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30話:取り戻した日常(挿絵あり)

※2019/10/18 表記方法を修正しました。


ここまで読んで下さりありがとうございました。今回で一応一区切りです。


後書きと活動報告に主人公スピカの挿絵を乗せておりますので、よろしければご覧ください。

 太陽の日差しが差し込む中、鳥達の鳴き声に目覚を覚ましたスピカは大きく伸びをする。


「おはようございます、スピカ様!」


 目をこすりながら声の方へ顔を向けると、ニコニコと微笑むジェルミーナの姿あった。寝間着姿のジェルミーナは、スピカと同じベッドの上で顔をほころばせながらスピカを見ている。


《おはようスピカ……今日も彼女と一緒なのね……》


(うん、ジェルミとの約束だからね)


 勇者クライヴ達との戦いの最中、スピカを救うため寿命を削ってまでエリクサーを飲ませてくれたジェルミーナ。そのお礼をしたいと申し出たスピカへのジェルミーナからの答えが以下の三つだった。


 一つ、同じ家に住まわせてほしい

 二つ、同じベッドで寝させてほしい

 三つ、自分の事を"ジェルミ"と愛称で呼んでほしい


 それを聞いたジャンルーカは顔を引きつらせていたが、スピカはあっさりと快諾。それから一週間、毎日寝食を共にしているのだった。


「おはようジェルミ、今日もいい朝だね」


「はい! 今日もスピカ様の寝顔が見れて幸せです!」


《スピカ……あなた本当にそろそろ身の危険を感じた方が良いわよ……》


 呆れるトレミィとは反対にキョトンとするスピカ。そこへ、ノックもなしに寝室のドアが乱暴に開けられる。


「よう、起きたか」


 無遠慮に入ってきたのは、少女の様な顔立ちをした少年リゲルだ。


「ちょっと! 女性の寝室に勝手に入るなと言っているでしょう! せめてノックをしてください!!」


「あーはいはい、うるせぇうるせぇよ~」


 怒るジェルミーナを相手に、面倒くさそうに手を振るリゲル。彼もまた、この家に住む同居人の一人であった。


 クライヴ達との戦いの後、あらためて自己紹介をしたリゲル。ドワーフであり錬金術師だと名乗ったリゲルは、自分もこの村に住まわせてほしいと申し出たのだ。


 錬金術の研究に必要な素材を集めるため、世界中を旅して回っているというリゲル。邪神の影響で立ち入ることのできなかったこの土地に新たな素材が隠れてないかと、数日前から探索していたらしい。以前村の周辺で目撃された、金色の頭をした小さな人影の正体はリゲルだった様だ。


 適当に野宿をしながら探索を続いていたリゲルだが、次々と集まる素材にそろそろ拠点が欲しいと思い始めていた矢先、先日の勇者襲撃事件があったのだ。


 そして、スピカを救う時に言っていた頼み事というのが、拠点としてこの村に住まわせもらい、かつスピカに素材集めに協力してほしいというものだった。


 これについてもあっさりと快諾したスピカは、そのまま自分の家に住んだらどうかと提案したのだ。こうして今この家には、スピカとジェルミーナ、そしてリゲルの三人が同居することとなっているのだ。


「じゃあ、私はちょっと出かけてこようかな」


 そう言うとその場で服を脱ぎだすスピカ。それを見たジェルミーナが慌ててリゲルを部屋の外へ追い出す。


「ダメです!! リゲルは出て行って下さい!」


「ああもうっ、うるさいな! それと何でお前俺だけ呼び捨てなんだよ!?」


「あなたの様なガサツな男は呼び捨てで十分です! さぁ早く出て行きなさい!」


 やいのやいのと騒ぐ二人を無視して、素早く着替えてしまうスピカ。


《ずいぶん賑やかになったわね》


(うん、トレミィのおかげだね)


《私の?》


(うん、皆トレミィが繋いでくれた縁だからね。トレミィがいたからこうして今があって、皆がトレミィを信仰してる。だから皆トレミィの家族みたいなものだね)


《家族……》


(もちろん一番の家族は私だけどね!)


《!!》


 スピカの言葉がよほど嬉しかったのか、ぐずぐずと泣き出すトレミィ。そんなトレミィを微笑ましく思いながら、騒ぐ二人を残して家を出るスピカだった。



★ ★ ★ ★ ★ ★



「あら、スピカちゃん」


 村を歩いていたスピカに、そう言って声を掛けてきたのは姐さんことハーフリングのマイヤだ。


「姐さん! 前と変わらずに呼んでくれるのは姐さんと、後何人かだけだよ」


「そうなのかい?」


 村の中心にある大通り、そこで立ち話をするスピカとマイヤ。そこへ、通りかかった亜人達が声を掛けてくる。


「スピカ様、本日もご機嫌麗しゅう……」


「何かお困りごとがあれば、私達にお申し付けください……」


(うーん……やっぱり皆こんな感じだね……)


《仕方ないわよ……ちょっとインパクトが強すぎたのよ……》


 恭しい様な、恐れられている様な、そんな態度で接してくる亜人達に困った顔を浮かべるスピカ。


 勇者達を撃退した夜。神秘的に光り輝く姿と、その姿とは全く似つかわしくないおぞましい所業、その両方を見せられた亜人達は、スピカに対して必要以上に畏怖し、敬う様になっていた。


《でも、スピカは私の勇者なんだから、これくらいでちょうど良いんじゃないかしら?》


(えー、すっごくやり辛いよ……)


《良いじゃない! そこらの勇者とは格が違うんだから、格ゅぎゃっ》


(トレミィは私の邪神なんだから、そんなに噛んでちゃだめだよ)


《ぐぬぅ……》


 唸り声を上げるトレミィに頬を緩めるスピカ。そこへ、通りの向こうから新たな声が掛けられる。


「おう、嬢ちゃん!」


「スピカ、今日は一人なのか?」


 やって来たのはオイゲンとフェルナンドだ。その横にはジャンルーカの姿も見える。


「スピカ殿、ジェルミは迷惑をかけていないだろうか?」


 スピカに対して態度の変わらない、そんな数少ない亜人たちに囲まれ嬉しそうな表情を見せるスピカ。


「うん、家の事も色々やってくれるし、ジェルミはいい子だね」


「そうか……ジェルミが何かおかしなことをしたらすぐに言ってくれ」


「おかしなことなんてしないよ。あ、そう言えば親方」


「何だ? 嬢ちゃん」


「今のお家なんだけど、もう少しお風呂を大きくできないかなって思って」


「何だ、もっと広い湯舟に浸かりたくなったか?」


 もしゃもしゃと髭を撫でながら笑い声を上げるオイゲン。しかしスピカは首を横に振る。


「ううん、私がお風呂に入ってると毎回ジェルミも一緒に入ってくるから、ちょっと手狭で……」


「ブふっ!?」


 思わず吹き出すジャンルーカ。そんなジャンルーカに憐れむような視線が向けられる。


「ジャンルーカ、お前の妹はどうしてしまったのだ……」


「スピカちゃん美人だからねぇ……スタイルも良いし、まぁ……ねぇ……」


「風呂を広げるのは構わねえが、広げちまって良いのかこれは?」


「ジェルミ……お前は一体……」


 ガックシと膝をつくジャンルーカ。一人キョトンとするスピカを除いてどんよりとした空気の一同。そこへ、この空気を作った原因、ジェルミーナの甲高い声が響いてくる。


「スピカ様ーー!! 置いて行くなんてひどいですぅ!」


「おいスピカ! 今日は俺の実験に付き合えと言ったろ!!」


「違います! スピカ様は今日私と一日一緒に過ごすのですっ」


「あぁ!? 実験の方が重要に決まってるだろうがっ」


 騒がしく言い争いながら向かってくるリゲルとジェルミーナ。


「ジェルミ……お前はそんなに騒がしい妹ではなかったはずだ……」


 そんな妹の姿を悲しそうな目で見る兄ジャンルーカ。


(ふふっ、皆賑やかだね)


《本当に、少し前まで誰もいなかったのに、こんなに人が増えて……皆楽しそうに……》


(皆トレミィの信者で家族だもん、これからも守っていかないとね!)


《もちろんよ!》


 澄み渡る青空の下、賑やかな亜人達の声が響く。


 亜人達の平穏な日常。


 スピカとトレミィにとっては大事な信者であり家族達。


 取り戻した大事なものを、優しい瞳で見つめるスピカだった。

ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。


一区切りということで、主人公スピカの挿絵を描きました。つたない絵ですがキャラクターイメージが湧きましたら幸いです。


(どうやら私の色彩センスは壊滅的だったようです……白黒ですがご了承ください)


挿絵(By みてみん)


※胸元は隠れていますが……大きいです……


また、ブックマークやpt評価、感想も是非によろしくお願いします。

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