40話:ジェルミーナの思い
※2019/10/13 表記方法を修正しました。
私の名はジェルミーナ
大陸西方部に位置する、邪神が支配しているとされる土地。そこにある小さな村で暮らしています。
エルフである私は、元々は大陸中央部にあるエルフの里に住んでいました。ですが、人間による亜人狩りで、里から攫われてしまったのです。
人間の街ではとても酷い目にあいましたが、兄であるジャンルーカが助けてくれて、その後人間達から逃げ延びた先で辿り着いた村。それが、今私が住んでいるこの村です。
ここは本当に素敵な村だと思います。
村には数多くの亜人達が住んでいますが、ここでは人間に迫害されることはありません。亜人達が亜人達の力で助け合いながら生きています。
私が村に住み始めて、二月が経とうとしています。
初めは、私を含め十人程度だった住人。それが、村の噂を聞きつけて、たくさんの亜人達が訪れる様になり、今では百人近い住人が暮らしています。
最初は何をするにも大変で、毎日を生きるのに精一杯でした。ですが、様々な種族、そして様々な職業の亜人達が住む様になり、それぞれが得意分野を活かして、村を良くしようと頑張ってくれています。
例えば、皆から姐さんと呼ばれているハーフリングのマイヤ様。彼女は縫製の仕事が得意で、他に縫製の技術を持った亜人達のリーダーを務めてくれています。村で使う布や衣服等は、全部彼女の指示で作られたものなのです。
とても起用で面倒見が良く、さっぱりとした性格で誰からも好かれる。そんな頼れるお姉さんです。
獣人のフェルナンド様は、戦いがとても得意なおじさまです。昔は軍人として、人間に従わされていたらしく、その時の経験を活かして狩猟に出る亜人達の隊長を務めてくれています。
特に獣人達から慕われているみたいですが、最近では魔法が使えるエルフ達も、フェルナンド様と一緒に狩りに出ているみたいです。
後、私の兄であるジャンルーカととても仲が良く、一緒に村のことを話し合っている姿をよく見かけます。男同士気が合うのでしょうか。
それから、ドワーフのオイゲン様。彼は土魔法が得意で、村中の家を綺麗に直してくれた方です。また、必要な物があればあっという間に作ってくれる、まさに親方です。
ちょっと見た目は怖いですが、実は奥様のベッティーナ様をとても大事にしています。ぶっきらぼうだけど、皆が困っていないかさりげなく気遣ってくれる、凄く優しい方だと思います。
後は、最近来たばかりのリゲル、あいつはとても生意気で嫌いです。
そして、私の兄ジャンルーカ。
お兄様はこの村のリーダーを任されています。亜人達をまとめ上げ、一生懸命頑張ってきた姿が、他の亜人達からも認められたのだと思います。そのことを私はとても誇らしく思います。
お兄様や亜人達の頑張りのおかげで、たった二月ですが、とても住みやすくて良い村になりました。こんな風に、亜人達が協力し合いながら生きていることが、私はたまらなく嬉しいのです。
もちろん大変なことも沢山あります。死にそうな目にあったことだってありました。それでも、人間から干渉されることなく、自立して生きていけるこの村が、私は大好きです。
この村を守るために、私は私のできることを精一杯やろうと思います。
戦う力はないですが、この村を守るために。
人間達から守るために。
人間といえば、この村には一人だけ人間が住んでいます。
といっても、私達を迫害していた様な酷い人間ではなく、とても素晴らしく素敵で格好良い最高な方です。
お名前はスピカ様。
勇者らしいのですが、本当にスピカ様は勇者なのでしょうか? 私に酷いことをした人間も勇者だと言っていたですが、スピカ様とは天と地ほどもかけ離れています。
もしかしたらスピカ様のような方こそ、本当の勇者様なのかもしれません。
初めて出会った時、私達はスピカ様に対して危害を加えようとしてしまいました。それでも、私たちを受け入れてくれて、私達を追ってきた人間を撃退までしてくれました。
ですがその後、もっと強い勇者が村を襲ってきて、スピカ様は大怪我を負ってしまいました。ボロボロになったスピカ様を見た時は、本当に心臓が止まるかと思いました。
その怪我を治すため、リゲルが用意したエリクサーを飲ませることになりました。ですが、自力で飲む力も残っていなかったスピカ様。そんなスピカ様を救うため、私は口移しでエリクサーを飲ませることにしたのです。
リスクがあると言われましたが、スピカ様を救うためなら関係ないと思いました。初めての口付けはすごくドキドキしましたが、初めてのお相手がスピカ様で良かったと思います。
リゲルのことは嫌いですが、これに関してはとてもナイスでした。
その後、反撃に出たスピカ様は、あっという間に勇者達を倒してしまいました。最後には勇者達を魔物の餌にしてしまうという、ちょっと怖い場面も見てしまいました。ですが、星空の中で光り輝きながら、さっそうと私を助けてくれたあの姿は、今思い出してもドキドキしてしまいます。
最近は一緒に暮らしてくれる様になったスピカ様。名前を呼ぶ時も、愛称のジェルミと呼んでくれます。
毎晩寝る時はそわそわして眠れません。一緒にいると良い臭いがしてきて、抱き着くとフワフワして、どうしようもない気持ちになってしまいます。
今は毎日がとっても幸せです。リゲルが邪魔ですが、それでも毎日がとってもとっても幸せです。
私は……私はきっと、スピカ様のことが好きなのだと思います。
お友達とかそういうのではなく、もっと深い意味で好きなのだと思います。
ですが、スピカ様はきっと、私のことはそんなに好いてくれてはいない気がしています。
もちろん嫌われてはいないと思います。ですが、一定以上の感情は抱いてはくれていない。
とても素敵で格好良いスピカ様。ですが、とても冷たくて危ういスピカ様。
きっと、スピカ様にとって私達は、皆等しくただ同じ村で暮らしている亜人という認識なのだと思います。
一緒に暮らす仲間として、守るべき対象としては認識してくれてはいますが、それ以上の特別な感情は持ってくれてはいないと思うのです。
もしかしたら、自分にとって不都合が起きれば、あっさり切り捨てられてしまうかもしれない。そんな気さえすることがあります。
自分にも他人にも大して執着していない。だからいつもサッパリとしていて、格好良いと感じるのかもしれません。
そんなスピカ様ですが、実は大切にしているものがあるらしいのです。
それが何かは分かりません。ですが、普段の表情や行動を見ていると、その何かはスピカ様にとって、かけがえのないものなのだと想像がつきます。
時折見せる心からの笑顔や、優しい表情を見ると、その何かはスピカ様にとってよほど大切なのだと。
そして、スピカ様の中では、その大切な何かとそれ以外とで、明確に線引きがされているのだと思います。
私も、それ以外に含まれるただのエルフの一人です。ですが、今はそれでも良いと思っています。
いつか私のことを大切に思ってもらいたい。
いつかそう思わせて見せる。
私は一人そう誓うのでした。
ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。
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