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12話:招かれざる客 ~悪~

※2019/10/18 タイトル変更しました。

「はっ、スラム女が、生きてやがったのか?」


 男の放つ一言に場が緊張に包まれるが、当のスピカはキョトンとした顔で首をかしげていた。


「スラム女? 私の名前はスピカだよ? アラン」


「あ? お前の名前なんか何だって良いんだよ。スラム育ちのクズはスラム女で十分だろ?」


 アランと呼ばれた茶髪の男は、吐き捨てる様にそう言う。


「なあモーガン、お前もそう思うだろ?」


「その通りだな。まともな教育も受けていないゴミだ、貴様の名前なんぞスラム女で十分だろう」


 モーガンと呼ばれたがたいの良い黒髪短髪の男が、ニヤニヤと笑みを浮かべながら答える。


「そっか……ラッセルもそう思うの?」


「あぁ? スラム女が僕に話しかけてくるなよ。身分が違うんだ身分が、僕の家は商家だし、モーガンの実家は騎士の家。アランは貴族だぞ? スラムのゴミが対等な顔で話しかけてくるな」


 ラッセルと呼ばれた黒い長髪の細身な男もスピカを罵る。


「それで? スラム女は何で生きてるんだ? 殺してやったはずだけどな」


「生きてたらダメなの?」


 男たちの罵倒も気にすることなく、スピカは無表情で質問を返す。


「お前、俺たちの渡した装備で瘴気の中に入って行っただろ? それで何で生きてるのかを聞いてるんだよ。わざわざ一芝居打ってまで瘴気の中に放り込んだのによ」


 アランの言葉にスピカは納得の表情を見せる。


「ああ! やっぱり行方不明は嘘だったんだね、私を死なせるために瘴気の中に入らせたんでしょ?」


「チッ、こいつ気付いてたのか? せっかく苦しんで死ねる様に色々用意してやったんだけどな」


「それで? 僕たちの策にも引っかからず、こうして無事ですとでも言いたいのか? スラム女のくせに生意気な……」


「その前にこの女、気付いてたのに瘴気の中に入って行ったのか! それでこんな所にずっと一人でいたのか? 正真正銘のアホだろう!」


 笑い声をあげる男たち。明確な悪意を向けられているにもかかわらず、飄々とした様子のスピカだったが、頭の中ではトレミィが大暴れしていた。


《こっ……こいつらっっ……この糞ガキどもがぁーーーー!! 許さないわ! 絶対に許さないわよおぉぉ!! 今すぐ私が殺し散らしてやるわ! おらぁ! かかってこらわぁえりゃあ~~!!》


 頭の中でガンガンと響くトレミィの絶叫に頭を抱えるスピカ。後半は何を言ってるのかも分からない状態である。収拾がつかないと判断したスピカは、怒り狂うトレミィは一旦スルーし、目の前の男達に集中する。


「それで、どうして私を殺そうとしたの?」


「うるさい女だな。そもそもお前、本当に俺達の仲間になれると思ってたのか? パーティに入れてやったのも最初から殺すつもりだったからだよ。最初から俺達の遊び道具だったんだよお前は」


「お前みたいなスラム育ちのゴミは僕たちが遊んでやるだけ幸せに思うべきだろ? 黙って利用されてれば良いのさ」


「どういう手段で勇者になったかは知らんが、貴様の様な育ちの悪いクズが勇者とは吐き気がする。誰も貴様を勇者とは認めていない、人間とも認めていない。要らなくなったら殺して当然だろう?」


《スピカぁーーーー! 今すぐこいつらを血祭りにあげなさーーーーいっ、ゲッチャンゲッチャンにして、地獄を味わわせてやるのよおぉわあああああ!!》


(ちょ、ちょっと落ち着いてトレミィ……)


 たじたじといった表情のスピカ。トレミィの怒りっぷりに頬を引きつらせていると、様子を伺っていたジャンルーカが前へ歩み出る。


「スピカ殿、今の会話であなたが奴らの仲間ではないとはっきり分かった。先ほどの非礼あらためて詫びよう」


「あ、うん、それは良いけど。もしかしてあいつらに追われてここに逃げてきたの?」


「ああ、その通りだ」


 スピカの問いに神妙な面持ちで答えるジャンルーカ。その答えに再び首をかしげるスピカ。


「アラン、私を殺そうとしたのは分かったけど、この人達を追っていたのはどうして?」


 スピカの声で笑い声を止める男達。鋭い目つきで睨みながらアランが口を開く。


「そいつらは亜人、つまり異教徒だ、俺達人間の敵だ。だがそんな異教徒にも慈悲深い俺達人間は、奴隷としての立場を与えてやってるんだ、それなのに……」


 そう言って忌々しい物を見る様な目つきで亜人たちを睨みつける。


「こいつらは逃げ出したのさ、そこの男エルフが先導してな! しかも俺たちがその女どもの代金を払った直後にだ、まったくムカいて仕方ない」


「奴隷なら奴隷らしく黙って俺達に使われていれば良いのだ。それを脱走等と、金を払った俺たちは恥をかかされたのだぞ」


「まったく、スラム女と言い異教徒と言い、ゴミクズ同士引かれあったのかね。ところでモーガン、お前の言う"使う"は別の意味だろ?」


 ラッセルの言葉に下卑た笑い声を上げる男達。聞いていた亜人達は目に怒りの色を浮かべているが、スピカは首を傾げたままだ。


「うーん……よく分からない。勇者は魔物と戦うものだって教会で教わったよ? 亜人の奴隷達に酷いことをするのは勇者の役目じゃないよ?」


 スピカの言葉に不機嫌そうな表情に戻るアラン。


「ゴミが勇者の何たるかを語るな、俺達こそが協会に認められた真の勇者なんだよ。それに、そいつらは異教徒だ! 殺してこそ世のためになるだろう?」


「アランの言う通りだな。亜人は魔物の使いとも言われている、その亜人どもから人間への抵抗心を無くさせることも勇者の使命という訳だ」


「魔物がいれば戦ってやるさ、だがここには魔物はいない。だから僕たちは勇者として、そこの異教徒どもを相手してやるのさ」


「ふーん」と興味無さ気にしていたスピカだが、横で聞いていたジャンルーカはあまりの怒りに拳を握り締めていた。そのまま前へ出ると、ナイフを抜きながら叫ぶ。


「貴様ら! 先ほどからどこまで我々を侮辱する! 許せん!!」


 ジャンルーカの叫びを聞き、男たちは醜悪な笑みを浮かべる。


「ああ、別に許してくれなくて結構。用があるのは後ろの女どもだけだ、お前はちゃんと俺たちが殺してやるよ」


「なっ……なんだと! 彼女たちには手出しはさせない! 貴様らは私が倒す!!」


 そう言って男達にナイフを向けるジャンルーカ。男たちは笑いながらも警戒した様子で等間隔に陣形を取る。ゆっくりと剣を引き抜くと正面に構え、ジャンルーカを睨みつける。


《ちょっとスピカ! どうして行かないのよ! あんの糞小僧どもを早くぶち殺してやるのよおぉぉをーーーー!!》


(うーん、だって私が戦う理由がないから……)


《何言ってるのよ!! あんなに侮辱されて許せないわよ! 百回くらい殺してやらないと気が済まないわ!》


(そうかなー? だってどうでもいい連中だし……)


 緊迫した状況にもかかわらずトレミィとの会話に意識を寄せるスピカは、そのまま間を開けて少し考える。その間も騒ぎ立てるトレミィだったが。


(私にとって大事なのはトレミィだけだから、だから他の誰に何を言われてもどうでも良いかなって)


《!!》


 スピカの答えに言葉を詰まらせる。少しすると、さっきまでの勢いは何だったのかと思わせる様な、か細い声が聞こえてくる。


《やっ、まぁスピカがそう思ってくれるなら私もまぁ良いわよまぁ! 私も……その……大事なのは……ス……スピカだけ……だすぃ》


(トレミィまた噛んでるよ、でもありがとう)


 「うぐっ」という唸り声を上げ静かになるトレミィ。そんなトレミィを想像しうっすら微笑みながら視線を戻す。直後、ナイフを構えたジャンルーカが男達に向かい駆け出していくところだった。


 ジャンルーカの動きに応じて、男達も駆け出していく。


 緊迫の中、戦いが始まる。

ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。


また、ブックマークやpt評価、感想も是非によろしくお願いします。

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