24話:襲撃者との戦い ~敗北~
※2019/10/18 タイトルと表記方法を修正しました。
※痛々しい描写があります、ご注意ください。
一瞬の隙を突き、クライヴに肉薄するスピカ。そのまま鍔迫り合いの体制で動きを止めると、背後からフェルナンドが大きく跳躍する。
(よしっ、タイミングばっちり!)
スピカの動きに合わせ、必殺の一撃を構えるフェルナンド。しかし、その状況にもうっすらと笑みを浮かべるクライヴは、一瞬のうちに剣に魔法を纏わせる。
雷撃が剣の表面を駆け抜ける。直後、激しくほとばしる雷がスピカを襲った。
「!!?っ」
《これは、魔法剣!?》
吹き飛ばされるスピカ。強烈な雷撃を食らいしびれる体は、無防備な体勢で何度か跳ねると、そのままぐったりと地面に横たわる。
(っ……魔法剣……?)
《そうよ、魔法の力を武器に付与する高等技術。あの勇者は雷の魔法を剣に付与したのね》
(つっ……体が……)
《無理しちゃダメよ、直撃したんだから! 当たり所が悪ければ死んでたわよ!》
しびれる体を無理やり動かし、何とか首だけを上へ向けると、視線の先ではフェルナンドが倒れていた。スピカと同じ様にクライヴの魔法剣を食らい体が麻痺しているのだろう。
一方のクライヴは水平に剣を構え、剣の先端に雷撃を集中させている。見ると、その先端は魔法戦を繰り広げるジャンルーカに向けられている。
《あいつっ、まずいわ! あのままじゃ……》
(任せて!)
魔法剣が発射される直前、強引に体を起こすとクライヴとジャンルーカの間に駆け込むスピカ。そのまま倒れる様に前傾姿勢を取ると、めいっぱいに剣を突き出す。
《スピカ、まさかっ……》
スピカが剣を突き出した直後、クライヴの魔法剣が放たれた。激しい雷撃がジャンルーカめがけて稲妻を描くが、その軌道が途中で不自然に曲がる。クライヴとジャンルーカの間に突き出されたスピカの剣、金属製のその剣が避雷針の役目となり雷撃を引き寄せたのだ。そして――
ドンッ!!!!
「ガヵッッッ!!」
スピカの剣に吸い込まれる雷撃。剣を通じ体を駆け抜ける電に、スピカの体が大きく跳ね上がる。ジャンルーカやフェルナンド、そして亜人達が言葉を失う中、焦げ臭い煙を立ち昇らせながら、力なく倒れるスピカ。
「ちっ、邪魔が入ったか」
「スッ……スピカ殿!!」
我に返ったジャンルーカが声を上げるが、その隙をつく様にジェルームの放った竜巻がエルフ達を襲う。なす術もなく蹂躙されていくエルフ達。獣人達も起き上がれる者はいなくなっていた。
「ガルウウゥゥ!!」
倒れるスピカに駆け寄るプルート、しかし。
「あんたは大人しくしてな!」
「ギャヤイィン!?」
狙い撃つ様に放たれたリンジーの魔法。魔物の力を弱める特殊な封印魔法の直撃を食らい、プルートもまた動きを封じられる。
《スピカアアアァァ!嫌あぁっ、目を開けてスピカァ!!!》
(……くぅ……)
プルートが、そして亜人達が次々と倒されていく中、うっすらと意識を取り戻したスピカ。激しく体を駆け抜けた雷撃だったが、そのまま足を伝い地面に逃げたことで一命をとりとめていた。
《スピカ! スピカァ! 生きてたぁ……良かったぁ……》
(……あれ……何が……)
意識が混濁する中、体を動かそうとする。しかし、ピクピクと痙攣を繰り返すだけで全く動く気配がない。
その様子に気付いたクライヴは、忌々し気な表情を浮かべながらアランを呼び寄せる。
「生きてたか、運のいいやつだ……おいっ、アラン!」
「はいっ」
「この女、お前達の仇だろう? こいつお前にやるよ」
悪意に満ちた笑みを浮かべるクライヴ。
「お前の好きにしていいぜ、たっぷり可愛がってやれよ」
クライヴの言葉を聞き。アランもまた悪意に満ちた笑みを浮かべながら頷くのだった。
スピカ、プルート、そして亜人達。立ち上がる者のいなくなった戦場で勇者達の笑い声がこだまする。
こうして亜人達は、敗北を喫したのだった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
(……う……ん……?)
戦いから数時間、目を覚ましたスピカは村のはずれにいた。
戦いの直後気を失ったスピカは、そのまま一人ここまで運ばれてきたのだろう。装備はすべて奪われ、着ていた服も下着を残し全てはぎとられている。手足を縛られ地面に転がされた状態だ。
「ふんっ、気が付いたか」
声のする方を見ると、少し離れた位置で火魔法を操るアランがいる。その手には先の鋭く尖った金属の杭が握られており、先端は火魔法によって赤く熱せられている。
「う……」
《スピカ……目が覚めたのね……》
(トレミィ……)
頭の中では震えるトレミィの声が響く。朦朧とする意識を無理やり覚まさせると、今の状況について確認をする。
(トレミィ……どうなったの……?)
《スピカ、エルフを守るために魔法剣を食らったのよ、覚えてる?》
(うん、そこまでは何となく。でもその後が分からない……)
《ええ、その後すぐに意識を失ってしまったのよ。それで、あそこにいる男がここまで引きずってきたの。あいつ、スピカの服を無理やり脱がさせてっ、酷いことする気なのよきっと》
苦々し気に語るトレミィ。すると、杭を握ったままのアランがゆっくりとこちらに近付いてきた。
「調子はどうだ? スラム女」
「アラン……そうだね、あんまり良くはないかな」
「ちっ、つまらねえ答えだ」
「亜人達は……?」
「あ? あぁ、あの人もどき共か。あいつらなら今クライヴさん達が捕まえて回ってるぜ。全部捕まえたら村ごと焼き殺す予定だ。忌まわしい亜人共もこの村も、そしてあの黒い魔物もまとめて、だ」
「そっか、じゃあまだ皆生きてるんだね」
「あぁ? そんなことより自分の心配をしたらどうだ?」
吐き捨てる様に言うと、熱せられた杭を見せつける様に前へかざす。
「それを私に刺すの?」
「分かってるじゃねえか、モーガンとラッセルの仇だ」
そう言うと、真っ赤に染まった杭の先端をはだけた太ももに突き刺してくる。ジュッという音と共に、肉の焼ける嫌な臭いが辺りに充満する。
「っ!!」
《スピカ!》
「はっ、いい気味だなオイ」
そのまま杭に力を籠めるアラン。ぐりぐりと刺し込まれる杭は、やがて太ももの反対側からその先端を覗かせる。しかし、脚を貫かれたにもかかわらず、スピカは苦痛に顔を歪めることもなくじっとしている。
「ちっ、本当につまらない女だな……もっと泣き叫ぶとかしろよな」
「……」
《スピカ……? 脚は……脚は痛くないの?》
(うーん……痛いけど、これくらいなら我慢できるかな)
《でもっ……でも肉が焦げてるわよ!熱いに決まってるじゃない!!》
(あの熱いやつなら何本でも平気。肉が焼かれて血があんまり出ないから死ぬ心配もないし。直接火であぶられる方が辛いかな)
《直接って……》
(うん、昔された時は死ぬかと思った)
飄々とした様子のスピカ。だが、そんな内心を知らないアランは次の杭に手をかける。
《ほら! 何本も刺すつもりよあいつ、そのうち死んじゃうわよ!》
(そうだね、でもその前に時間切れになるよ)
《時間切れ……?》
戸惑いの声を上げるトレミィ。そんなトレミィに分かる様に、視線を空に向けるスピカ。
(ほら、もうすぐ日が沈むから。今日はいい天気だね)
《あっ》
スピカの意図に気付くトレミィ。その間にも熱せられていた杭がスピカに迫って来る。
「何本まで耐えられるか、楽しみだな?」
ジュッ…………
ジュウゥ…………
ジュシュゥ…………
二本三本と、次々に刺し込まれる杭。周囲には肉の焼ける嫌な臭いが充満している。うめき声を上げるものの、無表情でじっと耐えるスピカに苛立ちの色を隠せないアラン。
「スラム女がっ、日が暮れちまったじゃねえか!」
火魔法の連発で疲労が溜まったのか、その場に腰を下ろすアラン。そこへ、建物の影から人影が飛び出してくる。
「きゃっ!?」
「なんだっ? エルフか!?」
「あれ、ジェルミーナ?」
突如現れたのはジェルミーナだ。衣服は乱れ、白い肌には所々切り傷がある。スピカとアランの姿を見て一瞬固まるジェルミーナ、その背後から新たな人影飛び出してきた。勇者セドリックのパーティメンバー、イアンである。
「イアンさん!?」
「アレンか、お楽しみ中のところ悪いな。そいつで最後の一匹だ、丁度いいから手伝え!」
「は、はいっ」
ジェルミーナを追ってきたであろうイアン。そして、イアンの指示で剣を構えるアラン。二人に挟まれ絶望の表情を浮かべるジェルミーナだったが、その視線がアランの後ろで釘付けとなる。
怪訝に思うアラン。その背後から不意に声が掛けられる。
「残念だったね、時間切れだよ」
「なに!? っっがあぁっっ!!」
直後、背中に激しい衝撃を受けたアランは、十数メートルの距離を吹き飛ばされ、そのまま森の中へ消えていく。
驚きに目を見開くジェルミーナとイアン。その視線の先では、自らを縛っていた縄を軽々と引きちぎり、アランの落とした剣をゆっくりと拾うスピカの姿がった。
《よく耐えたわスピカ! やっと……やっと夜よ!!》
(うん、きれいな星空……)
煌めく粒子を撒き散らしながら、星の輝く瞳でイアンを見据えるスピカ。不敵に笑みを浮かべると剣を構え口を開く。
「ここからは、私のターンだね!」
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