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19話:衣・食・住の "住" のお話

※2019/10/18 表記方法を修正しました。

 どんよりと雲に覆われた空。


 太陽が真上を通る時間帯だが、分厚い雲に阻まれその日差しが地上に届くことはない。


《今日は雨が降りそうね……》


(そうだね、もうびちょびちょは嫌だね)


 そんな薄暗い空の下。スピカはとある場所を目指し歩いていた。


《そう考えるとちょうど良いタイミングだったわね》


(うん、今夜はぐっすり眠りたいな)


 二人が目指す場所。それは、村の西端にあるスピカのオブジェハウスから、やや南方向に位置する空き地である。今朝狩りに出かける際、とある住人から呼び止められ、昼頃そこに来る様に呼ばれていたのである。


(この辺だよね……)


「おうっ、嬢ちゃん! こっちだこっち!」


 キョロキョロと辺りを見回していると、野太い声が掛けられる。声のする方を見ると、ずんぐりとした体形の男性がスピカに向かって手を振っていた。


 ガッハッハと豪快に笑うその男。身長1.4メートルほどの小柄な体格だが、その太い手足は筋骨隆々といった様相だ。堀の深い顔立ちに、もっさりと伸びた褐色の髪と髭が特徴の、ドワーフという種族の男である。


「親方! ちょっと遅くなっちゃった」


「おう、構わんわい! それよりこいつだ!」


 ドスドスと足を鳴らし歩くドワーフの"親方"ことオイゲンは、空き地に建った一つの家を指差す。一見すると簡素な平屋の家だが、しっかりとした木の枠組みに、土魔法で作られた壁。要所要所に石材も使われており、丈夫な造りなのが見て取れる。


「どうだい嬢ちゃん! 一からの建設だったから少し時間が掛かっちまったが、会心の出来だ!! 嬢ちゃんの要望にも全部応えてるぜ」


「凄い! これが私のお家……」


《良いじゃない、少なくとも今の家と比べたら段違いよ!》


(……今の家だって結構良い出来だもん……)


 トレミィの感想に口をとがらせるスピカ。


 スピカが呼ばれた理由、それはかねてより要望していた新しい家のお披露目の為であった。実はスピカ、亜人達が住み始めてからも自作のオブジェハウスに住み続けていたのだ。


 当初は亜人達で改築をする予定だったのだが、次々に住人が増えたことで後回しになっていたのである。スピカ自身も「雨が降らなければ大丈夫」という理由で家の改築を後回しにしていたのだ。


 そんな時村を訪れたのが、"親方"ことオイゲンだった。


 元々ドワーフの集落で、得意の土魔法を活かし集落の建造に携わっていたオイゲン。しかし、幼馴染であり今の妻でもあるドワーフの女性、ベッティーナが人間に攫われたことで、ベッティーナを追い集落を飛び出したのだ。


 その後、一度はベッティーナを取り返すことに成功するも、オイゲン自身も人間に捕まってしまい、ベッティーナと共に砦建設の奴隷として働かされていたのである。


 しばらくはそこでおとなしく働いていたオイゲンだったが、休みなく働かされる過酷な労働環境にベッティーナが倒れたことで脱出を決意。土魔法を使い秘密裏に抜け出すと、亜人達の間で噂となっていたこの村を訪れたのである。


 そうしてベッティーナを連れ村へやってきたのが二週間ほど前。初めはベッティーナの看病に掛かりきりだったが、体調が戻ると、何か仕事は無いかと申し出たのだ。


 そこで、スピカの家事情についてジャンルーカから話を聞いたオイゲンは、急ピッチで家の建築に取り掛かったという訳である。


「でもわざわざ新しく建ててくれなくても良かったのに……」


「何言ってやがる、嬢ちゃん達は女房の恩人だぜ? 下手な家には住まわせられねぇやな!」


「旦那の言う通りさ、スピカちゃん達には本当に感謝してるんだ」


 家の方を向くと、玄関の戸を開け出てくるベッティーナの姿があった。


「内装は私も手伝ったんだ。さあ、中も見ておくれよ!」


「うんっ、ありがとう親方! ベッティーナも!」


「よせやい、照れるぜ……」


 屈託のないスピカの笑顔に、恥ずかしそうにポリポリと頬を掻くオイゲンだった。



★ ★ ★ ★ ★ ★



 家の中は二部屋のみのシンプルな構造だった。


 玄関を入ってすぐの部屋は六畳ほどの居間である。木製のテーブルとイスが用意されており、2~3人程度なら食事が出来るスペースが用意されている。また、小さな台所があり料理も出来る様になっていた。


「家具まで用意してくれたんだ!」


「私は家具作りが得意だからね、余った木材でちゃちゃっと用意してみたんだよ。気に入って貰えたら嬉しいね」


「うん、とっても良い感じ!ありがとう!」


 滑らかな手触りのテーブルをさすりながらお礼を言うスピカ。ベッティーナは笑顔のまま隣の部屋の扉を開ける。


「こっちが寝室だよ、さあ見ておくれ!」


 扉の先には、こちらも六畳ほどの寝室がある。一人用のベッドにはきれいなシーツが敷かれており、スピカのために用意してくれたものだとすぐに分かる。


 また、大きめのタンスも設置されており。先日大量に貰った衣類も収納できるようになっていた。


「ベッドとタンスも用意してくれたの?」


「シーツはマイヤのところで準備してもらったのさ。その時にマイヤから話を聞いてね、スピカちゃん大量に服を貰ったんだって?それでタンスもいるだろうと思って準備したんだよ」


「うん! どうしようか困ってたんだ、助かるよ」


 一通り部屋を眺めた後、ベッドに腰かけるスピカ。そのまま大きく伸びをするとごろんと横になる。


(気持ちいい~、こんな家貰っちゃうなんて、幸せ~)


《良かったわね、でもちょっとはしたないわよ》


 ガバッと足を開いたままゴロゴロと転がるスピカ。そこへオイゲンが顔を覗かせる。


「どうだい嬢ちゃん? 注文通りの良い家だろ、っておい! なんて格好してやがる!?」


「アンタ! 外出てな!!」


 ベッティーナにキッと睨まれてすごすごと引き下がるオイゲン。オイゲンが外に出たのを確認すると、スピカの方を向き直る。


「スピカちゃんも、もうちょっと女の子らしくしな。せっかくのべっぴんさんなんだから」


「そうかな? べっぴんさんじゃないと思うけど……」


《スピカ……あなたはもう少し自分の容姿を自覚した方が良いわよ……》


(うーん……よく分かんない……)


《本当に戦闘以外は何もかも疎いのね……》


「それとスピカちゃん、外にも用意したものがあるからおいで」


 ベッドの上でボーっとしていると、ベッティーナに呼ばれる。そのまま外に出て家の裏手に回ると、家とは別に小さな小屋が建っていた。


「これは?」


「こっちの扉がトイレで、煙突が出てる方の扉がお風呂だよ。スピカちゃん全然お風呂に入らないんだって?これからはちゃんと入るんだよ?」


 そう言いながら扉を開けて見せるベッティーナ。中には汲み取り式の簡単なトイレが、そして、金属製の縦長の容器があった。


「お風呂の方は薪をくべないと湯が沸かせないからね、水は向こうの井戸から持ってくるんだよ。使い方は分かるかい?」


「全然分かんない」


「じゃあ一通り教えてあげようかね、今日の狩りはもう終わりかい?」


「ちょっと待ってね、プルーートーー!!」


 大きく声を張り上げるスピカ。少しすると遠くから軽快な足音が聞こえてくる。


「ガフッガフッ」


 勢いよく駆けてきたプルートは、スピカの前まで来るとお座りの体制を取る。そんなプルートの頭を撫でながらプルートに狩りの状況を尋ねる。


「今日の狩りはもう終わりだよね? 皆はもう帰ってきてる?」


「ガルゥッ」


 肯定の意を込めて頷くプルート、その目が新居の方を向き止まる。


「そうだ、プルートにも紹介するね。今日からここが私のお家になりました! 凄いでしょー」


「ガウゥッ ガウゥッ」


 ブンブンと首を縦に振るプルート。そんなプルートの様子に気を良くするスピカ、ふととある提案が頭に浮かぶ。


「そうだ! 私は今日からここに引っ越すから、今のお家はプルートにあげるよ!」


「「「!?」」」


 プルートだけでなく、オイゲンとベッティーナも目を丸くして驚くが、気付く様子のないスピカはニコニコと笑顔を浮かべながら続ける。


「プルートも雨に濡れるのは嫌だもんね? あのお家も良く出来てると思うから、今日からプルートにあげるよ、嬉しい?」


「キャヤィ……キャヤヤアィィン……!?」


 引きつった声を上げるプルート。スピカに抱きしめられ身動きが取れず、必死に目で助けを求めるが。


「それは……あんまりだぜ……嬢ちゃん……」


「スピカちゃん……こういうところが残念な娘ね……」


《スピカ……さすがにちょっとプルートが可哀そうに思えてきたわ……》


 そっと目を逸らし、ぼそりと呟くオイゲンとベッティーナ(とトレミィ)。それを見て絶望の表情を浮かべるプルート。


 そんな中、一人無邪気な笑顔を浮かべるスピカだった。

ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。


また、ブックマークやpt評価、感想も是非によろしくお願いします。

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