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38話:錬金術師と素材探索 ~魔法の片鱗~

※2019/10/13 表記方法を修正しました。

「リゲルー!!」


 リゲルの背後から迫るゴーレムの巨腕。スローモーションの様にその光景をとらえながら、とっさに左手を伸ばすスピカ。


 次の瞬間、左手の先から眩い光が放たれる。


「えっ?」


《なに!?》


 スピカとトレミィ、二人同時に驚きの声を上げる。閃光のごとき光を放つ左手。その手の平から、輝く光の塊が飛び出していた。


 まるで、スピカから放たれている光の粒子が結晶化したかの様なその塊は、光の尾を引きながら、一直線にゴーレムの元まで飛んでいく。


 流星の様に、目にも止まらぬ速度でゴーレムの元までたどり着いた光の塊。そのままの勢いで、振り払われるゴーレムの巨腕に衝突すると、一際大きな光を周囲に放つ。


「ゴッ、ゴオォォ!?」


 無機質な唸り声を上げるゴーレム。リゲルを押し潰すべく振り払われた巨腕は、光の塊と衝突すると、その勢いに押されて大きく弾き返される。


「おいおい、マジかっ!?」


 その威力に驚きつつも、素早くその場から脱出するリゲル。ゴーレムの腕を弾いた光の塊は、消滅することなく周囲を旋回すると、フワフワとスピカの元へ戻って来る。


「良かった、リゲル無事だった!」


「悪かったな、助かった」


「ううん、それにしても……なんだろうこれ?」


《これって、もしかして……》


 首をかしげるスピカに、リゲルが詰め寄る様に声を上げる。


「スピカ、お前魔法が使えるのにどうして黙ってた?」


「魔法?」


《魔法! やっぱりこれは魔法よ!!》


「これって魔法なの?」


 スピカのそばでフワフワと漂う光の塊。それを見ながら、ポカンとした様子で呟くスピカ。そんなスピカを見て、リゲルも怪訝な表情を浮かべる。


「お前……もしかして、今初めて魔法を使ったのか?」


「うん……」


「マジか……」


 小さく頷きながら、魔法の光に触れようと手を動かすスピカ。すると、その動きに合わせる様に、光の塊も宙を移動する。


 目を輝かせながら、指揮を執る様に宙をなぞるスピカの手。動きに合わせて、線を描く様に飛び回る光の塊。


「凄いっ、見て見て! 私にも魔法が使えてるよ!!」


「変わった魔法だな……属性も良く分からねえし、初めて見るタイプだ」


《凄い、けど……どうして急に》


 無邪気にはしゃぐスピカを他所に、考えを巡らせるトレミィとリゲル。そんな中、ふとトレミィがある可能性に至る。


《ちょっと待って……まさか……》


(ん?)


《スピカ! もしかしたらあの薬かも!》


「あ! そうだ、あの薬だ!」


 手を叩き声を上げるスピカ。その言葉を聞き、今度はリゲルが驚きの声を上げる。


「おいおいマジか? あの薬マジで効いたのか!?」


「え? どうしてリゲルまで驚くの?」


「いや……ホントに効くとは思ってなかったからな」


「《えぇ!?》」


 リゲルの発言に声を揃えて驚くスピカとトレミィ。ばつが悪そうな表情のリゲルは、わたわたと手を動かしながら弁解する。


「いやいや、古い資料を見ながら一応ちゃんと作ったんだぜ?」


「一応?」


《怪しいわね……》


「あー……ただまあ、素材は足りなかったから結構アレンジしたのと、資料が欠けてた部分は勘で補ったのと、臨床実験はすっ飛ばしたのと、まあそんな感じだ……」


《はぁ!? そんなものをスピカに飲ませたの? こいつやっぱり信用ならないわよ!!》


「じゃあやっぱり、お腹が痛くなったのは薬のせいだったんだよ!!」


「それは生水のせいだろ!!」


「ゴオオォォ!!」


「「《!!》」」


 やいのやいのと言い争っていた二人と、文句を言い散らしていたトレミィだったが、大きな唸り声を聞き、緊張感を取り戻す。


 洞窟の方へ眼を向けると、周囲の岩盤を砕きながらゴーレムが這い出して来るところだった。


 リゲルの錬金術によって地面に固定されていた足は、周囲の地面ごと強引に引き抜かれている。バランスの悪い片足を引きずる様にしながら、怒り狂った様子で声を上げ続けるゴーレム。


《話は後で、今はあいつよ》


「うん! あいつをまずは倒す!」


 先程までとは打って変わり、鋭い表情で剣を構え戦闘態勢に入るスピカ。それに呼応する様に、光を増すスピカの魔法。


(そうだ、この魔法を使えば……)


 魔法に意識を集中させ、左手を振るい攻撃を念じるスピカ。指示に従い飛び出した魔法は、一直線にゴーレムを目掛けて突撃していく。


(思い通りに動かせる! これで遠くからでも攻撃が出来る!!)


《凄い凄い! カッコいいわ!!》


 凄まじい速度で発射されたスピカの魔法。迎え撃つゴーレムは閉じる様に両腕を構え防御の姿勢を取る。さすがの耐久力で魔法を弾き返してしまうが、消滅することなく宙を舞い続ける魔法は、スピカの手の動きに合わせ、繰り返しゴーレムに襲い掛かる。


「スピカ、あの魔法はお前の思い通りに動かせるんだな?」


「うん!」


「ならお前は、あの魔法を使ってゴーレムの注意を引いておけ、俺がとどめを刺す」


「リゲルが?」


「あの魔法でも、スピカの剣でも奴を完全に壊すのは難しいだろう? だが、俺の錬金術なら致命傷を与えることができる」


 自信あり気に両の拳を合わせ、ポキポキと指を鳴らすリゲル。


「だがそのためには、直接奴に触れる必要がある、その隙を作れ」


「分かった、任せて!」


 言いながら一気に駆け出すスピカ。ゴーレムの周りを縦横無尽に駆け回り、魔法を操りながら、自身もゴーレムに攻撃を加えていく。


《やっぱりスピカは凄いわ……初めての魔法をここまで上手く操れるなんて、それに自分も攻撃に参加してるし、戦闘に関しては本当に天才的ね》


 トレミィが感心して見守る中、ゴーレムの正面で注意を引くスピカ。その隙を突く様に魔法を操り、背後から攻撃を仕掛ける。ゴーレムが魔法に気を取られだすと、魔法を囮にし、自ら関節を狙う様に切りかかる。


 初めての魔法戦闘とは思えないほどの正確さで、手足の様に魔法を操り、見事な立ち回りを見せるスピカ。


 スピカが大立ち回りが繰り広げ始めて、何度目かの攻撃が直撃する。すると、流石のゴーレムもダメージが蓄積したのか、膝をついてその場に崩れ落ちる。


「ゴ……ゴォ……」


「リゲル、今!」


「任せろ!」


 スピカの合図にあわせ、ゴーレムの背後を取る様に駆け寄るリゲル。その動きを察知したゴーレムは、振り返る動作で腕を払うが。


「させない!」


 その腕を狙い、スピカの魔法が放たれる。


 勢いの乗った魔法と巨腕が、激しい音を立ててぶつかり合う。その衝撃に、今まで形を保っていた魔法が粉々に弾け飛ぶが、ゴーレムの腕も中ほどから砕け散っていた。


 その間に足元までたどり着くリゲル。小さく息を吐くと、無機質なゴーレムの体表に両手を当て、錬金術を発動する。


「終わりだ!」


 声と同時に、コートの表面がこれまでにないほどの強い光を放つ。目まぐるしく変化する錬成陣。リゲルの両手を伝い、ゴーレムの全身に錬金術の力が広がっていく。


「ゴッ!? ゴゴオオオオォォォォ!!!?」


 唸り声を上げるゴーレム。その全身がうっすらと光ると、灰色をしていた表面が徐々に白く変色していく。その目に宿っていた光が消えると、次第に動きを鈍くし、最後には完全に動かなくなる。


「やった……? やった!」


《凄いわ! 本当に錬金術で倒しちゃうなんて!!》


 歓声を上げるスピカとトレミィ。腕を大きく広げ、リゲルに駆け寄ったところで、足元をふらつかせたリゲルがスピカにもたれかかってくる。


「リゲル!?」


 慌てて抱きかかえるスピカ。青い顔をしたリゲルは、しかし満足そうな表情で頷く。


「おお、悪いな……魔導力を消費しすぎた」


 支えられながら起き上がると、目の前で動かなくなったゴーレムの体を殴りつける。すると、殴った個所から全身に亀裂が入り、次の瞬間には灰になって崩れ去ってしまった。


「凄い……凄いよリゲル!」


「あぁ……まあ、中々良い連携だったな、お前も凄かったぞ」


「!?」


《嘘!?》


 リゲルの言葉に目を丸くするスピカ。次第にその表情がにんまりと緩んでいく。


「リゲルがデレたー!!」


《ツンデレだわ!!》


 そう言うと、興奮して勢いよく抱き着くスピカ、グイグイと押し付けられる柔らかな胸に、苦しそうな声を上げるリゲル。


「ぐっ、おい離れろ! 苦しいわボケが!」


《ちょっとスピカ! 早く離れて、色々当たっちゃってるから!》


「ああっ、ゴメン!」


 慌ててリゲルから体を離すスピカ、その勢いで地面に放り出されるリゲル。


「わあぁっ、ホントにゴメン!!」


「痛ってえな……それよりスピカ、あれ回収しておけ」


 リゲルの指差す先。そこには、白銅色をした直径十五センチほどの球体が、灰になったゴーレムの残骸の中ポツンと転がっていた。


「何これ?」


「ゴーレムの核だ、色々使えるから回収しておけ」


《これは……ずいぶん大きな核ね、本当に、良く勝てたわね!》


(リゲルのおかげだね!)


《う……まあそうね……》


「おい、気持ち悪い顔で俺を見るな!」


 ニコニコと笑顔を浮かべるスピカ。


 悪態をつきながらも、満更でもなさそうなリゲル。


 こうして、波乱に満ちた素材探索は終わりに向かうのだった。

ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。


また、ブックマークやpt評価、感想も是非によろしくお願いします。

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