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27話:襲撃者との戦い ~勇者達との再戦_前編~

2019/10/18 タイトルを修正しました。

 ジェルミーナを抱きかかえたまま、十数メートルの距離を高く飛び上がるスピカ。


「ひゃやぁっ……たっ……高いです!」


「大丈夫! 落とさないから」


《たたっ、たっ、高いわよスピカ!》


(トレミィは落ちる心配ないから平気でしょ……)


 最高点に達すると、落下と同時に村の全景を確認しながら建物の屋根に着地する。羽の様に軽やかな着地を見せると、再び跳躍し村の中心を目指す。


 飛び上がるたびに光の粒子が舞う。その光景は、まるで小さな星が弧を描き跳ね回っている様だ。


「あっ、あそこです!」


 ジェルミーナの指差す先、村の中心に位置する広場を見ると、亜人達が一ヶ所に集められていた。後ろ手に縛られ、身動きが取れない状態の亜人達。それを囲む様に勇者達が陣取っている。


 注意深くその様子を観察すると、動きを封じられたジャンルーカとフェルナンドの姿も確認できる。その二人に狙いを定める様に、灰色の髪をした男が杖を構える。


《スピカ! 急いで!》


(うんっ、分かってる!)


「ジェルミーナ、ちょっと走るからしっかり捕まってて!」


「えっ、わっっひゃああぁ!!?」


《ひゃやっ、早すぎるわよおおぉぉ~》


 地面に着地したスピカは、着地の体制のまま足に力を込めると一気に駆け出す。地面と水平に飛ぶ様に走るスピカ。あまりの速度に悲鳴を上げるジェルミーナをしっかり抱きかかえると、勢いそのままに、ジャンルーカの前へ飛び込んでいくのだった。



★ ★ ★ ★ ★ ★



 スピカ達の敗北後、次々と広場に集められていた亜人達。


 フェルナンドとジャンルーカ、エルフや獣人達はいずれも大きなダメージを受け、抗う力は残っていなかった。戦力を失った亜人達はなす術もなく、一人また一人と捕まっていったのだ。


「イアンはまだか?」


「最後の一匹と言っていましたから、すぐに捕まえて戻ってくると思いますよ」


 ジャンルーカとフェルナンドの前に立つのは二人の勇者、クライヴとセドリックだ。亜人達との戦いで負った傷は僧侶コリーの手により全て回復し、万全の状態で亜人達を包囲している。


「だとよ、そいつが捕まったらいよいよお前たちは皆殺しだなぁ? ガハハッ」


 下品に笑い声を上げるヴィンス。その言葉を聞き、苦々し気に顔を歪ませる亜人達。


「にしても、遅い」


「誰か様子を見に行かせるか……いや、その必要はないか」


 目の前の亜人達を見ながら唇を吊り上げるクライヴ。


「そうだな……最後の一匹が捕まったらまとめて殺す予定だったが、何人か先にやっちまうか」


「なっ……に……」


 クライヴの言葉を聞き声を詰まらせるジャンルーカ。その様子を見てますます笑みを深めるクライヴ。


「そういえばお前、さっき殺し損ねた奴だな……そこの獣人も俺に歯向かってきてた奴か……」


「クライヴさん、やるなら俺に」


 杖を構え進み出るジェローム。その顔は無表情だが、ぎらついた双眸には明確な殺意が宿っている。


「ジェローム、あなたは口数少ない割に中々残忍ですよね」


「出来るだけ無残に殺せよ?死体を見た最後の一匹が泣きわめく姿が楽しみだ」


 セドリックとクライヴ。二人の言葉を聞き目を細めるジェロームは、ジャンルーカに向け杖をかざす。その先端に魔力が集まると、周囲に風が吹き荒れる。


「くそっ」


「逃げろジャンルーカ!」


 身をよじり逃げ出そうとするジャンルーカとフェルナンド。しかし、無慈悲にも放たれるジェロームの魔法。一メートルほどの球状に圧縮された暴風が、二人に襲い掛かる。


 地面をえぐりながら迫る暴風の塊。あまりの風圧に受け身を取ることも出来ず、ただただ魔法が迫りくるのを待つ二人。そこへ、一筋の光が降り立つ。


「よしっ、ギリギリ間に合った!!」


《来るわよスピカ!!》


 光を放ちながら暴風の前に飛び込んできたスピカ。ジェルミーナを抱えたまま体をひねると、回転する様に回し蹴りを放つ。


ゴウゥッ!!


 振り抜かれた足の軌道に沿って、光の粒子が尾を描く。轟音を上げるその蹴りは、暴風の塊を軽々と消し飛ばすと、その余波でジェロームをも吹き飛ばす。


《よおおぉっし!! やったりなっさーーいっ、スピカーーーー!》


「何だっ!?」


「スピカ殿!」


 テンション高く声を張り上げるトレミィとは対照的に、困惑した様子のジャンルーカとフェルナンド。ひとまず魔法を打ち消したことを確認したスピカは、抱えていたジェルミーナを地面に降ろす。


「ジェルミーナ、皆を!」


「うぇっぷ……はいぃぃ」


 青い顔で地面に降り立つジェルミーナ。ふらふらとよろめきながら、ジャンルーカのもとへ駆け寄る。


「ジェルミ、無事だったか!」


「はい、スピカ様のおかげで……うぇ……」


 ジェルミーナの様子に怪訝な表情を見せるも、すぐにスピカの方へ目を向ける。


「スピカ殿……その姿は……」


「お兄様、今は皆を助けることが優先です! 勇者達はスピカ様が何とかしてくれます!」


「そうか……」


 亜人達の縄を解きにかかるジェルミーナ。その様子を確認すると、勇者達の方へ向き直るスピカ。


「コリー、ジェロームを早く!」


「分かっていますよ、すぐに治します!」


《あいつが回復役よ、先に叩いて!》


(任せて!)


 素早い動きで治癒魔法に入るコリー。そのコリーを守る様にヴィンスが立ちふさがる。


「てめぇの相手は俺だ!」


「邪魔!!」


 巨大な戦斧を構えるヴィンス。そこに躊躇いなく突っ込んでいくスピカ。一瞬で距離を詰めると、無防備な顎をめがけ突き上げるように掌底食らわせる。


「なっ!? がっっ……」


《良いわよ良いわよ! どんどんやっちゃってぇ!!》


(もちろん!!)


 スピカの動きを追い切れず、無抵抗に顎を砕かれるヴィンス。たたらを踏むヴィンスの体を押し出す様に、スピカの拳が撃ち込まれる。


「ぐぶぁはあっ!!?」


 着込んでいた鎧ごと内臓を砕かれ、血を吹き出す。勇者たちの中で最もがたいの良いヴィンスだが、スピカの放った拳は軽々とその体を吹き飛ばす。


「なっ!? ヴィンス――」


 治癒魔法を発動させようとしていたコリーだったが、殴り飛ばされたヴィンスに巻き込まれ、諸共に吹き飛ばされる。


「ちょっと! 何なのよこいつ!!」


《後ろよ!》


(うん! 大丈夫!)


 背後から聞こえるリンジーの声に素早く反応するトレミィ。放たれた火球の気配を振り向くことなく察知したスピカは、上半身だけを半回転させ振り返り様に剣を抜く。


 光の尾を描きながら振り抜かれる剣。その軌跡をなぞる様に、三日月形をした光の刃が宙を舞う。そのまま迫りくる火球と衝突すると、切り裂かれる様に霧散する火球、なおも勢いの止まらない光の刃は、驚きに目を見開くリンジーに襲い掛かる。


「ぎゃあああぁぁ!!」


 顔面を切り裂く様に直撃した光の刃に、顔を押さえうめき声をあげるリンジー、無防備な顔面への直撃により視力を失い、ふらふらと数歩よろめくとその場に倒れる。


《スピカっ、今の!》


(なんだろ? 炎を切り飛ばすつもりで剣を振ったんだけど……何か出た)


《魔法……とも少し違うみたいだけど……とにかくかっこいいわ!》


「リンジーさん! こいつよくも!!」


「待て、シェリー!」


 セドリックが静止の声を上げるが、構わず突撃するシェリー。低い姿勢から拳を構えると、渾身の右ストレートを放つ。しかし。


「……嘘っ……」


 驚きのあまり言葉を失うシェリー。魔導力を込め全力で放ったその拳を、スピカは無造作に片手で受け止めてしまったのだ。


「嘘じゃないよ?」


 ニヤリと笑みを浮かべると、シェリーの拳を握りつぶしながら股下を勢い良く蹴り上げる。股関節がぐちゃりと嫌な音を立てるが、気にせずそのまま蹴り飛ばしてしまう。


《うえ……なかなかグロイわね……》


 手の中に残ったシェリーの指を無造作に放り投げるスピカ。数メートル先では、落下してきたシェリーが地面に叩き付けられ動かなくなっている。


「セドリック、パーティの連中はまだ生きている。先にこいつを何とかするぞ」


「はい、分かっています」


 スピカを挟む様に位置を取るクライヴとセドリック。その顔には焦燥の色が浮かんでいるが、油断なく剣を構える。


《さぁ、あと二人! 油断しないでいくわよ》


(うん!)


 姿勢を低くし剣を構えるスピカ、その体からはより一層光の粒子が放たれている。


 残る相手は勇者二人。


 戦いは佳境に入る。

ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。


また、ブックマークやpt評価、感想も是非によろしくお願いします。

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