精霊 ムー
実はこの世界にでは昔、とある事件が発生しました。
その事件では人々の心が、邪悪なる者に支配されかけたのです。
その出来事は、とある人物によって治められましたが、その人物は姿を消してしまい、今後またあのような事件が起こってもピンチを救ってくれる人がいません。
そこで、その人物について情報収集すると、どうやら女神との契約が交わされていたそうなのです。
そしてその契約が交わされる際には必ず、「異世界転生をすること」が条件です。
なので異世界から来られた方々には協会と連携を取り合ってもらい、日々鍛錬に努めてもらいます。
そうすれば精霊にも認められ、より強力な味方となるでしょう。
「おい、相棒。なーに珍しく真面目口調で喋ってんだよ。」
そんな声が聞こえたと思えば、ネイロさんは天井をすごい速さで見上げ、
「ムー!!今日もカッコ可愛いよー!!」
今、目の前には周りにハートマークを撒き散らしながら小さな猫を抱きしめているネイロさんがいる。
あまりのギャップに俺は少しの間茫然としていた。
この時俺は初めて、“精霊”という存在に出逢い、ネイロさんの意外な一面を見てしまった。
「こ、こらっ// そんなきつく抱きしめられたら苦しいだろーがっ!」
ジタバタと抵抗する姿でさえ可愛かったらしく、ネイロさんはもっと愛で始めたので、ムーの魔法によって気絶させられている。
事が収まって、ムーがこちらを振り向いた。
「恥ずかしいところを見せてしまったようだな。それはさておき、我が名はムー!ネイロを守っている精霊だ。龍也は異世界から来たんだろ?頼りにしてるぜ!よろしくなっ!!」
これがギャップ萌えというやつか…!!外見はカウボーイのような格好で、カッコ可愛い。対して中身はニカッと笑う、大らかな感じでかっこいい!どうしよう俺、ムーに惚れそう…((
そんな馬鹿なことを考えながら、ムーの言っていた言葉を脳内リピートすると、ふと一つひっかかることがあった。
「俺の名前はもう知っているみたいだな。自己紹介は必要ないらしいから省くよ。突然だが一つ、聞いていいか?」
「精霊だからな、ある程度の情報は収集してるさ。契約した奴を守るのが仕事だからな。で、何なんだい?聞きたいことってのは。」
「ムーのさっきの言い方からして、異世界から来た奴は決まって頼りになるようだ。しかし、俺は頼りになるどころか迷惑かけちまう程の人材だと自称する。この世界に来たら何かチート能力でも与えられるのか?」
少しの沈黙の後、
「ふっ」
…へ?今、ムーに鼻で笑われたよな…。俺、結構真剣に聞いたのになぁ。少し涙目になっていると、
「はははははは!」
ついには思い切り笑われた。
「なんで笑うんだよ!」
「あまりに夢見がち少女ならぬ夢見がち少年の発想が面白かったからつい…w」
許せよ と、まだ少し笑いながら頭をポフポフと柔らかい肉球で叩いてくる。
可愛いし許してやろう。
だが、夢見がち少年というのは聞き捨てならない。
「許す。許すが!この俺のどこが“夢見がち”なんだ?!自分でいうのもなんだが、俺は結構、いや、かなり現実味を帯びた人間だ!そんな俺のどこが夢見がちだと?」
「異世界来たからってチート能力なんか与えられるわけないじゃないか。与えられるのは転生した人だけ。転移してきた人にはな~んにももらえるものなんてないぜ。それに転移してきた奴にはそんな能力必要ないからな。」
「必要ないことないだろ!その能力さえあれば、強いモンスターをたくさん倒してウハウハ生活だって夢じゃない…!!」
「この世界はそんな甘いもんじゃないぜ。それほどの能力、あってたまるもんか。こちとら必死で生きてるってのにバンバンモンスター倒して贅沢な生活するなんて、理不尽すぎるにもほどがあるぜ。」
まあ確かにそうだな。俺も理不尽なことは嫌いだ。
じゃあ何故俺にチート能力は必要ないという言い方をしたんだ?まるでチート能力なんかよりすごい力を持ってるみたいじゃないか…。
なんてな。そんなものが俺に備わっているはずがない。