13話:招かれざる客 ~救済の対価~
※2019/10/18 タイトル変更しました。
姿勢を低くし、男たちに向かい駆けて行くジャンルーカ。勢いを殺さず一振り、逆手に持ち替え返す様にもう一振り、ナイフを振るう。
先ほどスピカとの戦闘で見せた魔法による風の刃、その刃が二筋、ナイフの軌道にあわせて駆け抜ける。廃屋を真っ二つに吹き飛ばすほどの威力、しかし、風の刃が迫る先でアランは不敵に笑みを浮かべる。
「それはもうネタが割れてるんだよ!」
そう言いながら身を屈めるアラン。そのまま体を捻り風の刃をやり過ごすと、何事もなかったかの様に再び剣を構える。
「何っ!?」
「お前、俺達から逃げる時も今の魔法を使っただろ? 同じ魔法を何度も食らってやるほどお人好しじゃないんでね」
苦々しい表情を浮かべるジャンルーカに対し、余裕の表情でそう告げるアラン。ジャンルーカが再びナイフを構えようとするが、大きく左から回り込む様にモーガンが迫る。
「おらぁ! 隙だらけだぜ!!」
突き出す様に剣を構え突進してくるモーガン。右手にナイフを持つジャンルーカは、ナイフによる迎撃が間に合わないと判断すると、左手を広げかざす様にモーガンに向ける。
直後、目に見えない風圧がジャンルーカの左手から放たれる。風の刃とは違う空気の砲弾、突進の勢いで防御が取れなかったモーガンはそのまま大きく吹き飛ばされる。
「ぐおぉ!!?」
「チッ、ナイフが無くても魔法が打てたか」
吹き飛ばされるモーガンを横目に、素早く切り込んでいくアラン。鋭く振り抜かれる刃を間一髪後方に躱したジャンルーカだったが、直後に右側から強い圧を感じる。
視線を向けた先、そこには先ほどのジャンルーカと同じ様に手をかざすラッセルの姿が。そして、その手から放たれた直径50センチほどもある火球が迫りくる光景があった。
姿勢を崩しつつも、魔法による風の壁を展開するジャンルーカ。どうにか火球を防ぐことに成功するが、至近距離での魔法のぶつかり合い、その爆風で転がるように吹き飛ばされるジャンルーカ。
「魔法が使えるのはお前だけじゃないんだよ!」
膝をつくジャンルーカに再度切り込むアラン。風の刃で応戦しつつ距離を保とうとするも、徐々に追い詰められていく。
《あの男達、以外に戦い慣れてるわね》
(五等級だけど一応勇者だからね、それなりに戦闘経験は積んでると思うよ)
後方で控えていたスピカとトレミィは、緊張感のない様子で戦いを観察していた。
《あの細身の男は魔法が使えるのね、威力は大したことないけど》
(うん、ラッセルは魔法が得意なの。逆にモーガンは魔法が全然使えないけど、かわりに力が強くて剣術も得意なの。アランは剣も魔法も使えるパーティリーダーって感じかな)
《魔法使いが二人もいるのね。そう言えばスピカは魔法が使えないのよね?》
(そうだよ)
魔法、それは人間・亜人・魔物、あらゆる生き物が使うことのできる万能の力である。
しかし、魔法を使うためには魔法の源となる"魔導力"と、それを魔法として発現するための力"魔法力"が必要となる。
魔導力が高くても魔法力が低ければ上手く魔法を使うことは出来ず、逆に魔法力が高くても魔導力が低ければ威力の低い魔法しか使うことは出来ない。
スピカは生まれつきこの魔法力が極端に低く、その為魔法を使うことが出来ずにいた。
(でも別に使えなくても良いけどね、なくても困らないし)
《そう……星の力に目覚めたんだから、魔法も使える様になればって思ったんだけど――》
「あっ」
トレミィの言葉を遮るようにスピカが声を上げる。視線の先ではラッセルの放った火球と、それより一回り小さいアランの放った火球に挟まれるジャンルーカの姿があった。
風の障壁を展開しながら炎の中を潜り抜けていくジャンルーカ、その体は所々に焦げ跡が残っている。膝をつき息を整えるが、そこへモーガンが襲い掛かる。
「さっきはやってくれたな!」
「っ!?」
上段から振り下ろされる剣をとっさにナイフで受ける。しかし、勢いの乗った剣に押され、ナイフを弾き飛ばされながらジャンルーカ自身も地面を転がる。
地面に手を付き動けないジャンルーカ、そこへアランがゆっくりと歩み寄る。
「あぁっ……お兄様っ、お兄様が!」
スピカの横では、痛々しい兄の姿を見たジェルミーナがボロボロと涙を流していた。嗚咽交じりの声で兄を呼んでいたジェルミーナだったが、不意にスピカと目が合う。
「あっ、あのっ、スピカ様!」
「うん?」
突然名前を呼ばれ疑問の表情を浮かべるスピカ。ジェルミーナはすがり付く様にスピカの服を掴むと、涙ながらに訴えてくる。
「お兄様を! お兄様をお助け下さい! このままではお兄様がぁ……」
最後は消え入りそうな声で訴えてくるジェルミーナ。しかし、スピカは興味無さ気な声で答える。
「えー……嫌だよ」
「っそんな! どうしてっ……どうして!」
「だって助ける理由が無いもの、ジャンルーカを助けたからって私に何か得がある訳でもないし。アラン達との間に入るのも面倒だし」
「あぁっ……お兄様ぁ……どうしたら……どうしたらぁ……」
スピカの言葉を聞き、泣き崩れるジェルミーナ。
(助けた方が良かったかな?)
《どうかしら。可哀そうだとは思うけど、だからと言って何の理由もないのに助ける必要もないと思うわ》
そんなジェルミーナを前に冷めた意見を交わす二人。すると、顔を伏せていたジェルミーナが涙をぬぐいながら立ち上がる。
「それでは、どうすればお兄様を助けて下さいますか? 私に出来ることであれば何でもいたします。あなたの奴隷になっても構いません!」
意思の籠った強い瞳で訴えかけてくるジェルミーナ。すると、後ろで見ていた他の亜人達からも声が上がる。
「私も……私も同じです! 出来ることなら何でもやります!」
「私も!」
「私もです! だからお願いします!」
次々と声を上げる亜人達、そんな亜人達を見てスピカにある考えが浮かぶ。
「あなた達って、家や服は作れる?」
唐突な質問に一瞬ポカンとなる亜人達だったが、口々に答えを返す。
「私は魔法で家を建てられると思います!」
「私は縫製の技術を持っています!」
「製織が出来ますので服は作れると思います!」
「皆様……」
亜人達の言葉に再び涙を浮かべるジェルミーナ、そんな彼女たちの答えにニッコリと笑みを浮かべるスピカ。
「わかった! じゃあジャンルーカを助けてあげるから、その代わりにお家とお洋服を用意してね!」
スピカの言葉にパァッと顔を明るくする亜人達。ジャンルーカを救うべく動き出そうとするスピカだったが静止の声が入る。
《待ったぁ!》
(え? どうしたのトレミィ?)
《せっかくだから私からも一つお願いよ》
そう言うと、トレミィは楽しげな声色で続ける。
《この子たち全員、今日から邪神トレミィの信者になること! 全員よ全員!!》
(え、トレミィって信者が欲しかったの?)
《べ、別にそんなんじゃないけど! せっかくだからって思っただけよ! 悪いの?》
(信者が欲しいなら素直に言えばいいのに)
「あの……スピカ様?」
足を止め押し黙るスピカを見て、いぶかしむジェルミーナ。
「あーゴメン、もう一個だけあった」
「はい?」
スピカの言葉に耳を傾ける亜人達。そんな亜人達にトレミィからの伝言を伝える。
「あなた達、今日から全員邪神の信者になること! 邪神を信仰して生きていくのよ、良い?」
「え? ……邪……え?」
戸惑う亜人たちを横目に戦況に目を向けると、ジャンルーカの前でアランが剣を構えるところだった。とっさに剣を握ると、亜人達を放置したまま、駆け出しながら剣を引き抜く。
「死ね!」
剣を振り下ろすアラン。死を覚悟するジャンルーカだったが、激しい金属音を上げアランの剣が受け止められる。
「……何のつもりだ? スラム女」
苛立たしげに声を上げるアラン。間一髪、アランとジャンルーカの間に滑り込み、剣を受け止めたスピカは、ニヤリと笑みを浮かべる。
「事情があってこの人達の味方をすることになったから、アラン達にはこのまま帰ってもらうよ」
スピカの言葉を聞き、アランのこめかみにピクリと血管が浮かぶ。
「ほぅ……いい度胸だスラム女、それなら先にお前を殺してやるよ」
受け止めていた剣を弾くと、ジャンルーカの前でゆっくりと構えを取るスピカ。
戦いは佳境に入る。
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