22話:襲撃者との戦い ~亜人達の決意~
※2019/10/18 タイトルを修正しました。
亜人達で賑わう村の中心部。隊長こと獣人のフェルナンドと、部下の獣人五名が集まっていた。
「装備の点検は怠るなよ、万が一に備えて準備をしておけ」
「はいっ、隊長」
時刻は昼過ぎ。これから狩りへ出かける獣人達は、出発前の準備に勤しんでいた。狩りに使う道具を広げ、一つ一つ丁寧に確認をしていく獣人達。そこへ、良く通る声が掛けられる。
「隊長、今から狩り?」
「スピカか、見ての通りだ」
ふらりと現れたスピカに、広げた道具を見せるフェルナンド。そのまま探るような目つきでスピカを見る。
「スピカも一緒に行くか? ……って、聞くまでもなかったな。その格好で狩りに行くなどとは言うまい」
「うん、今日は村で留守番だよ」
フェルナンドの問いに笑顔で答えるスピカは、ノースリーブのブラウスに八分丈ほどのワイドパンツという、明らかに狩りにはそぐわない装いだ。かろうじて腰に剣を下げているが、それでも森の中で狩りを行うのには大いに準備不足だろう。
《今日はマイヤのところに行くのよね》
(そうだよ、頼んでたものがあるから受け取りにね)
獣人達の準備を眺めながらトレミィと会話していると、後ろから声を掛けられる。
「あら、スピカ様ではありませんか」
「スピカ殿、丁度いいところに。村の警備のことで相談したかったのだ」
振り向くと、ジャンルーカとジェルミーナが並んで歩いてくるところだった。
最初期から村に住む亜人として、新しい住人の手助けや住人達の役割決めなど、村の発展に努めてきたジャンルーカは、今ではすっかり村のリーダーとなっていた。また、女達のまとめ役として精力的に動き回るジェルミーナ。そんな二人の姿を見て近くにいた亜人達が挨拶をする。
「ジャンルーカ、すっかりリーダーだね」
「そんな大したものではない。それより村の警備のことだ」
「うーん……そういうのは皆で勝手に決めてくれていいんだけどな」
《ちょっと、スピカも村の住人なんだからもっとちゃんと考えてあげなさいよ》
(えー……だって面動だし……)
「うむ……そういう訳にもいかないのだが……」
困り顔を浮かべるジャンルーカを他所に、無責任な考えを巡らせるスピカ。そうこうしているうちに準備の整った獣人達が立ち上がる。獣人達を集め、フェルナンドが狩りの出発を告げようとしたその時。
「隊長! 隊長ーー!!」
突然響く叫び声。村の入り口方向から聞こえるその声に一同が視線を向ける。走り寄って来るのは、周辺の偵察に出ていた獣人の少年だった。
「どうした?」
「隊長! 大変ですっ、大変なんです!」
「落ち着け! 何かあったのならゆっくり話してみろ」
フェルナンドの言葉に深呼吸をする獣人の少年。「ふぅっ」と息を整えると、スピカやジャンルーカにも聞こえる様大きく口を開く。
「人間がこちらに向かってきています!」
「なにっ!?」
「人間だって?」
「人間が来るって言ったわよ!」
少年の報告に騒めく亜人達。ジャンルーカが亜人達を落ち着かせている中、フェルナンドが詳しい状況を聞き出す。
「数はどれくらいだ?」
「九人でした」
「敵かどうか見分けは着いたか?」
「はっきりとは……でも恰好からして勇者だと思います」
「どれくらいでこの村に着く?」
「十分もかからず着くと思います」
少年の報告に思案するフェルナンド。数秒目を閉じ何かを考えると、開いた眼をジャンルーカに向ける。
「ジャンルーカ、今聞いた通り人間が近づいてきているらしい。それも勇者だ、十中八九俺達亜人を狙ってきている」
「あぁ、分かっている」
「どうするか、お前が決めるんだ」
フェルナンドの言葉に目を見開くジャンルーカ。
「お前はこの村のリーダーだ、少なくとも俺はそう認めている。おそらくこの村の者達も皆同じ思いだろう。だからどうするのか、どうしたいのかお前が決めろ」
「なっ……私は……」
「幸い俺達は狩りに行く直前だった、人間が来てもすぐに戦うことが出来る。しかし、俺の一存で決める訳にはいかない。だがリーダーのお前が言うなら皆従うだろう」
言葉を詰まらせるジャンルーカ。そこへ周りで話を聞いていた亜人達からも声が上がる。
「あぁ……ジャンルーカさんの判断なら……」
「そうね、ジャンルーカさんが言うなら従うわ」
「そうだな、僕たちのリーダーはジャンルーカさんだ」
亜人達の言葉に益々目を見開くジャンルーカ。そんなジャンルーカへ妹ジェルミーナからも声が掛けられる。
「皆様の言う通りです。お兄様は私達のリーダなのですから、お兄様の判断を信じます」
ジェルミーナの言葉を聞きゆっくりと頷くジャンルーカ。そして、周りによく聞こえる様に声を上げる。
「分かった、では皆のリーダーとして言おう。私はこの村が好きだ! 皆で作り上げてきたこの村が好きだ!だから守りたい、人間などに好き勝手にされる訳にはいかない! 私は……いや、私達は人間と戦おうと思う。村を守るため、皆の力を貸してほしい!!」
「ああ!」
「もちろんだ!」
「ジャンルーカさんならそう言うと思ってた!」
ジャンルーカの言葉に活気付く亜人達。フェルナンドは小さく頷くと配下の獣人達に命令を下す。
「聞いた通りだお前達、狩りは中止! 直ちに村の入り口で迎撃態勢を取れ!!」
「はいっ」
「任せてくださいよ隊長!」
「人間なんか返り討ちにしてやるわっ」
素早い動きで村の入り口に向かう獣人達。その姿を見ながらジャンルーカはジェルミーナに指示を伝える。
「ジェルミ、お前は女性や子供達を集めて村の奥に隠れていてくれ。私も戦うが、万が一があれば速やかに裏手の森に逃げ込むんだ、分かったな」
指示を聞き一瞬躊躇う様な表情を浮かべるジェルミーナ。しかし、すぐに頷くとジャンルーカの手を握りながら答える。
「分かりました、無事を祈っています」
「ああ」
短く言葉を交わした後、ジェルミーナはその場にいた女性の亜人達と手分けし、村中に状況を伝えに行った。
「強い娘だな……彼女は……」
「ああ、自分に出来ることを理解し冷静に動いてくれている。私にはもったいない妹だ……」
ジェルミーナの姿を見送りながらそんな会話をするジャンルーカとフェルナンド。その様子を眺めながらスピカは考える。
(うーん……どうするべきなんだろう?)
《スピカはどうしたいの?》
(私はどうしたいとかは思わないかな、危害が加えられたら排除するけど。トレミィはどうして欲しい?)
《私は……私は皆を助けたいわ! 彼らは私の信者なのだから、彼らを守るのは神である私の務めだと思う、だから……》
(そっか……)
トレミィの答えに満足そうに笑みを浮かべるスピカ。腰の剣をさすりながらジャンルーカの元へ歩み寄る。
「私も戦うよ」
「スピカ殿、良いのか? 相手は人間だ、スピカ殿が逃げても私達は恨んだりはしないが……」
「いーのいーの! 亜人とか人間とかそんなの興味ないし。私だってこの村の住人なんだから、それに……」
ニヤリと笑みを浮かべると、ジャンルーカとフェルナンドを指差す。
「二人も、村の皆も。邪神の信者だから。だから私が守らないとね!」
「「……守る?」」
スピカの言葉に一瞬怪訝な表情を浮かべる二人。しかし、スピカがさっさと村の入り口に向かってしまうのを見て、慌てて追いかける。
《スピカ……》
(ふふっ、私は邪神の勇者なんだから、当たり前だよ!)
《くすっ、そうね! 流石は私の勇者ってところかしらね!》
数分後、村の入り口では亜人達が迎撃の体制を取っていた。
剣を構える獣人達。杖を持ったエルフはすぐに魔法を発動できる様に構えている。中央ではナイフを手にしたジャンルーカと、険しい表情で正面を見据えるフェルナンドが立っている。
その少し後ろ、プルートと共に後方から様子を見ていたスピカ。そこへジャンルーカの声が響く。
「来たぞ!」
ゆっくりと近づいてくる勇者達。村の様子に気付き足を止めると、亜人達の姿を見て唇を吊り上げるのだった。
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