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11話:招かれざる客 ~亜人~

※2019/10/18 表記方法と内容を微修正しました。

 "亜人"


 大陸中央部の森林地帯、および山岳地帯を住処とする人間に近い姿形をした類人種である。


 エルフ・ドワーフ・獣人・ハーフリング・他にも数多くの種族が存在しており、いずれも人間と同等、あるいはそれ以上の高度な知能、技術、身体能力を持っている。


 彼らは国家というものを持たず、普段は種族ごとに小さなコミュニティを形成し、大陸中央部の各所に拠点を構え生活していた。


 亜人に共通する特徴として、それぞれの種族で得意分野が分かれていることが上げられる。例えばエルフであれば人間を上回る魔法の力を。ドワーフであれば鍛冶や建築等生産に特化した力を。という風に、種族ごとの得意分野においては、人間よりも秀でた能力を有するのである。


 かつてはそれらの技能を駆使し、人間社会との交流も活発に行われていたと言うが、今ではそういった交流はほとんど行われていない。


 原因は、人間による亜人への差別と弾圧である。


 百五十年前、人間社会の繁栄という目的の為亜人達の能力を利用しようとした東部正教会。しかし、それを良しと思わなかった亜人達により、東部正教会との抗争が勃発したのだ。結果、数で勝る人間に軍配が上がる。


 それ以来人間社会では、亜人=異教徒、あるいは魔物の使いとして認知され、差別や弾圧が行われる様になったのだ。奴隷の様に扱われる者や、亜人狩りと称していたずらに殺される者等、凄惨な迫害の歴史が刻まれることとなった。


 そして今、その亜人がスピカの住む廃村を訪ねてきていた。



★ ★ ★ ★ ★ ★



「なっ、何だ貴様は? どうしてここにいる!?」


 亜人の集団、その先頭にいた男が声を上げる。長い耳にスラリとした体形、薄緑の髪は幻想的な雰囲気を醸し出している。


「どうしてって、それはこっちのセリフだけど。あなたはエルフかな?」


「なっ……に……」


 スピカの答えに言葉を詰まらせる男性エルフ。その間にじっと亜人の集団を観察するスピカ。


(全部で十人、エルフが四人にハーフリングが三人、獣人が三人かな?)


《そうね、それにしても不思議な集団ね。荷物も持ってないし、ろくな装備もしてないわ、それにあの男のエルフ以外は皆女性じゃない》


 いぶかしげに様子を伺っていると、先ほどの男性エルフが前へ進み出る。


「貴様は人間だな、どうしてここにいるのか答えろ!!」


「人間だよ、ここに住んでるの」


「住んでいる? そんな馬鹿な、ここは邪神の土地だぞ」


 ざわめく亜人達。そんな亜人達に今度はスピカが質問を投げる。


「ねえ、あなたたちはどうしてここに来たの?」


「……貴様に答える必要はない」


《なっ、何よあの態度は!?》


 エルフの態度に怒りをあらわにするトレミィ。しかし、トレミィの声が聞こえないエルフはさらに言葉を続ける。


「ここに住んでいるだと?そんな言葉で誤魔化されるものか! 貴様もあの男たちの仲間だろう! 彼女たちには近づけさせん!!」


 そう言って後ろに控えていた女性の亜人達を庇う様に前へ出ると、腰に差していたナイフを引き抜く。


「薄汚い人間の女め、貴様はここで殺す!」


《ちょっと! なんてこと言うのよ!! 勝手に話を進めて許さないわよこの糞エルフ!! 私が相手をしてやるわよ! かかってきなさいよ!》


「あー……なんだろう……」


 いつの間にか殺意をむき出しにしてくるエルフ。そして、スピカにしか聞こえない声で罵声を浴びせるトレミィ。どうしようかと迷っている間にも距離を詰めてくるエルフを見て、とりあえずの対処をすることに決める。


「うん、わかった。勘違いだと思うけど刃物を抜かれた以上は返り討ちにするけど、良いよね?」


「貴様っ!!」


 スピカの言葉に激昂したのか、駆け出してくるエルフ。数歩進んだところでナイフを横なぎに払う。嫌な気配を感じとっさに伏せるスピカ、その真上を目に見えない風圧が通り抜けた。直後、スピカの後ろにあった廃屋の残骸が切り刻まれながら吹き飛ばされる。


(おぉ!? 今のは魔法? 直撃してたら危なかったかも)


《危ないじゃ済まないわよ! 真っ二つにされるわよ!》


「今のを躱すか、だが……」


 再びナイフを構えるエルフ。しかし、ナイフが振り下ろされるよりも先にスピカの足が動く。一気に駆け出したスピカは、狙いを定められない様ジグザグに動きながら、あっという間に距離を詰めて行く。


 エルフもとっさの判断でナイフを振り下ろすが、軌道を読んだスピカは易々とその攻撃を躱す。


 驚くエルフの隙を突き一気に眼前まで迫ると、持っていたナイフを蹴り上げ弾き飛ばす。そのまま体当たりで押し倒すと、覆いかぶさるようにマウントを取る。


「ふうっ、私の勝ち」


「ぐぅっ、クソッ! 離れ――」


「うるさい!!」


ガンッ!


 両腕を膝で押さえられ身動きが取れないまま、苦々しい顔を浮かべ声を上げようとするエルフ。しかし、言葉の途中でスピカの拳が顔面に殴りこまれた。


「ガッッッ……」


《良いわよスピカ! もっとやっちゃいなさい! そんなやつバッキバキのメッタメタにしてやるのよ!!》


ガンッ! ガンッ!! ガンッ!!!


「ガアッ、ぐぁ、っく……」


 トレミィの声を聞きながら、二発、三発と拳を振るうスピカ。反応が弱くなってきたところで静止の声が掛かる。


「もうお止め下さい!」


 甲高い声の方を見ると、小柄な女性のエルフが駆け寄ってくるところだった。そのままスピカを引きはがすと涙ながらに訴えてくる。


「お兄様から離れてください!もうあなたには逆らいません、奴隷にでも何でもなります、ですからお兄様を殺さないで……」


「ぐ……ジェルミ……よせ……」


 嗚咽交じりにすがり付く女性エルフと、息も絶え絶えの男性エルフ。周りで見ていた亜人達も涙を浮かべ視線を向けてくる。一方のスピカはそんな亜人達を冷めた目で見つめながら大きくため息をつく。


「はぁー、ちょっと聞いて!」


 スピカの声にビクリと体を震わせるジェルミと呼ばれた女性エルフ。そんなエルフを自分から少し遠ざけると、全員に聞こえる様に大きな声を張り上げる。


「まず! 私の名前はスピカ! 人間で、この廃村に一週間前から住んでいる!」


 人間と聞き、何人かの亜人が怯えた表情を見せるが、スピカは気にすることなく話を続ける。


「あなた達が突然やって来たから、なんだろうと思って話しかけただけ! なのに! 話も聞かずに私に危害を加えようとしたのはそこの男!」


 そう言って倒れている男性エルフをキッと睨み付ける。


「あなたたちの事は何も知らないし、別に危害を加えるつもりもない! 何か困ってるならボロ家ばっかりだけど好きにしてもらって構わない!」


 スピカの言葉に目を丸くする亜人達。


「でも! 私に危害を加えたり邪魔をする様なら排除する! そこの男みたいにね、わかった? 何か質問は?」


 スピカの言葉を聞きしんと静まり返る。少しの間を開け、倒れていた男性エルフが起き上がるとゆっくり近づいてくる。


「今の……今の話は本当か? あの男どもの仲間では……」


「嘘なんか言わないよ、それに男どもなんて知らないし」


「そうか、そうだったか……」


 そのまま顔を伏せると、ゆっくりと頭を下げる。それを見ていた女性エルフ、会話からして男性エルフの妹と思われるそのエルフも同様に頭を下げている。


「私の名はジャンルーカ、スピカ殿には申し訳ないことをした、こちらの早とちりで不快な思いをさせた」


「ジェルミーナです、私からもお詫びいたします、スピカ様」


《ふむ、やっとそれらしい態度になったわね! 私の勇者に無礼な態度を取るとどういうことになるか身をもって知ったってところかしら?》


 何やら一人で満足気なトレミィを放置して、スピカはエルフ達の顔を上げさせる。


「ジャンルーカとジェルミーナね。うん、まぁ分かってくれたならそれで良いよ。それよりあなたたちは何をしに来たの?」


「それは――」


 ジャンルーカが答えようとしたその時、亜人達の背後から別の声が上がる。


「おぉ? こんなところに逃げ込んでやがったのか」


 野太い男の声、その声を聞き小さく悲鳴を上げる亜人達。何事かと顔を覗かせると、そこには見知った顔が三つあった。


「あれ? アランにモーガン、それにラッセルも」


 そこにいたのは、一週間前までスピカと共に旅をしていた五等級勇者三名だった。向こうもスピカに気付いたのか一瞬驚いた表情を浮かべるが、すぐに卑しさのにじみ出た笑みに切り替わる。


「はっ、スラム女が、生きてやがったのか?」


 凶暴な視線を向ける男達。


 波乱の時は続く。

ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。


また、ブックマークやpt評価、感想も是非によろしくお願いします。

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