28話:襲撃者との戦い ~勇者達との再戦_後編~
2019/10/18 タイトルを修正しました。
※主人公が残酷すぎる描写があります、ご注意ください。
スピカを挟む様に位置を取ったクライヴとセドリックは、一瞬の目配せを交わすと同時に駆け出す。
剣に魔法を宿らせ、スピカの正面から切り込んでくるクライヴ。一方、背後を取ったセドリックは双剣を交差させながらスピカに迫る。
死角を突く様に迫る勇者二人。しかし、星の力により感覚の強化されたスピカは、二人の動きを完璧に捉えていた。
バックステップでクライヴと距離を取る。必然的に、背を向けたままセドリックとの距離を詰めることになるが、振り返ることもなく、低くしゃがみ込みながら身を反転させると剣を振り上げる。
振り向きもせず反撃に出たスピカを見て、とっさに剣を交差させ防御の構えを取るセドリック。しかし、剣と剣が衝突した瞬間、左手に構えていた一本が中ほどからへし折られる。
《よっしっっ! 良いわよ!!》
「つっ!!」
追撃の構えを見せるスピカ。それを見て素早く距離を取るセドリック。繰り出されるスピカの突きを身を捻りながら躱したセドリックは、勢いを活かしたカウンターで反撃に出る。
《危ない!》
横なぎに振り払われるセドリックの剣。その剣を下から蹴り上げたスピカは、軌道のそれた剣の下を潜る様に身をかがめ、そのまま距離を取る。
それを見越したかの様に、左手に持っていた折れた剣を投擲してくるセドリック。とっさに剣で払うが、タイミングを合わせたクライヴの魔法剣から雷撃が放たれる。
全身に力を籠めるスピカ。剣に纏った光が一層強い光を放つ中、その剣を目にも止まらぬ速さで振り抜く。雷撃の速度を優に超えたその剣は、激しい音を立て雷撃と衝突すると、クライヴの放った雷撃をはるか彼方へ切り飛ばしてしまった。
《カッ、カッコイイーー!!》
「馬鹿なっ……魔法剣を……」
雷撃を弾いた直後、セドリックに向かい駆け出していくスピカ。その背後から再び魔法剣を構えるクライヴだったが、小さく舌打ちをする。
「ちぃっ」
クライヴの魔法剣を警戒したスピカは、セドリックを壁にする様に立ち回っていた。魔法剣が放てず、苛立ちを見せるクライヴ。
《良いわよ! 上手いわよスピカ!!》
「死ね!!」
怒声を上げ上段からの一撃を繰り出すセドリック。反対に下段からの切り上げで迎え撃つスピカ。互いの剣が衝突する瞬間、眩い光が放たれる。
ギイィンッ!!
衝撃音と共に宙を舞うセドリックの剣。痺れる手を見ながら呆然とするセドリックに足払いを掛け体勢を崩させる。重心を崩され体を反転させられたセドリックは、スピカに背を向ける形となる。そして。
《そこよっ、チャンス!!》
「ぐっ、ぐああぁ!!」
背中から脇腹を貫く様に突き刺されたスピカの剣。剣が刺さったまま身動きが取れないセドリックは、魔法剣を構えるクライヴと正対することにる。
「うっ、ぐうぅ……クライヴ……さん……」
「セドリック……」
セドリックを盾に身を潜めるスピカ。
「クライヴさん……助けて……下さっ!?」
震える声を上げるセドリック。その背を思い切り蹴り飛ばしたスピカ。勢いで剣が引き抜かれ、背を反らせながらクライヴの元へと弧を描き飛んでいく。
「……邪魔だ」
正面に迫るセドリックに対して、冷たい声でそう言い放つクライヴ。そのまま躊躇なく一刀の元にセドリックを切り伏せると、再び魔法剣を発動させスピカに向かって駆け出そうとするが。
「がっっ!?」
突如飛来した剣が左の肩口を貫き、たまらずたたらを踏む。セドリックが手放した剣、それを素早く拾ったスピカは、セドリックの体を利用し死角になる位置から投擲したのだ。
《やったわ! 仲間を切る様なことをするからそんな目に合うのよ!》
勢いよく突き刺さった剣によろめくクライヴ。その隙に一瞬で距離を詰めるスピカは、雷撃を纏ったままの魔法剣を、クライヴの腕ごと真上へ蹴り上げる。
ブンブンと音を立て回転しながら宙を舞う魔法剣。蹴り上げられた腕の痛みに悶えるクライヴは、体勢を崩しながらも確かに見た。
ニヤリ、と邪悪な笑みを浮かべたスピカの顔を。
軽く跳躍したスピカは、宙を舞う魔法剣に手を添え、先端をクライヴの方へ向ける。そのまま勢い良く投擲された魔法剣は、吸い込まれる様にクライヴの右肩を貫く。
「グッッギャアアアァァァァ!!??」
《イッッケェエエエェェェェ!!!!》
(トレミィ! さっきからずっとうるさいよ!!)
バチバチと雷音が鳴り響き、自らの雷撃に身を焼かれるクライヴ。雷撃が止むころには、全身から煙を上げ白目をむいて痙攣を繰り返すクライヴの姿があった。
戦闘中にも関わらずやいのやいのと言い合っていたスピカとトレミィだったが、ドサリと音を立て倒れたクライヴを見て、満足そうにうなずいた。
「ふうっ、私の勝ちだね」
《やったわーー!! 凄かったわスピカ! さっすが私の勇者よねっ》
「スピカ様……」
満足気にうなずいていると、背後から声が掛けられる。振り向くとジェルミーナが、横にはジャンルーカとフェルナンドもいた。後ろではオイゲンやマイヤ、亜人達が不安そうな顔でこちらを伺っていた。
「ジェルミーナ! みんな無事だったんだね、良かった」
「はい、それで……その勇者達は……」
「まだ殺してないよ」
そう言うと、ニヤリと笑みを浮かべるスピカ。
「これから地獄を見てもらうからね」
★ ★ ★ ★ ★ ★
四半刻ほどの時間を空け、村の端に集まった亜人達。目の前には、スピカの手によってボロボロに痛めつけられた勇者達が横たわっている。
勇者達を倒した後、彼らを村の端に集める様スピカから言われた亜人達。
《スピカ、何をするつもりなのよ》
「こいつらにね、地獄を見せるんだよ」
あえて聞こえる様口に出すスピカ。目の前にはうっそうと広がる森、村のすぐ横にある小さい森だ。スッと目を細め何かを確認したスピカは、痙攣するクライヴの元へ向かうと、首根っこを摑まえ片手で軽々と持ち上げる。
「ちゃんと"いる"みたいだね、じゃあ地獄を見てきてね」
「う……うぁ……」
「そぉっ……れ!!」
投擲の構えで大きく振りかぶったスピカは、あろうことかクライヴを森の上空へ放り投げたのだ。
「スピカ殿!?」
「スピカ!! 何をやっているんだっ!」
亜人達から次々と声が上がるが、手を止めることなく息のある勇者のパーティメンバーを森の方へ放り投げていく。数十メートルの距離を放り投げられていき、あっという間に息のある人間はすべて森の中に消えてしまった。
「どういうことだスピカ殿!! なぜ奴らを生かしたまま逃がした!?」
「そうですスピカ様! あいつらがまた襲ってきたら!!」
口々に抗議の声を上げる亜人達。しかし、フェルナンドだけが唯一青い顔でスピカを見ていた。
「その可能性はないだろう……スピカ……お前はなんて恐ろしいことを考える……」
「どういうことだ? フェルナンド」
「あの勇者達が生きて逃げ延びることはない……あのダメージ、誰一人としてまともに動ける者はいまい。そしてあの出血量、そんな状態で森の奥に放り込まれたのだ」
その時、森の奥深くから悲鳴が聞こえてきた。
「何だ!?」
「唸り声も聞こえます……まさかっ」
ハッとした顔でスピカの方を見る亜人達。一人頷くフェルナンドが口を開く。
「スピカ。お前、今この森に魔物がいることを知っていたな?」
「うん、たくさん気配を感じたからね。きっとプルートが弱っていた上に、血がいっぱい流れてたからおびき寄せちゃったんだね」
「お前、あいつらを魔物の餌にするためわざと殺さなかったのか。生きたまま魔物達に食わせるために……」
「生きたまま……まさかっ」
その言葉にハッとするジャンルーカ。脳裏をよぎるのは初めてスピカにあった日、プルートによって両腕を食いちぎられた五等級勇者の姿だった。
「まさか……あの時も……」
じっと森を見つめていたスピカは、ゆっくりを振り返る。優しく微笑むその表情、しかし、たった今見せたおぞましい所業を考えると、その笑みが異様に恐ろしいものに感じられる。
「女の人もいたから、ちゃんとゴブリンとかに捕まえてもらえると良いよね」
《スピカ……正直怖すぎるわ……ホラーよ……》
(えーっ、地獄を見せてやりなさいって言ったのはトレミィなのに!)
《あっ……そ、そ、そ、そうね。それはそうなんだけど……》
「フフッ」
どもるトレミィに思わず声を上げて笑うスピカ。先ほどの行いも相まって不気味としか取れないその笑い声に、顔を引きつらせる亜人達。
「あっ」
笑っていたスピカだったが、突然何かに気付いた様に顔を上げる。そのまま近くに放置されていたイアンの死体、その頭部を掴み上げると、森の方へ思い切り放り投げる。
《うええぇぇ!? 何やってるのよスピカッ!??》
「スピカ様!? 先ほどから惨たらしすぎます!」
「ふぅ、これで皆ちゃんと地獄を見てくれたかな?」
亜人達を救い、神々しく光を纏うスピカ。しかし、その美しい姿とは裏腹な、邪神の勇者と呼ぶにふさわしい邪悪な笑みを浮かべるのだった。
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