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20話:ジャンルーカの思い

※2019/10/13 表記方法を修正しました。

 私の名はジャンルーカ


 大陸西方部に位置する、邪神が支配しているとされる土地。そこにある小さな村で暮らしている。


 エルフである私は、元々は大陸中央部にあるエルフの里に住んでおり、得意の風魔法を武器に里の警備を任されていた。しかし、人間に攫われた妹を助け出すため里を飛び出し、紆余曲折あって今はこの村に住んでいる。


 ここは不思議な村だ。この世界では亜人は人間に迫害されており、どこへ行っても肩身の狭い思いをしなければならない。しかし、ここではそんな亜人達がのびのびと暮らしている。


 食べ物に恵まれ、人間に苦しめられることもなく、皆が助け合いながら暮らすことが出来ている。


 人間の街では。いや、里にいた頃でもこんなにも穏やかに暮らすことは出来なかった。里の外には常に人間の姿があり、いつも怯えながら暮らしていた。しかし、ここへ来てからはとても穏やかな生活を送ることが出来ていた。


 村に住み始めて三週間。初めは私と、私が連れてきた亜人達だけが住む寂れた村だったが、日を追うごとに住人が増えていた。エルフ・ドワーフ・ハーフリング・獣人。種族は違うが、私達と同じような境遇の亜人達だ。


 訪れてくる亜人達が、皆同じ様に苦しんできた者達だと知り、私は彼らを村の住人として受け入れることにした。


 元々、私は誰かが困っていたり苦しんでいると放ってはおけない性格なのだろう。妹と共に捕まっていた女性達を助けた時、苦しむ彼女たちを見て、後先など考えず助け出す決断をしたのを覚えている。


 村を訪れる亜人達に対しても同じ気持ちだ。崩れかけの廃屋ばかりだが何とか住める場所を提供し、傷ついた亜人達が落ち着いて暮らせる様サポートした。


 村での生活に落ち着いてくると、各々何が出来るのか、何が得意なのかを聞いて回り、住人の中で役割分担を決めた。


 住人同士でいざこざが起きれば、私が間に入り中を取り持った。そして、同じ様ないざこざが起きない様、ルールを作ることもした。


 そうしているうちに、私は皆から村のリーダーと呼ばれる様になっていた。


 私はそんな大した者ではないと伝えた。しかし、皆は私がリーダーだと言って譲らなかった。これまで彼らに行ってきたことに対して、何度も感謝の言葉を告げられた。感謝される様なことはしていないと伝えたが、それでも感謝の言葉は尽きなかった。


 そんな住人達を見ていると、気恥ずかしくはあったが心が温かくなるのを感じた。人間たちの手から彼らを守りたい、この村を守りたいと心から思う様になった。


 人間と言えば、この村には一人だけ人間が住んでいる。私達よりも先にこの村に住んでいた人間の少女、スピカ殿だ。


 彼女はとても不思議な人間だ。初め、私達がこの村を訪れた時には、すでに一人で荒れ果てたこの村に住んでいた。邪神が支配しているとされている地にたった一人でだ。


 人間である彼女に警戒心を抱いた私は彼女を殺そうとしたが、あっさりとあしらわれてしまった。私は戦い、そして負けた。殺されて当然だと思った。しかし、彼女は私を殺さなかった。それどころか、私達を追ってきた人間の勇者達から私を救ってくれたのだ。


 勇者達との会話から、彼女もまた勇者であると分かった。しかし、彼女はどこまでも勇者とはかけ離れた存在に思えた。同じ人間である勇者達に敵対し、亜人である私達を受け入れ、邪神の土地で一人暮らしている。強力な魔物であるはずのガルムを、まるでペットの様に従えているのを見た時は本当に驚いた。


 私達が行くあてもなく困っていることを告げると、衣食住の協力をすることと、邪神を信仰することを条件に、村に住むことを許可してくれた。初めは生贄にでもされるのではないかと心配したが、毎日感謝を捧げるだけで良いとのことだった。なぜそんな条件をつけるのか、彼女は自信のことをほとんど話さないため、その真意は測りかねるが、新しい住人達にも邪神を信仰する様に言い回っているところを見ると、彼女にとっては大事なことなのだろうと思う。


 邪神という存在。生き物を寄せ付けないほどの瘴気を生み出していた邪悪な存在。そんなものを信仰することになり、当初こそ色々と勘ぐった私達だった。しかし、今の平和な村を見ていると、私達は本当に邪神に守られているのでは、と思うことも増えてきた。


 彼女のおかげもあって、亜人達が平和に暮らすことが出来ている。そう考えると彼女への感謝の思いは尽きない。


 時折何かを考える様に突然黙り込むことがあるが、基本的には明るくさっぱりとした性格の彼女。住人皆の人気者だ。亜人達の誰一人、人間である彼女の事を悪く言う者はいない。


 妹であるジェルミーナは、特に彼女に特に入れ込んでいる様だ。時間を見つけては一緒に過ごそうとし、彼女を見る目付きはどこか熱を帯びている様に感じる。彼女が戦いの際に見せる凛々しい姿に憧れを抱いているのだろうか。あの入れ込み様を見ていると、妹は彼女に対して懸想しているだろうか?と少し不安になる時もあるが、その辺りはあまり考えない様にしている。


 現在村には、スピカ殿を加え四十人にも及ぼうかという住人が住んでいる。


 安心して暮らせる様になったとはいえ、まだまだ懸念事項は尽きない。


 村から少し離れれば魔物の姿を見ることも多い。いつ人間がここまでやってくるかも分からない。最近では、近くの森で謎の人影を見たという情報もある。金色の頭をした小さな人影は、こちらの気配に気付くと逃げるように姿を消してしまったそうだ。正体は分からないが、私たちの敵という可能性も十分にある。


 私達はまだまだ弱い、これからもたくさんの困難にぶつかるだろう。だが、亜人達が平和に暮らせる村を作ること、人間に迫害されない場所を作ることが、今の私の目標だ。


 亜人たちが平和に暮らせる場所を作ってみせる。私は一人そう誓うのだった。

ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。


また、ブックマークやpt評価、感想も是非によろしくお願いします。

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