31話:ポラリス正教会
※2019/10/18 表記方法を修正しました。
いつも読んで下さりありがとうございます。今回で初投稿から一ヶ月です。
これからも頑張ります、引き続きよろしくお願いします。
そして、今回また登場人物が多いので、後書きにざっくりと名前をまとめました。
追々詳しく書く予定ですが、とりあえず参考までにされて下さいませ。
東部正教会
正式名称"ポラリス正教会"
正神"クラウディオス"を唯一神とし、大陸東部を支配する五大国家全てで信仰されている、一大宗教組織である
その歴史は八百年前に遡る。正神によって神託を与えられた最初の勇者が教主となり、人間社会の繁栄と安寧を理念に掲げたのが始まりだ。
魔物や魔女といった人類の敵を妥当するための勇者という強大な戦力。また、戦士や魔法使い、僧侶等の、勇者を支える通称"教会員"。これらの戦力を有する正教会は、今や五大国家をしのぐ勢力として、大陸東部の支配者の座に君臨している。
その力を最も示す場所がここ、常陽の都サン・ポラーレである。ポラリス正教会総本山のある大陸東部で最も栄えた街だ。
一年中、朝も昼も夜も常に太陽の光に照らされるサン・ポラーレは、昼夜を問わず常陽の名にふさわしい賑わいを見ることができる。
街の中央には正教会総本山でもある巨大な白亜の聖堂、サン・ポラリス大聖堂が悠然とそびえ立つ。そこからなだらかな傾斜と共に円形に広がる街は、上層・中層・下層に分かれており、蜘蛛の巣上に広がる街道と水路によって区画を区切られている。
街に降り注ぐ太陽の光は魔物を寄せ付けない効果があり、街の外縁部では農業が盛んに行われている。
二等級勇者クライヴがスピカに敗北して一月。サン・ポラリス大聖堂、上層階に位置する一室は、物々しい雰囲気に包まれていた。
広い床には美しい大理石が敷き詰められており、その中央には円形の巨大なテーブルが設置されている。選ばれた者しか入室が許されないこの部屋には、窓は一切ない。
今この部屋には、テーブルを囲む様に椅子に腰かける十一人の人物と、出入り口に控える二人の神官だけが存在している。
「ふむ……今回も"第一神託"と"天道"は欠席か」
テーブルを囲むように配置された十三脚の椅子。その内の空席となっている二席に目をやりながら、初老の男性が声を上げる。
「仕方あるまい、では始めようではないか」
答えるのは、威圧感の籠った鋭い眼光をした初老の男性だ。彼ら二人を含む、金色の刺繍が入った豪華な白い祭服に身を包んだ五人の老齢の男達。ポラリス正教会、枢機卿団のトップに位置する五人の司教枢機卿達である。
向かい合う様に置かれた椅子には、一つ席を開け空け四名の勇者達の姿がある。いずれも勇者の頂点に君臨する、神託の勇者だ。
そして残った三席は、魔法使い、戦士、僧侶、それぞれの職業から選ばれた三名の教会員に与えられた席である。並外れた力を持つ彼らは、戦士の頂点"剣聖"、僧侶の頂点"神前"、魔法使いの頂点"天道"と、特別な名で呼ばれ、神託の勇者に匹敵する存在とされている。
司教枢機卿五名、神託の勇者五名、そして教会員三名。合計十三名が、ポラリス正教会における最高意思決定機関のメンバーである。
現時点での空席は二つ。神託の勇者トップである第一神託と、魔法使いである天道が不在の状態だが、そのまま会議が始められる。
「それで、わざわざ我々を呼び戻したのは何故だ?」
声を上げたのは、第三神託勇者トリスタンだ。その質問に司教枢機卿の一人、エインズワース司教枢機卿が答える。
「このタイミングでお前達を呼ぶ理由は一つしかあるまい、邪神だ」
「それは僕達も分かっていますよ。聞きたいのは、僕達をこうして招集したからにはなにか動きがあったのでしょう? それを聞きたいのです」
「その通りだ、我々としてもかの地を調査することを計画しているが、そこで少々問題が発生してな。おい! 連れてこい」
質問を返した第五神託勇者レオン、それに答えたオブライエン司教枢機卿は、軽く手を振り控えていた神官に合図を送る。
素早く扉を開け退出する神官の一人、程なくして一人の人物が引きずられる様に連れてこられる。後ろ手に縛られたその人物は、別人の様に痩せこけた勇者アランだった。
「何ですかこいつは?」
「五等級勇者のアランだ、西の地から生きて帰ってきたそうでな」
「おい! 離してくれっ、俺はもう勇者をやめるんだ! 家に帰してくれ!!」
騒ぎ立てるアラン。しかし、この場の者達はアランの声など聞こえていないかの様に会議を続ける。
「生き残りですか……ということは、この五等級勇者から何か無視できない情報が出てきたということですか?」
質疑を続ける第五神託レオン。その言葉に肯定の意で頷いたオブライエン司教枢機卿は、冷たい目でアランを見ながら口を開く。
「そのとおりだ。おい、もう一度同じ話をしろ」
「嫌だっ、約束が違うじゃないか!? 俺はもう帰りたいんだ! 勇者にももう関わりたくない!!」
「良いから早く話せ……」
「俺の父親が誰だか知っているのか!? 俺は貴族なんだぞ!! 良いから俺を早く家に帰せ! もう勇者なんて御免――」
ダンッッ!!
室内に大きな音が響く。テーブルを叩き割らんばかりの勢いで拳を打ち付け、ゆっくりと立ち上がるのは第二神託勇者アレクサンダーだ。そのまま勢い良くアランを蹴りつけると、倒れたアランを無理やり起こし、殺気の籠った目で睨む。
「貴様、勘違いしている様だから教えておく。勇者とは、なりたくてもなれないのと同じで、やめたいからと言ってやめられるものではない。勇者とは、神から神託を受ける可能性があると選ばれた人間だ。神託を受ける可能性があるか否か、それが俺達勇者とそうじゃない人間との違いだ。つまり、一度選ばれた以上、勇者という立場から下りることは出来ない。分かったらさっさと話せ」
「そんなっ……俺の……俺の親父が黙ってないっ」
「そうか、なら俺が黙らせてやってもいいんだぞ?」
アレクサンダーの放つあまりにも強大な殺気に、顔を青くし息を詰まらせるアラン。恐怖のあまりカチカチと鳴る歯を無理やり抑え込むと、震える唇を開く。
「は……話します……」
「そうか……」
アランを床に放ると、何事もなかったかの様に席に座るアレクサンダー。その姿に怯えながらも、自身の体験したことをゆっくりと話しだすアラン。
「俺は……俺があの土地に行ったのは今から二か月前です……」
静かな空間に、アランの震える声が響く。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「それで、クライヴさんもセドリックさんも死にました……俺は何とか生き残って……」
「もういい、黙れ」
一通りアランの話を聞いたメンバー。概ね聞き終わったところで剣聖エルドレッドが口を開く。
「エインズワース司教枢機卿、話は分かった。これは確かに俺達を集めるだけの事態だ」
「やはりそう思うか。長らく続いた邪神の瘴気がここにきての急激な消失。そして、光の粒子をまとう若き勇者の存在」
「なるほど、邪神によってその勇者に神託が与えられた可能性がある、ということですか……」
「そういうことだ、可能性は決して低くはないと考えている」
「いや、むしろ可能性としては高いだろう。でないと説明がつかないことが多すぎる」
「馬鹿な!あのスラム女が神託!?」
議論を続けていたメンバーだったが、アランの声に冷たい視線を向ける。オブライエン司教枢機卿は、再び軽く手を振ると、控えている神官に合図を送る。
「あぁ、お前まだいたのか。おい、連れていけ」
「待ってくれ! 帰してくれるんじゃなかったのか!?」
「ふむ……外に出されると不味い情報なのはお前も分かるだろう? つまり、もう少しおとなしくしていて貰おう」
「嫌だ! 頼む帰してくれ!! 誰か――」
叫び声を上げながら引きずられていくアラン。しかしこの場には、そんなアランのことなど気にする者は誰一人としていない。アランが退室したことを確認すると、エインズワース司教枢機卿が声を上げる。
「さて本題だが、現在サン・ポラーレに集まっている一等級勇者や上位の教会員を動かし、本格的な調査に乗り出そうと思う。また、亜人達の処理もついでに行う予定だ。そこで、ここにいるメンバーにも協力をしてもらいたい」
「なるほど、本当に邪神の神託を受けた勇者が生まれたのであれば、一等級でも歯が立たない可能性があるな」
「その通りだ、だがまずは真偽を確認したい。調査団はこちらで編成するが、誰が同行するか……」
「ならば彼女が適任だろう、万が一瘴気がまだ残っていても、彼女であれば問題ない」
エインズワース司教枢機卿の問いかけに、一人の人物を指差しながら答える第三神託トリスタン。指差された先では、終始黙って話を聞いていた女が薄気味の悪い笑みを浮かべていた。
「なるほど、確かにそうだな。では任せる」
「任せて…………」
そう言うと、フードを目深にかぶったままのその女は、小さく頷くのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。
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★ ★ ★ 以下、ポラリス正教会、最高意思決定機関メンバーのまとめです ★ ★ ★
<司教枢機卿>
・エインズワース司教枢機卿
・オブライエン司教枢機卿
・???司教枢機卿
・???司教枢機卿
・???司教枢機卿
<神託の勇者>
・第一神託勇者???
・第二神託勇者アレクサンダー
・第三神託勇者トリスタン
・第四神託勇者???
・第五神託勇者レオン
<教会員>
・剣聖エルドレッド(戦士)
・神前???(僧侶)
・天道???(魔法使い)