37話:錬金術師と素材探索 ~VSゴーレム~
※2019/10/13 表記方法を修正しました。
《ゴーレムって……珍しい上に危険な魔物なのに、なんでこんなところに!?》
(そうなの?)
《ええ、繁殖をしないから数はあまり多くないのよ、でもその代わり一体一体がとても強力な魔物なのよ》
(本当に何でこんなところに……)
「スピカ! 呆けてる場合か!」
「ゴオオオオォォォォッ!!!!」
轟く叫び声を聞き、意識をゴーレムに向けるスピカ。すると、先ほどまでじっとしていたゴーレムが、ゆっくりと動き出すところだった。
夜の光に照らされながら、巨大な腕を振り上げるゴーレム。うつろな目で二人を見据えたかと思うと、窪地の斜面を転がる様に勢いよく迫って来る。
「リゲル、下がってて!」
素早い動きでリゲルの前に立つスピカ。腰を捻る様に剣を引き抜くと、その刀身に光を纏わせながら、一気に振り抜く。
目にも止まらぬ速度で振り抜かれたスピカの剣。その軌跡をなぞる様にして、光の刃が宙を舞う。勇者クライヴ達との戦闘で見せた光の斬撃だ。
一直線にゴーレムを目掛け飛んでいく光の刃。斜面を下るゴーレムは、その勢いが仇となり、躱すことも出来ずに正面からぶつかる。しかし――
バチイィッ!!
「ゴッ!」
《嘘!?》
「うわぁ、硬い!」
身をかがめ、体当たりの様な姿勢で光の刃に衝突すると、あっけなく光の刃を弾き飛ばしてしまうゴーレム。岩石質の表面には傷一つない。
「まだ来るぞ!」
勢いに乗ってスピカ達の眼前まで迫るゴーレム。ズシンッと重量感のある音を響かせ、体制を整えると、巨大な腕を振り上げる。
「ゴオッ!!」
地面をえぐる様にスイングされた巨腕。圧倒的な破壊力の籠ったその拳は、岩山の表面を軽々とえぐり取り、削り取られた岩石は、散弾銃の様にスピカ達を襲う。
《危ない!》
「リゲル、そこから動かないで!」
リゲルを守る様に立ち塞がるスピカ。連続で回し蹴りを放ち、飛んでくる岩石を蹴りの風圧で吹き飛ばす。
「つぅっ、ちょっときつい……かもっ」
回転する様に蹴りを放ち、岩石を蹴り飛ばしていたスピカだったが、絶え間なく襲い来る岩石の物量に押されて、リゲルを巻き込みながら洞窟の奥まで転がり落ちてしまう。
「痛ってぇ! おい、ちゃんと守れよ!」
「うん、ごめん!」
《スピカっ、まずいわ!》
暗がりの中声を上げるトレミィ。その声にハッとして自分の体を確認するスピカ。その体からは、先ほどまで溢れていた光の粒子が出ていなかった。星空の下から洞窟内に押し戻され、星の力が途切れてしまったのだ。
「しまった、入り口は……」
入り口の方へ目を向けるスピカ。しかし、その出入り口を塞ぐ様に、ゴーレムが立ち塞がる。
「あぁぁっ、リゲルどうしよう? 外じゃないとあんなの歯が立たないよ!?」
「あぁ!? 肝心な時に使えねぇ!!」
《きゅっ、来るわよ来るわ! 早く何とかして!!》
素っ頓狂なトレミィの声で、再び洞窟の入り口に視線を向ける。すると、ゆっくりと洞窟を下って来るゴーレムの姿が。
「どどどっ、どうしようリゲル?」
《ヤバイヤバイヤバイじゃない!!》
「ああもう! 俺が何とかするから、防御は任せたぞ!」
イライラとした声でそう言うと、片手を地面にあてるリゲル。うっすらとコートを光らせながら、何かに集中する様に目をつぶる。
「なるほど……単純な岩石だな、鉱物も混じってるみてえだから正確には鉱石か……これなら問題なくいけるな……」
小さく呟いたかと思うと、狙いを定める様に鋭い視線を前方に向ける。そのまま視線は動かさず声だけでスピカに指示を伝える。
「三秒後にあいつの動きを止める、その隙に一気に走り抜けろ! 外に出てしまえばあいつに勝てるんだろ?」
「もちろん、分かった!」
《動きを止めるって、そんな簡単に……》
「いち……にの……」
静かにカウントを告げるリゲル、そして。
「さん! 今だ!!」
合図と同時にリゲルのコートが激しく明滅する。細かな刺繍の上を目まぐるしく光が駆け巡り、様々な模様を描き出す。直後、リゲルの手を伝い、見えない何かが地面を走り抜けた。
ボゴォッ!!
「ゴッ……ゴゴオ!?」
ゴーレムが左足を着いた瞬間、その足が勢いよく地面を踏み抜く。膝の上辺りまですっぽりと地面に埋まってしまい、突然の事態に腕を振り回し、暴れ狂うゴーレム。
「凄い! 何これ!?」
「喋ってないで走れ!」
錬金術により、洞窟内の組成を分析したリゲルは、ゴーレムの足元を狙い性質と状態変化の錬金術を発動したのだ。硬い岩盤を脆くし、液状に変化させた上に水硬性を持たせた。つまり、セメント状の落とし穴を仕掛けたのである。
宣言通り見事ゴーレムの動きを封じたリゲル。その隙をついて一気に駆け抜ける二人。暴れるゴーレムの腕が二人に迫るが、闇雲に振り回されただけの攻撃は簡単に躱してしまう。
「外だ!」
《やったわ!》
壁を駆ける様にしながら外に飛び出したスピカ。夜空の下で星の力を取り戻すと、全身から光の粒子を放つ。
「力が戻った! リゲルは……」
剣を引き抜きながら振り返るスピカ、その目が驚きに見開かれる。
「リゲル!?」
スピカの視線の先、リゲルはゴーレムの間近で足を止めて、何かを抱えていたのだ。
「リゲル! 何やってるの!!」
「くそっ」
悪態をつくリゲルが大事そうに抱えているもの。それは、先程リュックにしまったはずの、採取した素材を入れた袋だった。無理やりリュックに押し込んだため、ゴーレムの横を通り過ぎる際に零れ落ちたのだろう。
「リゲルッ、早く逃げて!」
《あのバカ! あんなのほっといて早く逃げなさいよ!!》
「捨てていけるかよっ」
素早く袋を拾うと、再び走り出すリゲル。しかし、その背後からゴーレムの巨腕が迫る。洞窟の壁面を削りながら、恐るべき速度で振り払われる巨大な拳。
《まずいわ!》
「後ろ!」
スピカの声に振り向くリゲル。しかし、眼前に迫る巨大な拳は、もはや躱すことも出来ない距離である。
「ちくしょうっ」
かばう様に腕を交差させる。その腕ごと叩き潰すべく、迫る巨大な拳。
「リゲルー!!」
声を張り上げながら、とっさに手を伸ばすスピカ。
次の瞬間、スピカの手から眩い光がほとばしった。
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