14話:招かれざる客 ~邪悪な勇者~
※2019/10/18 タイトル変更しました。
※残酷な描写があります、ご注意ください※
剣と剣のぶつかり合う音が響く。
鋭く振り抜かれるアランの剣と、モーガンの豪剣を一手に受けるスピカは、紙一重のタイミングで二本の剣を捌きながら、縦横無尽に走り回っていた。
位置取りや剣を受けるタイミングを絶妙に調整することで、二人同時に攻撃されない様、立ち回っているのである。
また、常にアランかモーガンをラッセルとの間で壁にすることで、ラッセルからの魔法攻撃を抑止していた。
三対一にも関わらず、見事な立ち回りを見せるスピカに、見守っていたジャンルーカや亜人達が感嘆の声を漏らす。
しかし、男達からしてみれば面白くない状況に、苛立ちの声が上がる。
「おい! さっさと止めを刺せ!」
「黙ってろ! すぐに殺す!!」
「お前たちが邪魔だ、魔法が打てない!」
「俺がやる、下がってろ!」
「何っ!?」
次第に仲間割れを始める男達。それを見ながらスピカは冷静に頭を巡らせる。
(うーん……このくらいの攻撃ならいつまででも躱せるけど、だんだん面倒になってきた)
《だったらさっさと反撃すればいいじゃない?》
(反撃すると足を止めなきゃいけないから、そうすると狙い撃ちされちゃうよ)
《じゃあどうするのよ?》
(そうだね……じゃあ……)
戦闘中にもかかわらず余裕で会話するスピカは、思考を切ると口を開く。
「勇者としての、本来の役目を果たして貰おうかな?」
ポソリと放った言葉。その言葉を聞き取ったアランが剣を止める。
「何? 今何と言った?」
アランが動きを止めたのを見て、モーガンとラッセルも動きを止める。
「勇者としての、本来の役目を果たして貰おうって言ったの」
「……本来の役目だと?」
「そう、本来の役目」
怪訝な表情を浮かべる男達。そんな男たちを無視し、大きく息を吸い込むと。
「プルーートーー! おいでーーーー!!」
遠く響き渡る声を上げるスピカ。
益々怪訝な表情を浮かべる男達と、何事かと顔を見合わせる亜人達。しかし直後、その視線が一点に釘付けとなる。
廃屋の陰から姿を現したもの、それは紛れもなく魔物の姿。漆黒の巨体をゆらゆらと揺らしながら、ゆっくりとこちらに近づいてくるプルート。その姿を見て亜人達から悲鳴の声が上がる。
「ひぃっ」
「まっ魔物!?」
「いやぁっ、助けて!!」
そして、男達からもまた驚愕の声が上がる。
「なっ、何だ!?」
「おい! 魔物だっ」
「何でこんなところに!? でかいぞ!」
じりじりと距離を詰めるプルートに、気圧され後退していく男達。そんな男達を見ながら、一人余裕のスピカが声を上げる。
「ほら、魔物が出たよ? 勇者なんだから早く戦わないと」
「は? え?」
スピカの言葉に一瞬理解が追いつかない男達。しかし、我に返ったアランが、呆けたままのモーガンとラッセルに活を入れる。
「お前ら! 早く剣を構えろ!!」
「あっ、あぁ……」
「でもアラン、こんな……こんな魔物……」
反射的に剣を構えるモーガン。しかし、その手は恐怖に震えている。
ラッセルに至っては震え上がり動けずにいた。ただ一人、アランだけがしっかりと剣を構えプルートと相対している。
《良いわ! 良いわよプルート! そんな奴ら丸呑みにしちゃいなさい!!》
(あんな連中丸呑みにしたらプルートがお腹壊しちゃうよ?)
一人盛り上がるトレミィに苦笑いを浮かべながら、プルートに向けて声を張り上げる。
「プルート! その人間たちが遊んでくれるんだって!」
「ガルゥ!」
「なっ、何なんだ? 何なんだよお前は!?」
疑問の声を上げるアランだったが、それを無視してプルートに命令を出すスピカ。
「逃がさないようにね! それから、まだ殺すのは駄目だよ!」
「ガルルゥ!」
嬉しそうに首を振るプルート。
直後、声を張り上げ気合を入れたアランが、大きく振りかぶりながらプルートに突撃していく。
「くそおあああぁぁぁぁっっ!!」
気迫の一撃。しかし、振り下ろされた剣はプルートの毛に阻まれ、中ほどからあっけなく折れてしまう。
「なっ、クソ!」
悪態を吐きつつ後ろに下がると、モーガンとラッセルに呼びかける。
「モーガン! お前も戦え! ラッセルも早く魔法を打て!」
「いや、しかし……」
「わああぁぁっ!!」
プルートに威圧され動けないモーガン。一方のラッセルは、過呼吸気味になりながらも絶叫を上げ火球を放つ。
しかし、その火球もプルートの毛に阻まれ霧散してしまう。絶望的な戦力差に呆然とする男達だったが、プルートが動き出したことで再び我に返る。
「うあぁ! 来るな!!」
モーガンに向かい駆け出すプルート。恐怖に駆られたモーガンは闇雲に剣を振るうが、前足で簡単に弾き飛ばされてしまう。
そのまま体当たりされたモーガンは、凄まじい勢いで地面をバウンドし、壊れたおもちゃのように動かなくなる。
「モーガン!」
ピクピクと痙攣を繰り返すモーガン。駆け付けたアランが必死で声を掛けると、徐々に意識を取り戻す。しかし、まともに戦闘が出来る状態でないことは一目瞭然である。
腕や足は歪に折れ曲がり、体のいたるところから血が噴き出している。うめき声を上げているが、言葉になっていない。
黙ってその様子を見ていたスピカだったが、おもむろにプルートに声を掛ける。
「そういえばプルート、お昼ご飯がまだだったね?」
そう言うと、ゆっくりとモーガンを指差す。
「その人間、食べて良いよ。でも良く噛んで食べること、わかった?」
「ガウッ!」
「なっ、何を!」
スピカの言葉に大きく返事をするプルート。ギョッして固まるアランを押しのけると、モーガンの頭をくわえ込む。
「モーガンッ!!」
アランの声に反応したのか、薄く目を開けるモーガン。震える唇をゆっくりと開くが。
「ぁ……母さ……」
ゴリュッ……ガリリッ
耳障りな音を立て、あっけなくその頭部をプルートの大顎に噛み砕かれる。
「そんな……モーガン……」
見る間に噛み砕かれてゆくモーガン。呆然とするアランとラッセルに視線を向けたスピカは、今度はラッセルを指差す。
「プルート! 次はそっちの人間だよ」
スピカの言葉に「ひぃっ」と悲鳴を上げるラッセル。
「その人間、両腕だけ食べて良いよ。でもちゃんと噛んで食べてね?」
言い終わるや否や、モーガンの死体を放り投げ駆け出すプルート。
半狂乱のラッセルは次々と火球を飛ばすが、まるで効果はなく、あっという間に距離を詰められる。
ラッセルが小さく悲鳴を上げた直後、グチェッと嫌な音を立て、突き出していた右腕が根元から食いちぎられる。
「アギャアアアァァァッ!!」
絶叫を上げるラッセル。あまりの激痛によろけているところへ、振り返り様のプルートが残った左腕に食らいつく。
スピカの指示を守り、何度も顎を上下させ良く噛んでから食いちぎるプルート。
両腕を失ったラッセルは、激痛にのたうちながら地面を転がる。
「あああぁイ……イいだァアアぁ……あぁ……ア……」
呻き苦しむラッセル。その光景に全身を硬直させるアレン。そこにスピカが声を掛ける。
「ねえ」
「っっっ!」
ビクリと体を震わせるアレン。その目には恐怖の感情が満ち満ちていた。口をパクパクとさせるアレンに剣を突き付けながらスピカが言う。
「勇者なのに魔物にやられちゃって残念だったね?」
「なっ……何なんだ……お前は……」
やっとの思いで絞り出した言葉、その言葉を聞きニイィと唇を吊り上げるスピカ。
「さぁ? アランの言った通り"邪悪な勇者"かな?」
そう言いながらツンッと切っ先で顎をつつく。
「分かった? 分かったらそれを拾ってさっさと帰って?」
地面に転がるラッセルを指すスピカ。口を開こうとするアレンだが、背後から聞こえるプルートの唸り声に震え上がると、倒れるラッセルに駆け寄る。
「あぁぁ……ぅ腕が……僕の腕が……いだいよぉ……」
「おい! 起きろ! 早くしろ!」
涙を流し地面を這いずるラッセルを無理やり立たせると、そのまま引きずるように元来た道を戻っていく。
ダラダラと血を流しながら必死に逃げてゆく男達。横ではプルートが食べ残したモーガンの死体を貪っている。そのおぞましい光景に言葉を失う亜人達。唯一スピカだけが満足そうな顔を浮かべていた。
《スピカ! 良くやったわーー!! って言いたいところだけど……中々えぐいことするわね……ちょっと引いちゃったわ……》
(そうかな? トレミィが《ゲッチャンゲッチャンにして地獄を味わわせろ》って言ったんだよ?)
《あ……そ、そうだったかしら……? ハハハ……》
乾いた声を上げるトレミィ。
(それに、私は邪悪な勇者らしいから、これくらいやってちょうど良いかなって)
《邪悪な勇者って……》
不満げな声のトレミィだが。
(良いじゃない、だって私は邪神の勇者なんだから!)
嬉しそうにニヤリと笑みを浮かべるスピカだった。
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