8話「買い物には気を付けて」
私たちは食堂に行き、なんとも言えない味の朝食(食パンに七味がふりかかってマヨネーズが塗られた焼かれてもいないそれとコーヒーになぜかグレープジュースを混ぜたものとただキャベツが丸ごと乗せてある……といっても元いた世界とは異なりさらに収まるほどの小さくて可愛げのあるキャベツ)を食べた。
一度部屋に戻ると、そこにはユキさんが正座して私たちを待っていた。四つの布団は綺麗に片付けられて、机や椅子が中心にあった。
「ユキさん、ありがとうございます」
「では、買い物にはくれぐれも気をつけてください」
彼女はそう言うと、部屋を出て行った。
「そういえばユキさん、いつ来たの?」
「えっ?あなたたちが寝てる間に来てたではありませんか?」
花咲さんはつぶやく。
「いや、知らん。というか寝てる間にって言ってる時点で俺たち見てないね」
「そんなことよりも用意用意」
有川さんに促されて着替える。彼女たちと私たちは四枚ほどの障子を境に分けて浴衣から服を着替える。鏡がある方は彼女たちの窓際の方だった。
窓のカーテンで遮られても光っている彼女たちの影のシルエットがなんか色っぽいと感じてしまう。
私たちは宿屋を出て『お前らの服屋』という店に入る。
「ふむふむ、服はしっかり元いた世界と同じだな」
「試着室もありますね。覗かないでくださいよ」と花咲さんは私に言う。
覗くか!!というかもうすでに服を手にして試着してる彼女。幽霊のくせにオシャレか。
「ん?これはジャージ。しかも赤・青・緑・ピンク・黒か……ん?この服名、ヒキニートっていうのかぁ。へぇー」
私はそこにある服を親指を上にした拳で叩く。
「お客様ー、ヒキニートが泣いてしまいます」
いや、そこは服でよくないか。そう思いつつ、私は他の服を見る。
「スーツ……コート……ふむふむ。名前は違うが、元いた服とあまり変わりなしか。ふむふむ、この服はなんかオリジナルぽいな」
ある服を手にして試着室に入る。
「サイズはNを選んだが、大丈夫のようだ。長袖と長ズボンで種類違うのか。そして腰辺りにチャックがあってマントとフード付きか。便利といえば便利でかっこ悪いとか言えないレベルかな。名前は『ペンペンクサ』か。なぜ、その何したか不明だが、これにしよう。意外と安そうだし色別で五着ぐらいあればいいだろう。あとは下着か」
と独り言を言って下着を買いに行く。そこで下着を買う。そういえば荷物どうすればいいんだろうか。まぁ、袋貰えるか。
そう思いながらレジに向かう。そこには仮面を付けた女性がいた。
「ご利用ありがとうございます。合計で五千クソッタレになり、旅はじめということなので二千クソッタレになります。また特典としてカバンも用意しておきます」
「ありがとうございます。はい、こちらで」
「はい。二円ですね。カバンに入れてもよろしいでしょうか?それとも袋に詰めた方がよいでしょうか?」
「カバンで」
「ありがとうございます。……はい、こちらになります。ご利用ありがとうございました」
私はしばらく三人を外で待つ。やはりさっきから追いかけてきてたな、あの子は。どうするかな?
そう思いながら電柱の向こう側でこちらを見る女性を見つめるのだった。
私は彼女の方へ向かおうとするが、後ろから誰かに引き留められる。
「ん?花咲さん、買い物終わったの?リュックとか見えないけど。あっ、もしかして幽霊だから買えなかったとか?」
「いえ、買えましたよ。ただ私とあなたの空間では異なります。私のようなゴースト空間は実際に持つ物を戦闘時に使用しない限り重量などは軽くなり、宙に浮いたりと色々便利なのです」
「なんだ、そのチート作用は。それって俺にもできるの?」
「えぇ、もちろん。ただ完全に死んで神に伝えない限りできないと思います。ちなみにこの世界では一度死んでしまうとあなたは新たな次の世代の仲間と旅に出ないとなりません。それに可憐でクールビューティーな私のようにナビをしないといけません。問題はほかにもあります。私たちはあなたが転生した後、悲しくまるでお通夜のような旅をしないといけないことも頭に入れておいてください」
「つまりそのためのことに死んでほしくないということですね」
「はい、その通りです」
「じゃあ、しないよ」
私と花咲さんが話してる間も柱の向こうにいる彼女はこちらを見ている。花咲さんはそんな私の視線に気が付いたのだろう。得意の浮遊で体を浮かせては消えて、彼女の背後にいた。
「そこまでです!!」
花咲さんは彼女にいきなり声をかけた。するとそこにいた彼女は柱から尻もちを付くかのようにこけた。そこにいたのはやはりユキさんだった。
「いたたたた。花咲さん、いきなり出てくるのは卑怯ですよー」
昨日、花咲さんといつの間にか寝ていたあんたが言うな、と思いながら彼女たちに近寄る。メイド服のスカートからパンツが見えそうである。いや、ごめんなさい。見えてます。
「ユキさん?何してるのですか?」と花咲さん。
「そこにいる彼や他の輩に花咲様が襲われないようにするためです。あの……私のパンツをじろじろ眺めるよりも手を差し出してくれないのかしら?それとも私をここで恥ずかしいことをさせられるのかしら」
「おい!!……ったく、こうすりゃいいんだろ?」
私は彼女に手を伸ばす。私の手を掴むと彼女は立ち上がった。そしてにこやかに微笑んで、「ありがとうございます、最低男さん」と私に言う。なんだろう、嬉しいはずなのに嬉しくない。そもそも私には『吉田健三』というどっしりとした名前があるんだから『最低男』言うな!!そう思いながら近付いてくる男女の声に顔を向けるのだった。