そんな会話をしていると、耳ざといリゲルがその話を聞きつける。
「おいちょっと待て、これも奥の手って言ったか? お前まさか他にも隠してる力があるじゃねえだろうな?」
「うぇ!? そんなことないよ?」
(しまった、口に出してた!)
《ちょっと、気を付けないとってこの間言ったでしょ!》
慌てて言いつくろうスピカ。そんなスピカを訝し気な目で見るリゲル。そしてうっとりとその様子を眺めているジェルミーナ。
騒がしい仲間に囲まれながら、魔法の使い方を習得したスピカ。
この日スピカは、自身の魔法に"星の魔法"と名前を付けたのだった。
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