16話:破壊力
※2019/10/18 表記方法を修正しました。
暖かい日差しが差し込む、ぽかぽかとした陽気な昼下がり。
村は数多くの亜人達で賑わいを見せていた。家事に勤しむ者、狩りの成果に喜ぶ者、中には路上で何かを売っている者の姿も見受けられる。
ジャンルーカ達が村に住み始めてから三週間。村にはジャンルーカ達以外の亜人が続々と訪れていた。
大半が人間に追われてきた者や、人間から迫害を受けて苦しい思いをしてきた者達で、救いを求める様にこの村を訪れているのである。
どうやら街まで逃げ帰ったアランが、この村での出来事を言い触らして回っている様だった。
人間からしてみれば忌むべき内容の話だが、亜人達からしてみれば人間の脅威から逃れられる。そんな土地が目の前に降って湧いた様な話だったのだろう。
その噂を聞き、村を訪れてきた亜人が、今では四十人にも及ぼうとしていた。
エルフに獣人、ハーフリング、ドワーフと、数多くの亜人が今ではこの村の住人となっている。
そんな彼等、彼女等に対して、スピカはジャンルーカ達と同様に、生活面での協力と、邪神の信者となることを条件に、村に住むことを許可していた。
最初は戸惑った亜人達。特に邪神を信仰するという条件に難色を示す者も多かったが、村に住んでいる住人たちの様子を見て、また、ジェルミーナが丁寧に会話を重ね不安を払拭していったことで、心を許しこの村の住人となっていった。
また、亜人達に最も衝撃を与えたのがプルートの存在だった。凶悪な見た目に威圧感のある巨体。その姿を見た亜人達は恐怖に震え、中には失神する者もいた。
しかし、以外にも最初に打ち解けたのは子供達だった。楽しそうにプルートと戯れるスピカを見て、自分も触ってみたいと近づいてきたのだ。おとなしくするプルートにすっかり気を許し戯れる子供たちを見て、大人たちも次第に警戒心を解いていった。
今ではすっかり村の一員として認知され、子供たちの人気者となったプルートであった。
三週間前までは廃屋が連なるだけの寂れた廃村だったこの村も、もはや廃村ではなく立派に村と呼べるものとなっている。
ドワーフの手により廃屋は再建され、狩猟が得意な獣人と、植物に詳しいエルフによって食生活は一変。手先の器用なハーフリング達により生活に必要な物は概ね充足していた。
亜人達の協力で豊かになってゆく村の生活。そこには、人間から解放され心からの笑顔を見せる亜人達の姿があった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
夜
うっすらと雲がかかった夜空の下。湯船に浸かるスピカの姿があった。
村から少し離れた空き地を利用し、ドワーフに作ってもらった大窯を設置。水魔法で水を張り、火魔法でお湯を焚いた、即席の露天風呂を堪能しているのである。
「あーー、気持ち良いいいぃぃぃーー」
天を仰ぎながら声を上げるスピカ。窯から手と足を投げ出し、だらけきった格好でくつろいでいる。
《スピカ……だらしないわよ……》
(え~、誰も見てないからいいじゃない~)
《私が見てるわよ、それに女の子なんだからもうちょっと慎ましやかにした方が良いわ》
(女の子なんて言われる柄じゃないよ。それに、どれくらい振りか分からないお風呂なんだもん、思いっきりくつろがないとね)
実はスピカ、神託を受けて以来一度もお風呂に入っていなかったのである。体が洗えなくても死なないからと適当に過ごし続け、体が汚れれば、雨の日に外でバシャバシャと水を浴びる生活を送っていたのだ。
しかし、いい加減お風呂に入ってほしいとジェルミーナから衛生面で指摘を受け、急遽こうしてお風呂に浸かっているのだ。
(こんなに気持ちよくお風呂に入ったの、生まれて初めてだよ~。小さいころはドブ川の水しかなかったから……)
昔を思い出すスピカだったが、それを聞いたトレミィは震える声を上げる。
《うぅ……苦労したのねスピカ……》
(トレミィ、また泣いちゃってるよ?)
《な゛い゛て゛な゛い゛わ゛よ゛ぉー》
だみ声で答えるトレミィ。そんなトレミィとの会話を楽しんでいたスピカは、ブランブランと放り出していた足を引っ込めると、勢いよくザバッと立ち上がる。
「あー、気持ち良すぎるーー!!」
《誰かに見られても知らないわよ》
素っ裸のまま大きく伸びをするスピカ。そこへ慌てた様に声を上げながらジェルミーナが駆け寄ってくる。
「スピカ様!? 何をしているのですか! 外で女性が肌を晒すなど……はしたないです!」
「でも誰も見てないよ?」
「そういう問題ではありません!!」
そう言うと持っていたタオルをスピカに手渡す。亜麻布の気持ち良い手触りに頬を緩めるスピカ。
「ニヤニヤしていないで! 早くお体を拭いて服を着てください!」
ジェルミーナの手には折りたたまれた白い服が重ねらている。わざわざ届けに来てくれたのだろう。
「分かった分かったよ」
そう言いながら渡されたタオルで水気を取っていくスピカ。ジェルミーナの目など気にも留めず大胆に体を拭いていくスピカに、顔を赤くし後ろを向くジェルミーナ。
そのままそわそわと待っていると、スピカから声を掛けれらる。
「そう言えば私の着てた服、洗ってくれてるんだよね? すごく汚れてたでしょ?」
「はい、女達が洗っております、確かに少し汚れていましたが……」
スピカの問いに、言葉を濁すジェルミーナ。
「気を使わなくていいよ。あれすっごく臭かったでしょ? ずーっと着っぱなしだったし、血やら何やらがたくさん染みついてたからね」
「そ……そうですね……かなり……何やら赤黒いものがこびり付いておりまして……」
「それは血反吐だと思うよ」
血反吐と聞き若干顔を青くするジェルミーナ。そうしている間にすっかり水気を取ったスピカは、手渡された服を着て満足気な声を上げる。
「わぁ、良い感じ! これ本当に貰ってもいいの?」
「はい、スピカ様のために用意したものですので」
《へぇ、中々似合ってるじゃない。動きやすそうで良いわよそれ》
(へへぇ、そうかな? ありがと)
亜麻布で作られた、白を基調とした服に身を包んだスピカ。ノースリーブのブラウスは、ボタンの無いシンプルなデザインで涼しげな印象を与える。八分丈ほどのワイドパンツはゆったりとした動きやすそうな印象だ。
「良くお似合いですスピカ様! それにしても……」
ジェルミーナの目線が一点に集中する。薄手なブラウスの上からだと良く分かる、十五歳にしては発育の良いスピカの胸元へ。
「ずいぶんと……その……立派なものをお持ちで……」
なだらかな自分の胸元と、起伏のあるスピカの胸元を交互に眺め、沈んだ声を上げるジェルミーナ。
「そうかな? それにしてもこの服! 肌触り良くて気持ちいいね!!」
「!! ダメですぅっ」
胸を張り大きく伸びをするスピカ。ぐっと押し出された張りのある形の良い胸は、ブラウスの上からでもその形が良く分かってしまう。そんなスピカを見て、慌てて抑えにかかるジェルミーナ。
「おわ!? どうしたの?」
「それはダメです! 破壊力が強すぎます!!」
スピカの肩にタオルを掛けるジェルミーナ。
《そうね……今のは中々の破壊力だったわね……》
(破壊力……?)
益々顔を赤くするジェルミーナと、恥ずかしそうな声を上げるトレミィ。
そんな中、無自覚な色気を振りまくスピカは、一人小首を傾げるのだった。
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