表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/94

39話:錬金術師と素材探索 ~帰還の夜~

※2019/10/13 表記方法を修正しました。

「はぁ……スピカ様……」


 亜人達の住む村。その中心に位置する広場では、ジェルミーナが深いため息をついていた。


 寂しげな瞳で星空を眺めるその姿は、恋する乙女そのものである。


「スピカ様が旅立たれて一週間……そろそろスピカ様成分を補充しないと、どうにかなってしまいそうですぅ……早く帰ってきてください、スピカ様……」


 潤んだ瞳で夜空の彼方を見つめるジェルミーナ。そんなジェルミーナを、別の意味の潤んだ瞳で見つめる男がいた。ジェルミーナの兄、ジャンルーカである。


「うぅ……私の……私の妹は一体どうしてしまっているのだ……」


 儚げな様子の妹を見ながら、儚げな声を漏らす兄。


「おい! ジャンルーカ! しっかりしろ!!」


 そんなジャンルーカの肩を必死に揺らすフェルナンド。しかし、ジャンルーカは虚ろな瞳で、妹ジェルミーナを見つめ続けている。


「はは……妹は……誰か想い人でもいるのかな……どんな男なのだろうかな……はは……」


「ジャンルーカ……アンタの妹が想っている相手は、男じゃないんだよ……」


 諭す様な口調で声を掛けるのはマイヤだ。しかし、ジャンルーカは乾いた笑い声を漏らし続ける。


「ははは……そんな訳はないだろう? だってジェルミは女の子なんだから……」


「ジャンルーカ! 現実を見ろ! この一週間ジェルミーナの様子を見ていただろう? あれはもう完全にスピカに陶酔している、お前の妹は女が好――」


「やめろフェルナンド! やめてくれっ、私は……私はいつか甥っ子か姪っ子の顔が見たいんだっ……」


「諦めなジャンルーカ、甥っ子も姪っ子も望み薄だよ……」


「うぅぅ……」


 地面に手を突き項垂れるジャンルーカ。


 スピカ達が村を出て一週間。その間、周りから見ても明らかな程、日に日にスピカへの愛を溢れさせていたジェルミーナ。その姿を見て、妹が同性に好意を寄せているという現実を受け止めきれずに過ごしてきたジャンルーカ。


「ジャンルーカ、ちゃんと応援してあげるんだよ……」


「……うぅ……でも甥っ子が……姪っ子が……」


 慰めの雰囲気に包まれる広場。そこへ、遠くから不穏な叫び声が聞こえてくる。


「――――――てー……」


「何だ? 今何か声が……」


 きょろきょろと辺りを見回す亜人達。すると、広場の片隅で憂いを帯びていたジェルミーナが、ガバッと顔を上げる。


「今の声は、まさか!?」


「――――けーてー……」


 再び聞こえる叫び声。その声に、ジェルミーナの表情がパァッと明るくなる。


「やっぱり! この声はスピカ様のものです!」


 そう言うと、村の入り口に向かって駆け出すジェルミーナ。その様子を見て、慌てて追いかけるジャンルーカとフェルナンド。


「さっきの声はスピカだったのか」


「ジェルミ、お前はスピカ殿の声はすぐに分かるんだな……」


「こらっ、いつまでも落ち込んでるんじゃないよ!」


 追い付いてきたマイヤに、バシッと背中を叩かれるジャンルーカ。


「そうだ、そうだな! スピカ殿もこの村の仲間だ、まずは無事に帰ってきたことを喜ぼう!」


 そう言って顔を上げるジャンルーカ。そのまま村の入り口へ辿り着くと、集まってくる亜人達をかき分け、村の正面に出る。声のする方角を見ると、夜の闇に覆われた地平線に、土埃が舞っているのが見える。


「何だ……?」


「おいおい……冗談だろ!?」


 怪訝な表情を浮かべる亜人達。しかし、一早くその正体に気付いたフェルナンドだけは、顔を青ざめさせている。


「たーすーけーてー!!」


 土埃の先頭。星の力を身にまとい、光り輝きながら一心不乱に走るスピカ。その背には、大きなリュックとリゲルをまとめて背負っている。


 そしてその後ろには、息を巻くレイジボアが二十頭ほどの群れを成して、土埃を上げながらスピカ達を追いかけてきていた。


「おい、もっと早く走れ! 追い付かれるぞ!!」


「全力で走ってるよ!」


《なによ偉そうに! そもそもこいつが原因でしょ!!》


 ギャーギャーと声を上げながら走るスピカ達。


 岩山からの帰路の最中、偶然レイジボアの群れを見つけたスピカとリゲル。ゴーレムを倒し意気揚々としていたリゲルは、調子に乗って実験と称し、怪しげな薬(リゲル曰く、魔物を従属させる薬)をレイジボアの群れに向かって撒いたのだ。


 結果、何の効果もなく。むしろ興奮状態となったレイジボアの群れに追いかけられることとなったのだ。


 そうして逃げ回るうちに夜になり、星の力を発動したスピカ。バラバラに走って逃げるより、リゲルごと抱えて自分が走る方が一番早いと判断し、今の状況が出来上がったという訳だ。


「あ! 皆だ、おーい、帰ったよー!」


 嬉しそうに手を振るスピカ。しかし、亜人達は大慌てだ。


「スピカ様! 会いたかったです、ずっと寂しかったです!!」


「ジェルミ、今はそれどころではない! あの魔物の群れが見えないのか?」


「おいバカ! 帰って来るなら、そのレイジボアを何とかしてから帰って来い!」


「皆早く村の奥まで逃げな! ここは危険だよ!」


 マイペースなジェルミーナ。そんなジェルミーナに頭を抱えるジャンルーカ。怒声を上げるフェルナンド。そして、村人を逃がすマイヤ。もはや大混乱である。


 そうしている間に、村の手前まで辿り着いたスピカ。放り投げる様にリゲルを下ろすと、素早く振り返る。


「痛ってえ! もうちょっと優しく下ろせ!!」


《ふんっ、アンタなんかそれで充分よ!》


「ゴメン! さっさと終わらせるから」


 片手で詫びるポーズを取ると、おもむろに左手をかざすスピカ。手先に集中し魔法を放つと、素早く手を動かしながら魔法を操る。


 十分な威力を持って、次々とレイジボアを吹き飛ばしていく魔法。その光景に亜人達から驚きの声が上がる。


「なっ なんだいあれ!?」


「魔法……なのか?」


 驚く亜人達を尻目に、自身も剣を引き抜き戦闘に参加するスピカ。巧みに魔法を操りながら、レイジボアの間を駆け回り、次々と切り倒していく。


「ほお……流石だな……」


「スピカ様、魔法が使える様になったのですね? 素敵です!」


 感嘆の声を上げるフェルナンド。ジェルミーナは目をキラキラと輝かせながらスピカを見ている。あっという間に最後の一体となったレイジボアを、一刀両断に切り伏せるスピカ。


「よしっ、終わり!」


《カッコ良いわ! カッコ良すぎるわよスピカ!! あーんもうっ、流石は私の勇者ね!!》


(ふふっ、魔法を使うのって楽しいね!)


 楽しそうに笑みを浮かべながら、魔法を飛ばして回るスピカ。そこへ、怒り心頭のジャンルーカが詰め寄る。


「スピカ殿! 帰って来るにしても、魔物を引き連れて来るとはどういうことだ!? 村に被害が出ていた可能性もあるんだぞ!!」


 にじり寄るジャンルーカに、苦笑いを浮かべるスピカ。


「あはは……ゴメンゴメン、でも魔物達はリゲルのせいだよ?」


「おい! そもそもお前がもっと早く戦ってれば良かっただけだろ!」


「はっ、そう言われれば……逃げるのに必死で気付かなかった……」


《ちょっと! 納得してないで、そもそもこいつが原因なんだから!!》


 ポンと手を叩き一人頷くスピカ。一方のリゲルは、息を巻くジャンルーカに捕まっていた。


「リゲル殿! どういうことか説明してもらおうか!?」


「何でもねえよ、もう良いだろ?」


「そういう訳にはいくか!!」


「おい! 疲れてるんだ、勘弁してくれ!!」


《はーんっ、いい気味よ!》


 声を上げながら引きずられていくリゲル。そんなリゲルを冷めた目で見つめていたスピカ。そこへ、顔を赤くしたジェルミーナが小走りで駆け寄って来る。


「ジェルミ!」


「スピカ様……」


 一瞬恥ずかしそうに俯くが、すぐに顔を上げニッコリと微笑む。


「おかえりなさい! スピカ様!!」


「うん、ただいまジェルミ!」


 こうして、素材探索の旅から無事帰還したスピカ達。


 帰還して早々、慌ただしくも賑々しい、そんな夜の出来事だった。

ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。


また、ブックマークやpt評価、感想も是非によろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ