34話:錬金術師と素材探索 ~出発の朝~
※2019/10/18 表記方法を修正しました。
まだ日も昇りきっていない早朝。
亜人達が住む村のはずれ、スピカの家では朝から騒がしい声が響いていた。
「よし! 行くぞスピカ!!」
「おはよう、今日も良い天気だね!」
「朝ご飯が出来ましたよ、スピカ様!」
《あんた達、全然会話が噛み合ってないわよ……》
スピカとジェルミーナ、そしてリゲルがこの家に住み始めておよそ一月。恒例となっている一緒の朝食だが、この日はいつもと少し様子が違った。
寝間着姿のまま寝室から出てくるスピカ。すでに目を覚まし、朝食の用意を済ませているジェルミー。ここまでは普段通りだが、大抵昼近くまで寝ているリゲルが、早朝にもかかわらず意気揚々と大荷物をまとめている。
「遅いぞスピカ! 今日は朝から出発するって言ったろ?」
「うん? 何だっけ……、今日って何かあったかな?」
「スピカ様、ご飯が冷めてしまいますので早く食べましょう?」
「ちょっと黙ってろ、今はこっちが話してんだよ」
「何ですって! 大体なんですかこれは? 朝からそんな大荷物を、非常識です!」
この一月、何かと張り合っているリゲルとジェルミーナ。この日も朝からバチバチと火花を散らせているが、スピカは気にする風もなく、ジェルミーナの用意してくれた朝食に目を輝かせている。
「わ! 美味しそう~、これは昨日隊長が持ってきてくれたお肉かな?」
「おいスピカ! お前も話聞いてんのか?」
「朝食にお肉、少し重たいかと思いましたが入れて良かったです、フェルナンド様に感謝です……」
《ちょっと! いい加減まともに会話をしなさいよ!》
三者三様、それぞれマイペースに言いたいことを言い続けていた三人だが、お腹を空かせたスピカが食卓に着いたのを見て、とりあえず同じ様に席に座るジェルミーナとリゲル。
「お腹が空いたから、とりあえずご飯を食べよう?」
「はぁ……そうだな、そうするか」
「あら、リゲルも食べるのですか? 朝からどこかに行くのでしょう? さっさと一人で行ってきたら良いのに」
「あ? 誰も食わねえとは言ってないだろ! ケンカ売ってんのかお前?」
「ケンカだなんて、そんな野蛮なことはしません、一緒にしないで下さい」
「ほらほら、早く食べようよ」
そう言って手を合わせるスピカ。睨み合いながらも、それにならう二人。
「それじゃあ」
「「「いただきます」」」
《ご飯の時はちゃんと揃うのね、あなた達……》
呆れ声を上げるトレミィ。こうして、スピカ達の騒がしい一日が幕を開けるのだった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「ところでリゲル、今日はどこに行くの?」
朝食を食べながら疑問を口にするスピカ。その様子にリゲルは怒りの声を上げる。
「は!? 錬金術の素材を探しに行くって昨日言ったろ!」
「何ですかそれは? スピカ様が行くなら私もご一緒します」
「却下だ、邪魔だ」
「なっ、邪魔だなんて!」
食べる手は止め、言い争うジェルミーナとリゲル。一方のスピカは口を動かしながら記憶を辿っていた。
「リゲル、私昨日そんなこと言われた記憶がないんだけど、いつ言われたんだろう?」
「私も昨日はずっとスピカ様といましたが、リゲルはそんなこと言ってませんでした」
《そうねぇ、私も聞いた覚えがないけど……あ! もしかして……》
(あれ? もしかしてトレミィは知ってる?)
一人心当たりのある風なトレミィにスピカが訪ねているその間、ジェルミーナとリゲルはどんどんと話を進めていく。
「ちゃんと言ったろ? 昨日の夜中だ、朝準備しとけって言ったぞ」
「ちょっと! 夜中って、それ私達が寝てる時間ではないのですか?」
「ドアは開けてないから知らねえが、とりあえず俺は確実に言った」
《やっぱり! 夜中にドアの向こうからゴニョゴニョ声が聞こえたのよ、でもあんなの分かる訳ないじゃない》
「私達に伝わってなければ意味が無いでしょう!? そんなことも分からないのですか?」
《ごもっとも!》
言い争うジェルミーナとリゲル、それに同調するトレミィ。そんな二人(と一柱)を置いてさっさと食事を済ませたスピカは、一人寝室に戻ると寝間着から冒険服に着替える。
「よし! 準備完了、リゲルお待たせ~」
「え? スピカ様、本当に今から行くのですか? 準備も何もしていないのに……」
「準備はこっちでしておいた、じゃあ出発するか」
「ちょっ、ちょっと待って下さい! 私も連れて行って下さい」
慌てた様子のジェルミーナが口を開くが、スピカとリゲル、二人から同時に待ったの声が上がる。
「却下だって、さっき言ったろ」
「ダメ、ジェルミはお留守番だよ」
「どうして……どうしてですか!?」
なおも食い下がるジェルミーナ。しかし、スピカはそんなジェルミーナの主張をバッサリと切り捨てる。
「危険な所に行く可能性もあるから、ジェルミを守り切れないよ。だからお留守番だよ」
《あら、意外とはっきり言うわねスピカ……》
「おぉ……スピカ、お前意外とズバズバ物を言うよな……」
意外そうに目を丸くするリゲル。ジェルミーナは悲しそうに顔を伏せている。
「私は……私は足手まといということですね……」
「うん」
「っ!!」
《ちょっと! もうちょっとやんわり言ってあげなさいよ!》
(そうかな? はっきり言ってあげた方が良いと思うけど……)
はっきりと言い切ったスピカの言葉に、ますます表情を曇らせるジェルミーナ。
「……わかりました……」
「うん、ジェルミはお家で待っててね」
落ち込むジェルミーナを撫でながら、スピカはふとある思いを口にする。
「なんだか、お家で待ってくれてる家族がいるって、すごく良いね」
「かぞっ、家族!!」
ガバッと顔を上げるジェルミーナ、その表情は先程までとは打って変わって明るいものとなっていた。
「家族っ、私はもうスピカ様の家族なのですね! 家族として家で帰りを待つ私、それはつまり……実質的には……おっ、奥さん的なことなのでは……!?」
嬉しそうな顔で一人ボソボソと呟き続けるジェルミーナ。その様子に首をかしげながらも、笑顔のまま挨拶を交わすスピカ。
「それじゃあジェルミ、行ってくるからお家は任せるね」
「はぃ……お任せ下さいぃ……」
顔を赤くしながら、小さく頷くジェルミーナ。そんなジェルミーナを見て、呆れた声を上げるリゲル。
「はぁ……お前、ある意味幸せ者だな……」
「ところでリゲル、どこに行くの?」
行き先を尋ねるスピカに、地図を出しながら答えるリゲル。
「ここだ、北に行った山の先だな、地形から珍しい鉱石が見つかりそうだし、地図によると昔の坑道があるっぽい」
「へー、よくこんな地図持ってたね?」
「いや? これはスピカのだぞ」
「私の?」
「お前の荷物から見つけたからお前のだろ?」
「え?」
「ん?」
「「んん~??」」
疑問の声を上げる両者だが、トレミィが思い出したように大きな声を上げる。
《……あ! そう言われればこれ、出会った日にスピカ見せてもらったものよ!》
「ああ! アランに貰った地図だ、そうすると私のだね。でもこれって使えるのかな?」
「ああ、瘴気の発生とかはデタラメっぽいが、地形は正しく記載されているようだ。」
「じゃあ目的地もわかったし、そろそろ行く? プルートは村の警備に置いて行くから、今回は二人だけ」
「おし、さっさと行くぞ」
「行ってらっしゃいませ! スピカ様!」
「うん! それじゃあ出発!!」
《何事もなければ良いけど……》
手を振りながら、素材探索に出発するスピカとリゲル。
しかし、勇者の件といい何かとトラブルを引き寄せるスピカに、やや常識が抜け落ちているリゲル。
そんな二人の探索が無事に終わるはずもなく、波乱の素材探索が幕を開ける。
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